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頂点少女は全てを守る  作者: 奈坂秋吾
Episode:3 変化の兆し
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11/33

3-1

 私が改造亜人であることを知っている人の中には、私のことを『生体兵器』と呼ぶ者がいる。ある意味間違ってはいないけど、真実とは少し違う。


 私の正体は、【聖天使】のような『生体コンピュータ』の『なりそこない』である。


 魔法の力を独占するために、ある組織が【聖天使】と同じ機能、力を得るため一人の亜人に【聖天使】化実験を施した。その被験者というのが、私。実験は失敗で廃棄されたのだが、ママとママの本当の娘に助け出され、今私は生きている。


 その時ママの本当の娘は死に、ママは自身の記憶を封印しなくちゃいけなくなったのだが……まあとにかく、生存した私は、【聖天使】と同じく常に『アナザーアース』に接続された存在になった。


 とはいえ失敗作の私である。完璧なまでに【聖天使】と同じなわけではなく『外部端末』に近い存在で、最も近くにいる【聖天使】に遠隔で接続されている状態にある。

 これが、私が『加護』を付与されていないのに多種多様な魔法を扱える理由。

 『アナザーアース』を構成する【聖天使】たちより、『加護』をダウンロードするみたいに獲得できるのだ。巡り巡って手に入れたこの力、いや『機能』によって、様々な属性の高レベルな魔法を使うことができる。

 ただ……ダウンロードが『無料』ではないというのが大いなる欠点だ。


   ***


「……よし、作戦開始!」


 私が呟くのと同時に、お昼の成田空港内に突如として火災警報が鳴り響いた。客を演じるNPCや別エリアへと移動しようとしていた『アナザーアース』利用者たちは何事かと慌てふためき、やってきた職員の指示に従って避難を始める。

 そんな様子を見下ろす私は、狭いダクトの中にいた。体型変更アイテムの中でもかなり高価な物で強引にネズミサイズになっており、制気口から空港内の混乱が収まっていないことを確認しつつ目的地へ向かう。


「――……まさか本当に実行に移すとはな。空港は他の【聖天使】が管理する別のエリアへと移動するための港だ。プレイヤーが訪れているであろうから現実でも大事になるぞ」


 内なる黒助ドラゴンが驚きと不満交じりに言うので、「何を今更」と私は返した。


「前々から相談してたでしょ? 空港の管理システムをいじって代金を偽装したらどうかって。成功したら、圧倒的に魔法を使いやすくなるじゃん」

「――フン、それは確かにそうだ。しかし、お前の能力は類を見ない強力な力だが……航空チケットを買わなければというのは本当に難儀な話だな」


 そう、黒助の言う通り、『アナザーアース』から『加護』を得るためには、他の【聖天使】が構成する別エリアへ行きの航空チケットを買わなければならない。

 私は今、ママに接続することで『アナザーアース』に干渉している。だからママの『加護』は無尽蔵に得られるのだけど、別の【聖天使】の『加護』を得るには別エリア行きの航空チケットを買い、ポートを開く必要がある。


「『円』が欲しいから戦いに出向くのに、その度に『円』を消費しなくちゃいけないんだもん、酷い話だよ。アジアとかヨーロッパとかエリア分けせず、ずっと接続しっぱなしにしてればいいのに……」

「――『加護』とは『環境開発マシン』を起動し、化学反応を起こさせる『信号シグナル』であることは理解しているな? 【聖天使】には扱える『信号』が決められているため、使用不可能な『信号』が流れ込み過ぎるとエラーを起こしてしまうのだ。だからこの空港という施設によって流入を抑えなければならん」

「つまり、何が何でも航空チケットを使わないと魔法が使えないと?」

「――強力な力には代償がつきものだ。受け入れるしかあるまい」

「分かってはいるけどさ……でも、抗いはするよ。チケット代が必要なくなれば『円』も稼ぎやすくなって、それだけ早くママの心を救えるんだから」


 目的地へと到着した私は、制気口より飛び降りた。

 サイズを元に戻す操作をしながら落下、そして着地。

 そこはたくさんのデスクと椅子がずらりと並んでいる『運用情報センター』の中だった。空港内の各種設備や装置を管理するところだと聞いたので、きっとチケット売り場で求められる代金をいじくれる機械があるはず。

 計算通り、火災警報を鳴らしたことでセンター内は無人である。これでやりたい放題だと私は浮かれるのだが、


「はい、そこまでよぉ。ゆっくりと手を上げなさいねぇ」


 デスクの影から『警官』という、現実世界で言うところの治安維持隊の隊員が現れた。『拳銃』を突きつけられ、私は慌てて手を上げる。


「え、え? ママ? もしかして、この人らママが操作してる?」


 訊ねると、近くにいた女性警官が帽子のつばを上げ、ママそっくりの顔を向けてきた。


「はい、ママですよぉ。何だかむずむずするなと思って見に来てみれば……これはどういうことかしら、ミコナ?」

「あわわわわっ! ち、違うの! これは、あの、ちょっと探検に、ねっ!?」

「あらあら、ミコナもやんちゃになったものね。でもこんな騒ぎを起こしてまで立入り禁止区域に忍び込むのは、さすがにおいたが過ぎますよ」


「ご……ごめんなさい。でもね、後々ママのためにもなることなの。だからお願い、見逃して! 数分だけでいいから! じゃないと体型変更アイテムのお金が無駄になっちゃう! あれ、結構高かったんだよぉ!」

