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頂点少女は全てを守る  作者: 奈坂秋吾
Episode:3 変化の兆し
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12/33

3-2

 現地集合とのことだったので、私たちはお昼を食べた後すぐに出発し、『巨人の化石』へと向かった。

 三時間ほど歩けば大陸の東端にある断崖絶壁へと行きつくのだが、ラファエル領はそこで終わりではない。大陸から海を挟んで一キロほど離れたところにあり、巨大なつり橋で繋がっている列島も含まれている。

 その橋を渡ってしばらく進むと丘陵地帯に行きつき、一番高い丘の上に登ると空を貫かんとする巨塔が目の前にあられた。これが『巨人の化石』だそうだ。


「おー、ミコナぁ! お前もメンバーに入ってたんだなぁ! みんな待ちくたびれてるから、さっさと来てくれ!」


 武装した冒険者たちの集団の中から、粗野な声が聞こえてくる。ソウガおじさんが私に向かって手を振っていた。


「おじさんも来てたんですね。護衛班ですか?」

「俺ぁ『箱舟』も、あかうんと? も持ってねえからな。何か面白ぇもん見れねえかと思って野次馬しに来たのよ。そんじゃ、お前さんたちはこっちへ来てくれ。『箱舟』は地下にあるんだ」

 

その巨大な白い塔は根本から頂点にむけて細長くなっており、仰ぎ見ると展望台のようなものが見えた。根本には出入口らしき機械の扉があるが、がっちりと閉じている。

 その扉から少し離れたところに冒険者たちが集まっており、足元にぽっかりと開いている穴を守っているようだった。どうやらそこが最近発見された古代遺跡の入り口らしい。私たちはおじさんの指示通り、揃って中へと下りて行った。


「おや、これはエスカレーターですね。現物を見るのは初めてですよ」


 手すりはゴム製で、ぎざぎざの黒い金属でできているその階段は、『アナザーアース』で見たことのある昇降装置である。古代の超技術が施されていたらしく、『アナザーアース』にいるような気分にさせられるほど完璧な状態で残っていた。


「何なのかしら、ここ。あたしが今まで見てきた遺跡って、何かを作る装置があったり、古代の兵器が保管されてたり、ものものしい感じがしたけど……ここは何というか、ただの『通路』みたいな感じしない? ほら、壁に描かれてる矢印とか、天井から提げられてる案内板とか、それっぽいでしょ?」

「ライアも同じこと思ってました。『アナザーアース』の地下鉄を繋ぐ通路に似てますよね。ほら、下りた先のあの金属の箱って、コインロッカーじゃないですか?」


 私はお金節約のために地下鉄を利用したことはないのだが、移動のためにコンコースを歩くことは度々あった。ライアの言う通り、近い雰囲気がある。


 しかし、エスカレーターを下りた先の壁に囲まれた広場は異様な光景が広がっていた。

 『箱舟』が合計七台、円を描くように並べられており、その『箱舟』より伸びているケーブルが床に張り巡らされ、一つにまとまって壁の向こう側へと伸びている。何かの儀式場に見えなくもない。


「お、魔族の君……リリンちゃんだっけ? そっちの三人が、連れて来るって言ってた子たちだな? 俺は今回の調査クエストの依頼主であり、調査班のリーダーを務めるモルダだ。よろしくな」


 待ち受けていた三人のうち、緑色の鱗が生えている竜人族の男が話かけてきた。「どもども、よろしくお願いします!」「りょーかいよ」「頑張ります!」と三人が挨拶するので、私も「こんにちは」と続いた。


「すでに聞いてるかもだけど、巨塔の周りを掘り返してみたら太いケーブルが見つかって、追っていったらこの遺跡を見つけたんだ。ケーブルはここの『箱舟』と巨塔を結び付けていて、データのやりとりをしているようだ。ほらケーブルの根元がちかちか点滅しているだろう? 巨塔と『箱舟』は干渉しあっているんだよ。だから、この『箱舟』を上手く使えば『巨人の化石』に息を吹き返らせることが可能なんじゃないかと思うわけだ」


「あなたがこの『箱舟』を試してみた人ですか? 『アナザーアース』に接続できたけど様子がおかしかったというのは?」


 私が訊ねると、「見てもらった方が早いと思う。ひとまず『アナザーアース』に入ることにしよう」と言うので、私たち四人とモルダさん、あと私と同じネコ科獣人族の女と全身毛むくじゃらのクマ科獣人族の男は、思い思い『箱舟』を選んで中に納まった。


