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頂点少女は全てを守る  作者: 奈坂秋吾
Episode:3 変化の兆し
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13/33

3-3

「はふっ……はふっ……ふん、むん、むん、あああ美味しい! 美味しいし、快ッ感!」


 外側はかりかり、中はふわもち。そして餡子の甘味が口いっぱいに広がり、私の心は幸福に満たされた。

 タイ焼き……禁忌のお菓子。私は甘い物が大好きで、二番目に好きなのが魚だ。ネコ科獣人族の性なのか、魚のフォルムを見ると興奮を覚え、咥えると快感を得られる。


「大金手に入れてタイ焼きって……安上りなやつねぇ。せっかくなら高級スイーツ店でケーキでも食べればよかったのに」

「うるさいですよ、おっぱいお化け。初めて見かけ時からずっと食べたかったのを我慢してたんです。気持ち良く食べさせてください」

「はあ? これが初めて? たかが百円ちょいのものを何年も我慢してたっていうの?」

「ミコナ先輩はストイックですねぇ。いくら『子宮』が欲しいからって、よくまあそこまで我慢できますよ。せっかくですし、ライアのクレープも一口食べますか?」

「食べりゅ! あっ……こほん……ではありがたくいただきます。ちなみに一口のサイズは? 結構がっつりいっていいですか?」


 ライアにクレープを口いっぱいに詰め込んでもらっていると、「あっはっは! ミコナさんも大分打ち解けてきましたね!」とルカが笑い出した。


「ミコナさんの食べっぷり見てたらワタシも何か食べたくなってきました! 確かこの地下街の上に大きな商業施設があるはずなので、レストランにでも行きませんか? で、そのあと和服屋に寄らせてください。私、この日本という国のお祭りで着る浴衣っていうのに興味があるんですよねぇ」

「じゃあじゃあ、その次はドレスショップで! ライア、ずぅぅ……と前から綺麗なドレスに憧れてたんですけど、今まで着る機会がなかったんです! ……そう、父上がわたしを男として育てようとするから……」

「んじゃあたしはアバターのパーツショップね。更にでかくて形の良い『胸部パーツ』を見つけてやるわ!」

「待ってください、みなさん。私たち食べ歩きばっかりで調査が全然進んでませんよ。そろそろ真面目に取り組まないと怒られるんじゃないでしょうか」

「大丈夫ですよ、ミコナさん。これでもワタシ『調査官』ですから、買い物しながらも周囲に目を配らせていましたし、みなさんが買い物してる間にもNPCの挙動とか調べてたんです。問題にはなりませんよ」


 ということでまずはレストランへ行きましょう! とルカは地上に向かう通路へと進んで行く。リリンとライアの二人もうきうきと後をついていった。

 かくいう私も「まあいっか」と食欲に負けて後を追うのだが……不意に前を歩く三人が足を止めた。


「あ、あれれ、ここってまさか……」


 前方を見つめながらルカは驚いた様子で呟く。

 何だ? と私は彼女の横から前を覗き込み、「あっ」と思わず声を漏らした。


「げ、現実のあたしたちがいるところ……よね?」

「ええ、ライアたちが巨塔に繋がれている『箱舟』に入ったところですよ。地下街への道とかはなかったですけど、でも……」


 右手にはコインロッカーがあり、前方にはエスカレーターが三機並んで地上へと伸びている。現実では、今私たちが立っている場所に『箱舟』があった。

 脳内にこの地下に下りる前の地上の光景、そして巨塔とこの空間の位置関係が浮かぶ。

 何を言うでもなく、私たちは駆け足でエスカレーターを上り、出入口から外へと出た。

 そして現実世界では巨塔があった方を向くと、そこには電波塔がそびえ立っていた。


「こ、これはまさか……あの電波塔が、現実世界の巨塔だったりしますかね?」

「あの電波塔があったところに新たに建てたものか、改造してあの巨塔にしたって感じじゃないかしら?」

 