「だぁめ! 例え娘のあなたでも、誰かに迷惑をかけることだけは見逃せないわ。それでも問題を広げるっていうなら、罰金刑では済まないわよ」

「えっ、罰金刑!?」

「分かっていたことでしょう? この世界で問題を起こしたら『円』を没収されるって」

「そ、そそそそ、そうだけど! そうだけどもぉ!」

「ついでの罰として、『お昼ごはん一緒の刑』よ。さ、現実に戻って来なさい。今日はあなたの大好きなオニサンマのパイ包みよ」


 メニューウィンドウが強制的に展開され、勝手にログアウト画面へと遷移してしまう。

 あっ、あっ、と焦っていたら、視界の隅に残高も表示された。そこから五十万円も減らされてしまい、「ナァーッ!!」と私はたまらず声を張り上げてしまった。

 ふっ、と視界にあるものが次々に消え、世界は暗闇に落ちる。

 私は『箱舟』を飛び出し、一階へと駆け下りた。


「ママァ!! 五十万ってどういうこと!? あの程度の騒動なら高くて十万のはずじゃん!!」


 ママはパイ生地で蓋をしている土鍋をテーブルに置き、「あなたは【聖天使】の娘なんだから、『アナザーアース』の秩序を守る立場でしょう? より厳しく罰しないと示しがつかないわ」と、フォークやナイフを並べながら何てことのないように言った。


「んもぉー!! あのお金はママのためのものなにぃ!! どうしてそんな酷いことするのぉ!! 頑張って貯めたのにぃ!! すっごい大変だったのにィーーッッ!!」


 感情にまかせてママに飛びつき頭をぐりぐり押し付けようとするが、寸でのところで立ち止まる。先日はこれでやらかしたが……よし、今日は誰もいないようだ。 

 安全を確認した私はママの胸に顔を埋めると、


「マァァァァァァんマっ!! ンマァァァァ!! マンマァァァ!! ……すぅー……ンマッ!! ンンンン、マッ!! ママァァーッ!!  アアアアアア――はぶぇ!?」


 すぐ傍のキッチンが開き、サラダボウルやスープ鍋、お玉や取り皿を持ったルカとリリン、それにライアが、可愛らしい動物を見るような笑顔を浮かべて出てきた。ライアの顔の凹凸もその造形を変え、まるで心が洗われるとでも言いたげな微笑みになっている。


「もおおおおおおおおおおっ、何でいるんですかぁー!? 来るなら来るって先に行ってくださいよもおおおおおおー!!」

「あっはっは! ミコナさんのこの姿をもっかい見たいよねって話になりまして!」

「とんちきなあんたの姿をからかってやろうと思ったんだけど、何だか微笑ましくなっちゃったわ。あんた可愛いわねぇ」

「ライアはミコナ先輩が可愛いこと知ってましたよ。『アナザーアース』でお菓子をあげると、すっごい美味しそうに食べるんです。クレープをごちそうしたときなんか、それはもう無邪気な笑顔を浮かべて――」

「わあああああああああああっ!! ごはんっ!! ごはんにしましょうねぇええええっ!! ほら座った、座った!!」


 全員を座らせ「はい、いただきます!」と私はオニサンマのパイ包みを口にぶち込んだ。喉に詰まらせてひっくり返り、「あらあらどうしたの」、「何やってるんですか、もぉ」とママとライアに助け起こされる。いや本当に何やってるんだか……。


「ひゃっひゃっひゃ! マジうける……! 誤魔化すためにヤケ食いして喉詰まらせるって、どんだけ動揺してんのよ……! くわぁーかっかっか!」

「……リリン、それ以上笑ったら追い出しますよ!」

「追い出せるものなら追い出してみなさい! ラファエル様が黙っちゃいないわよ!」


 そう言ってリリンは無礼極まりないことにママの背後に逃げ込むと、ママの腕の影からにやけ面を覗かせてきた。


「ミコナ、三人を昼食に呼んだのは私なの。ミコナとパーティを組んでくれたお礼と、次に参加するクエストで話したいことがあるみたいだったから、会議の場を提供するという意味でね」