 寝そべるスペースのクッションがちょっと硬いぐらいで、私が所有している『箱舟』と変わりはない。ヘッドギアを装着して起動を待つ。

 暗闇の中に無数の流星が渦を巻きながら迫ってくる。輝くトンネルの先にある白い世界へと飛び込み――


『ようこそアナザーアースの世界へ Welcom to Another Earth Ver30.40 Debug Mode』


 そんな文字が目の前に現れた次の瞬間、私は灰色で硬い地面に降り立った。

 ん? 起動画面の文章、文字数が多かったような……と考えてたところ、「よし、無事全員入れたようね」と背後より声が聞こえてくる。


 振り返ると、いつもの三人が制服姿で立っていた。現実でパーティを組んでから『アナザーアース』で顔を合わせていなかったので、年齢詐称のメガネ女子に、体型詐欺の馬鹿乳女、別人疑惑のちびっ娘に若干久しぶりな感覚を覚える。

 それはともかくとして……なんだろう。三人のすぐ横に、ブロンドヘアーの美女と入れ墨だらけの超ムキムキ男、パンツ一丁の姿で全身つるつるの巨漢が立っていた。


「じゃあ話の続きをするわね。ここ、見ての通り浅草の雷門前なんだけど――」


 ブロンドヘアーの美女がいきなり話し始めるので、「いやちょっと待って!」と私は思わず制止してしまった。


「話の続きって……まさか、調査班のリーダーですか?」

「ええ、そうよ」

「え、でも、どうして女? あんないかつい竜人族の男が、なんでこんな美女に……」


 するとリーダーは呆れたように手を腰にあて、「何よ、文句ある?」と不満を表した。


「現実では叶わない理想の姿になる、それがこの『アナザーアース』の醍醐味じゃない。姿を指摘することは、その人の心に踏み込むこと。だからこの世界で見た目に触れるのはマナー違反ってものよ」

「は、はあ、そうなんですかね……?」


 そうは言われても気になるものは気になる。リーダーの背後の二人は……おそらくつるつるの方がクマ科獣人族だろう。毛むくじゃらが嫌だったからこそ毛を排除したんじゃないだろうか。

 となると横の盗賊団頭領みたいな極悪顔のマッチョがネコ科獣人族の女になるが……一体なぜその姿になったのか、非常に気になる。気になり過ぎて体がむずむずする。


「それで向こうを見て欲しいんだけど、壁があるのがわかるでしょ?」


 リーダーが指し示す方を向くと、薄っすらと青いガラスのようなものがそびえていた。この浅草と、スカイツリー周辺を閉じ込めるように囲んでいる。


「様子がおかしいというのは、つまりこういうことなの。調査するにしても一人でこの広さを探索するのは大変だから、こうして人を集めたってわけ」


 リーダーの美しい腕のラインに眩暈を覚えながら、私は「な、なるほど」と頷いた。


「この広さだから、まずは一周ぐるりと見て回って、情報を照らし合わせてみましょう。それで気になるところがあったら、みんなで重点的に調べるっていうのがいいんじゃないかしら。あなたたちはパーティみたいだから、私はこっちの二人と行動するわね。私たちは西に、あなたたちは東方面へ向かってちょうだい。北で落ち合いましょう」


 了承を口にすると、リーダーとマッチョ、つるつる男はさっそく行ってしまった。

 リーダーのキレの良い歩き方に「練習したのかな?」と興味を惹かれるが、マナーがどうのと叱られたばかりだ。口にするのをぐっと堪え、自分たちもさっさと調査に向かおうと仲間たちへ振り向くのだが……なぜか全員どんよりとした顔をしていた。


「あの、ずっと黙ってますけど、どうしたんですか?」

「いやぁ……現実でみなさんに初めてお会いした時のことを思い出しましてねぇ……」

「こうしてさぁ、理想を求めて現実とかけ離れたアバターを作り上げたけど……でも他人のやり過ぎなアバターを見たらさぁ、ちょっと痛いなぁ、って思っちゃったのよねぇ。でもその感情は自分に返ってくるわけで……」

「ライアはリーダーさんの苦しみが分かったような気がして、それで悲しくなってしまいました……生まれによってなりたいものになれない、あの苦しみはよく分かるんです……」