 ルカとリリンは塔を仰ぎ見て、私が考えていたことと同じ想像を口にした。

 ただライアだけは周囲を見回し、


「以前、近くまで足を運んだことがあるんですけど、人気スポットらしくてすごい混雑してたんです。でも、この『アナザーアース』では不自然なほど誰もいませんね」


 目の前には広大な商業施設があり、電波塔の根元まで続いている。なのに人っ子一人存在しない。施設の中に入り見回してみても、客どころか店員すら存在しなかった。

 そのまま中を突き進んでいくと電波塔へと到着するのだが、やはりその中も無人。館内は静まり返っていた。


 開かずの巨塔と電波塔。そして不自然なほどな静寂……何か関係があるのだろうか?

 この世界の秘密に迫っている予感を胸に奥へと踏み込んで行く。

 すると、エレベーターホールにさしかかったところで、


「『アナザーアース管理権限第二号の遺伝子コードを確認。生体機器ナンバー902を次世代【管理者】として登録いたしました。スカイゲートタワー外部管理エリアへのロックを解除。中枢エリアへと急行してください。田淵より緊急招集が発令されてから、千百九十年と百四十八日、四万三千二百五十一秒経過しております。中枢エリアへと急行してください』」


 突然、フロアにアナウンスが響き渡った。それと同時にすぐ横のエレベーターが開く。

 今のアナウンスから察するに、乗れば中枢エリアとやらに連れて行ってくれるのだろう。もしかしたら、私たちは運よくこの世界の核心に辿り着いてしまったのかもしれない。

 違ったとしても何か情報を得られるはず。ならば行くべきだろうと私は思うのだが、「あ、ちょ、ちょっとミコナさん? 乗っちゃうんですかぁ?」とルカに引き留められた。


「そりゃまあ。この世界の重要施設に続いているみたいですし、調べないなんて手はないでしょう?」

「でも、どうして中枢エリアに行けるようになったのか、不気味じゃないです? もしかしたらこの世界の防衛機能が起動した、なんてことも考えられます」

「ああ、それはおそらく私がいたからですよ。先日黒助……じゃなくて、【聖天使】の専門家に聞いたんですが、『アナザーアース管理権限第二号』っていうのは聖天使ラファエルのことなんだそうです。その権限を私は受け継いでいるので、それを読み取って開いてくれたんだと思います」


 来ないなら一人で行ってしまおう。そう思ってエレベーターに乗り込むと、三人も少しためらった後に乗り込んできた。


「はは……乗っちゃいましたね。ワタシたち、どうなっちゃうんでしょう……」

「急行してください、だなんて言ってたわよね。この世界で何か問題が起こってるのかしら?」

「さあ、それを調べに行くんじゃないですか。……ところでライア、顎に手を当てて何を考え込んでるんです?」

「そのぉ、さっきのアナウンスで『タブチ』って名前が出ましたよね? どこかで聞いた名前だなぁって思うんですけど、どこで聞いたんだったかなぁと」


 うんうん唸っていたライアだったが、不意に顔を上げて「ん?」と声を漏らした。


「このエレベーター。下に向かってませんか? 展望台行きじゃないんですね」


 動作がとても緩やかで気づかなかったのだが、意識を向けてみれば確かに下降している感覚がある。電波塔といえば【遠隔通信魔法】を機械的に実現させたもののはずで、重要なパーツは上部に存在するイメージがあった。


 もしかしたら地下にも重要な施設があるものなのかもしれないけど、それにしてもこんなに深いところに作るだろうか? これはデータの世界という都合によるものなのか……現実世界の『巨人の化石』の地下にも何かが隠されていたりするのかもしれない。