「はあ、次のクエスト?」


 リリンを睨みつけると、「そそ。あたしが見つけてきたのよ」と彼女はようやくふざけるのをやめて席に戻り、一枚の紙を差し出してくる。クエスト依頼書の写しだ。


「えーっと、『古代遺跡調査のメンバー募集。『箱舟』を所有し、『アナザーアース』のアカウントを所持しているものに限る』? 何ですかこれ。どうしてアカウントが必要なんでしょう?」


 私が言うと、「その前にさ、あんたたち、ここから南東にある『巨人の化石』って知ってる?」とリリンは訊ね返してきた。


「あ、ライアはそこ行ったことありますよ。ものすごく大きくて長い塔で、根元に扉っぽいものがあるんですけど、中に入る方法が分からず手つかずになってる古代遺跡のことですよね?」

「そうそう、それ。何とその巨塔付近の地下に別の遺跡が発見されたのよ。その遺跡には『箱舟』が七台置かれていて、太いケーブルで塔に接続されてるんだって」


 塔に接続? ということは、新しく発見された遺跡も塔の一部ということだろうか?


「発見者は『箱舟』持ちで、思い切って遺跡にあった『箱舟』を使ってみたんだってさ。そうしたら問題なく『アナザーアース』にログインできたらしいんだけど、いつも利用してる『アナザーアース』とは少し様子が変だったらしいわ。『箱舟』が塔に物理的に接続されていることもあるから、その違いの秘密を解けば開かずの塔に何らかの影響を与えられるんじゃないかってことで、アカウント持ちを集めてるんだって」

「でもリリン、抽選七名って書いてますよ? 『箱舟』持ちが少数と言っても珍しいクエストには人が集まりやすいですし、倍率は相当高いんじゃ……」


 期待薄だし別のクエストを探した方がいいんじゃないかと私は思ったのだが、リリンはなぜか勝ち誇るかのような笑みを浮かべていた。


「安心なさい! 手は打ってあるわ! 抽選会はすでに始まってるんだけど、限界ぎりぎりの三十人まで分身作って会場に行かせてるあるのよ!」

「え? それって反則では?」

「分身を参加させちゃいけないなんてルールはないんだから全然問題ないでしょ。これは勝負を勝ち抜く冴えたやり方っていうものよ」


 本当にいいのかな、と思ってママを窺ってみると、ちょっと困った顔をしているが苦言を口にすることはなかった。後々禁止されるかもしれないが、現状ではセーフらしい。


「そういえばリリン先輩って分身と遠隔でも意思疎通できるんですよね? 抽選会は今どんな状況なんですか?」

「ついさっき終わったわよ。結果は……と、ちょうど良いタイミングね」


 不意にリリンは玄関へと顔を向け、「ほら早く入ってきなさい」と声を張り上げた。するとドアがゆっくりと開かれ、リリン(泣)が泣きべそをかきながら入ってきた。


「て、手に入れたよぉ……調査クエスト参加権と、その証明書……ちゃんと四人分……」

「よしよし、よくやったわ! さすがはあたしの分身!」

「ちょっ、ぼろぼろじゃないですか! 大丈夫ですか? リリンさんの分身さん!」

「ありがとぉ、ルカちゃん……ぐすっ……分身七人が当選しちゃって、他の冒険者さんたちが怒りだしちゃったの……それで乱闘騒ぎになって……ふぇぇぇ……!」

「あらら、それは大変でしたね。リリンさんも労ってあげたらどうですか? こんなに頑張ってくれたんですから」

「いいのよ、そんなでも一応あたしの分身なんだから。それより、これで調査クエストに参加できるわね! あの巨塔を開いて、眠っているであろうギフトカードの山を手に入れるわよ!」


 リリンはリリン(泣)の手から参加権証明書を奪い取り、偉そうに掲げた。リリン(泣)はしんどそうに俯いたまま、本体の影の中に沈むように消えていく。


「良かったわね、ミコナ。良い友だちと巡り会えて」


 ギフトカードを手に入れたら何を買おう、何をしよう、と期待に胸を膨らませて騒いでいる三人の横で、ママがそっと耳打ちしてきた。

 あのリリンのゲス顔を見て何を言ってるんだ……と私は思ったのだが、


「実はね、『ものすごく活動しづらい』って苦情がいっぱい来ちゃって、十人以上集まったのであれば調査クエストに限りソロでの参加を認めることにしたの。だからリリンちゃんは行こうと思えば一人で行くこともできたはずだし、ルカちゃんもライアちゃんだって一人で別のクエストに参加することもできたはず。それでもあなたを誘いに来てくれたこと、感謝しないといけませんよ」

「うーん……でもそれって、代わりに私の力をあてにしてるってことでしょ? 苦労をしょってまで私を引き入れる理由なんてそれぐらいしかないんだし……」


 余計な出費だけは勘弁願いたいんだけどなぁ、と私がぼやくと、ママは呆れるかのように息を吐いた。

 それから私の頭を撫で、


「きっとすぐに分かるわよ」


 と、どこか願うかのように囁いた。

今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)


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