「そこまで見た目変えておいて、何を今更……ほら、お仕事なんですからしゃきっとしてください。ライアもよく分からない感傷に浸ってないで行きますよ」


 三人を連れ立って歩き始めるのだが、どんよりしたまま立ち直ってくれない。仕方なく一人で辺りを調べてみるが、浅草周辺が壁で囲われている以外変わった様子はない。

 ただ、私の本体である改造された肉体はしっかりと『アナザーアース』に接続されているというのに、「この世界ではない」という感覚がある。このアバターも新品のような感じで、いつも使っているアバターは別の世界に存在しているのが感じられる。


「――ふむ、ここはデバッグルームのようだが、【聖天使】の肉体にアクセスしているわけではなく複製されたデータの中にいるようだな。しかし、そんなものがなぜこんなところに隠されていたのか……」


 不意に聞こえてくる黒助の声。

 なんだって? デバッグルームってなに? と私は心の中で訊ねた。


「――デバッグルームとは、不具合やその修正、正常に動くかの確認を行う機能のことだ。試しにメニューウィンドウを開き、残高を見てみろ」


 言われた通り、右手をあげて宙を払うように動かしてメニューウィンドウを開く。

 そしてウィンドウ下部の残高を確認し、私は目を剥いてぶっ倒れそうになった。


「な、ななななにこれ!? 一、十、百………………百億円!?」


 何度数え直しても結果は変わらない。とんでもない大金が振り込まれている。

 私の大声で我に返った三人に、「みんなは!? 残高どうなってますか!?」と確認するよう促してみた。三人は怪訝な顔でメニューウィンドウを展開するのだが、すぐに表情を変えて私と同じように声を張り上げた。


「な、何ですかこのお金は!?」

「なに、ルカも百億あんの!? もしかして全員!?」

「ら、ライアの残高もおかしくなってます! これどうなってるんですか?」

「え、えーっと、ここは不具合の修正とか、動作の確認を行う場所だそうで、このお金はちゃんと買い物できるかどうかの確認のために用意されていたものだそうです。いつも使っている『アナザーアース』とは違う世界みたいですよ」


 説明しながら、私はアバターパーツの購入ができる『ショップ』タブから『子宮』を探す。動作

を試す場だというのなら、アバターパーツが機能するかどうかも試せるはずだ。

 だが、色んなアバターパーツの中に、目当てのものはなかった。やはり、私の知っている『アナザーアース』ではないということらしい。


 がっかりしてしまうが……ここでママの本当の子を復活させても会わせてあげられるわけでもないのだから、結局は意味のないことだ。

 そう納得してウィンドウを閉じたところ、「こ、これだけお金があるのなら、豪遊し放題……ですよね?」というライアの呟きが耳に届いた。見れば三人とも目をぎらぎらさせて欲望を漏らしまくっていた。


「どうせ『ショッピングしたいなぁ』とか考えてるんでしょうけど、ダメですからね? 大分遅れが出てますから、早く調査に行きますよ」

「でもミコナさん。この世界のどこに塔へと影響を与えるものがあるのか分からないんですよ? ならNPCと触れ合うことも必要だと思うんです」

「そう、ルカ先輩の言う通り! ショッピングだって調査の一環なんです! だから、ね? いっぱい買い物して、いっぱい食べ歩きしましょうよ!」


 ルカとライアが迫って来て、嫌らしい笑みを近づけて来る。リリンは背後へと回ってくると、そっと耳にささやきかけてきた。


「ミ・コ・ナ……あんたいつも節約節制でお金使わないけどさ、本当は欲しいものがあったり、食べたいものがあったんじゃないの? さあ、せっかくの機会なんだから、すべて解放しちゃいないさい。何が欲しいの? どんなことを我慢してたの? ほら、全てを打ち明けちゃいなさい……」


 悪魔の囁きに理性が揺れ動く。

 待て、駄目だ、私。巨塔の中に眠っているかもしれないギフトカードのため、この調査を完遂しなければ――と必死に抗うのだが、


「ほぉら、リリンさん。町ブラ、しーましょ?」

「ミコナ先輩、以前食べたクレープ美味しかったですよね? また、食べに行きましょ?」

「ほらほら欲望を曝け出しなさいよぉ。気持ち良いわよぉ? やりたいことやるのはさぁ」


 三人に迫られ、甘言で心を撫でられる。

 私はごくりと唾を飲み込み、先ほど見た残高を思い出す。

 あのお金を自由に使えるとしたら、私は、私は――

今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)


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