 などと考えていたところ、エレベーターが急激に速度を落とした。

 途端、明かりが真っ赤に染まり、警報が鳴り始める。あまりのけたたましさに三人は耳を手で塞ぎ、私は耳をきゅっと横に引き絞った上で更に手で抑えつけた。


「あばばばばばばッ!? だ、誰か音止めてッ! あ、あああ頭割れるゥ!!」

「ちょっと! 誰か変なところ触った!?」

「ルカ先輩! すみません、翼の中に入ってもいいですか!?」

「あっ、こら、翼に頭突っ込まないで! せっかく綺麗に整えたんですから!」


 エレベーターが停止し扉が開く。慌てて飛び出すが、その先も警報が鳴り響いていた。

 その空間を形作る周囲の壁は巨大な棚のようになっている。夥しい数の『箱舟』がびっしりと収納され、はるか頭上まで続いており、中央にそびえているタワー型の機械から伸びるアームが順繰り『箱舟』に触れては光や火花を発していた。


 そして中央のタワーの根元にある機械の周りでは無数の『人間』たちが右往左往していた。しかしNPCとは違い、体は半透明で実体がない。確か、害のない『幽鬼(ゴースト)』みたいな存在で……そうだ、『ホログラム』というやつだ。


『あ、あー、もう撮影は開始されてるのか? ……うん、いいね。やあ、そこにいるのはウリエルか、ミカエルか……距離を考えるとラファエルが一番に来てくれるのかな?』


 突然目の前に男性の『ホログラム』が現れ語りかけてくる。着ている白衣の左胸のところに『田淵』と刻まれたネームプレートをつけていた。


『緊急事態であることはもう聞いているな? 現実の方の『箱舟』に異常が発生しているらしく、システム調整用のこの空間からのアクセスが出来ない状態にある。予定人数の収容も終わり、作業員もほとんどがコールドスリープし終えて『アナザーアース』へ来てしまったため直接出向くこともできない。管理AIが応答しない以上、中を調べる方法はないんだ。ただ――』


 その男は一歩横に移動し、タワー型の機械の根元にある台座のようなものを手で示した。

『本来、地球が住める環境に戻った後、私たち人間を休眠から解除する時に使うものだが……【管理者】ならば、あの端末に触れることでスカイゲートタワーを開錠し、休眠ルームへ入ることができる。人類を滅亡させようと各地の休眠基地を破壊して回ってる『破滅信仰者』対策で、このデバッグルームに開錠システムを隠しておいたんだ。スカイゲートタワーには二十万人の人間の他、VIP用の『箱舟』も保管されている。もし問題が起こっているようなら必ず排除し、修繕してくれたまえ』 


 言い終えた男の『ホログラム』はふっと消える。かと思ったら、再び現れ同じセリフを繰り返し始めた。『ホログラム』は記録されたもののようで、本人がそこにいるわけではないらしい。


「大変なことになってるみたいですけど、ライアたち、何かしないといけないんですかね」

「んなワケないでしょ。このホログラムは千年以上も前の光景を残したものだもの。ただ、ヒントはあったわね。スカイゲートタワーってのがおそらく『巨人の化石』のことで、さっき示された台座みたいな機械に触れたら扉が開くってことじゃない?」

「ええ、リリンさんの言う通りだと思います。でも、今は触れずに一旦リーダーさんたちと合流しましょう。もし本当に巨塔の扉が開いてしまったら、外で待機してる人たちが中に入っちゃうかもしれな――って、ミコナさん!? ちょっと待ったぁぁぁああ!!」


 え? と振り返った時、私はすでに台座の上に描かれていた手のひらマークに自身の手を重ねていた。


『アナザーアース管理権限第二号の遺伝子コードを確認。スカイゲートタワー、封鎖を解除。緊急により、強制ログアウトを開始します。管理権限第二号はスカイゲートタワーへ急行してください』


 見えているもの全てが粒子となって崩壊し、流星のように遥か彼方へと飛んで行った。世界は暗闇に染まり、私はヘッドギアを外して『箱舟』の蓋を押し上げた。


今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)


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