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悪いのはあなた  作者:
11/12

リリィ・アップル

R15表現があります。ご注意ください。

『美しき侯爵夫人殺される!犯人は誰だ?明日の検死審問で明らかになるのか』

『ブラックウェル侯爵家に私生児?新しき侯爵家の一員』

『奴隷売買商、摘発される。背後に隣国が関係?』


リリィはゴシップ誌をベッドの上に放り投げ、化粧台の前に座った。


ふわふわの白金の髪はうなじでまとめ、普段より濃いめの化粧を施した。


帽子を鞄に入れて、真っ赤な口紅を引けば完成ね。


リリィは鏡の中の自分に微笑んだ。いつもは下がった印象を与える目じりが、今日は化粧によって上がっているため、きつい顔になっている。


自分でも一瞬誰かわからなくなるから、他の人から見てもすぐに私だとは気づかないわね。


鏡台の上の時計を確認すると、11時を少し回っていた。


いけない、約束の時間に遅れるわ。



「クリス!待った?」


駅に着くと、クリスが落ち着かない様子で待っていた。


「いや、俺も今来たところだよ」


いつもより濃い化粧をし、バケツ帽を被っているリリィでも認識したようだ。


「なんだか、大人の女性みたいだね」


「あら、私も22歳よ?みたいじゃなくて大人です」


軽口を叩きながら腕を組み、構内へ向かうとそれなりに人がいた。


良かった。まだ列車が到着していないわ。


「ねえ、クリス。もう少し前で待ちましょうよ」


「あんまり前の方だと危ないよ」


リリィが促すと、クリスはためらいつつも前の方へ移動した。大きく一歩踏み出せば線路へ落ちる距離だ。


『まもなく、列車がまいります』


構内にアナウンスが響いた。



**********


いつものようにクリスの家で遊んでいると、クリスの表情が暗いことに気づいた。


「何かあったの?」


「はぁ。実は先週、ブラックウェル侯爵家のお嬢さんと結婚することになったんだ」


「ふうん。そうなんだ」


私の返事にクリスの顔がますます不機嫌になった。


「リリィはぼくが他の人と結婚してもいいの?」


「うん?ブラックウェル侯爵家って、お金持ちでとびきり美しいお嬢さんがいることで有名じゃない。とってもいい話しだと思うけど?」


私はクリスが何を心配しているのかわからず、目の前のケーキを頬張った。


「…そっか。そうだ、明日ブラックウェル侯爵家で顔合わせがあるから、リリィも付いてきてよ」


私は特に何も考えず、頷いた。



顔合わせ当日、私はクリスがこの人との結婚を嫌がるなんてバカじゃないかと思った。


美しくカールした黒髪、陶器のように真っ白な肌、高い鼻梁。どこをとっても美しいその人は、自分と同じ人間とは思えない。


私が男だったら、結婚してもらうためにどんなことでもするわね。


ブラックウェル侯爵家で出された茶菓子はどれも最高級品で、出てきた食器全てに金の装飾が施されていた。


はっ!このお菓子は王室御用達の、5分で完売するという幻のカヌレ!まさか食べられる日が来るなんて。


フォークを持つ手が震える。


落ち着くのよ、私。この機会を逃せば二度と食べられないかもしれないわ。脳裏に焼き付けないと。


その日食べたカヌレの味を、リリィは一生忘れることないだろう。


クリスとブラックウェル侯爵令嬢は一言も会話することなくお開きとなった。


その後もクリスはシャーロットとのお茶会にリリィを連れて行った。



はあ、昨日のガトーショコラも美味しかったなあ。


リリィはクリスが持って帰ってきたガトーショコラを思い出し、頬を緩めた。


『レディ・ブラックウェルが婚約者だなんて、正直お前が羨ましいよ』

『悪い噂は聞くけど、欠点が気にならないくらい金持ちだし美人だもんな』


ビリヤード室の前を通った時、数人の声が聞こえた。


クリスが友達を連れてきていたんだ。


リリィは扉を少し開け、中の様子を見まわした。中にはクリスを含む3人の男子がいた。3人ともビリヤードに夢中になっているため、こちらには気づいていない。


「はあ?俺からしたら、リリィ以外はみんな豚だぞ。話す価値もないやつらばっかりだ」


何言ってんの?むしろ、私含めてシャーロット以外が豚だわ。あの美しさを認識していないなんて。


リリィはクリスが『リリィ以外は豚』とどれほどの人に言っているのか考え、ぞっとした。


「まったく、お前は。じゃあ何でレディ・ブラックウェルと婚約しているんだ?親が決めたから?」


「それもあるが…」


クリスは一度唇を舐めた。


「ここだけの話、ブラックウェル侯爵家には一人娘しかいないだろ?じゃあ、レディ・ブラックウェルが結婚したら巨額の富はどうなると思う?」


「そりゃあ、レディ・ブラックウェルの子どもに引き継がれるんじゃないのか?」


「表向きはそうだが、子どもがいなかったら?侯爵閣下が再婚しても子どもが生まれるとは思えない。もし、レディ・ブラックウェルが結婚して子どもがいなかったり亡くなったりしたら、結婚相手が受け継ぐことが可能になるのさ」


「そうなのか?」


「ああ、ブラックウェルの財産を丸ごともらえたら、世界中で一番の金持ちになれるぞ。そうしたら、リリィになんでもしてやれる」


クリスの友人たちは真に受けていないのか、呆れた顔をしていた。


クリスがそんなことを考えていたなんて!クリスはやる時はやるわ。シャーロットが危ないわね。どうすればいい?シャーロットは私と二人では話してくれないし、私から話しかけるには身分と権力が釣り合わない。


少し考え、リリィはクリスの顔を思い浮かべた。


そうだわ、私にはシャーロットの婚約者がいる。こうなったら、ずっとクリスに付いていよう。


リリィはそう決心し、結婚後も二人と一緒にいられるように料理の腕を磨くことにした。



ブラックウェル侯爵家でお茶をしているからかリリィの舌は肥え、美味しい物の味を覚えていた。そのおかげで料理の腕はみるみるうちに上達し、卒業する頃には王宮料理人にスカウトされるほどになった。


「はあ、いよいよ卒業か」


パーティ会場から抜け出しテラスで涼んでいると、コソコソと怪しい動きをする人影を見つけた。


あんなところで何をしてるんだろう?あの人、以前見たことあるわ。


リリィは目を瞑って記憶の中を探った。


そうだ、シャーロットの悪口を広めた人だ。確か、エイミー・チャンだったっけ。


リリィは急いでエイミーが向かっていた方向へ行き、背後から近づいた。


この人が持っている物、嫌な感じがする。さっき、シャーロットって呟いていたわね。じゃあ、これはシャーロットを呪うものなんだわ。


リリィの脳は急速に回転し、結論を弾き出した。


シャーロットに危害を加えようとするなんて、ダメよ。


私は首に巻いていたスカーフを外し、金槌を振りかぶった隙にエイミーの首を絞めた。



**********


私が料理人になれば毒殺することはないと思ったけど、まさか転落死させるなんて。


列車が入ってきたタイミングでクリスを突き飛ばすと、驚愕した表情でこちらを見た。刹那、列車が衝突した。


「あなたが悪いのよ。私のシャーロットを殺したんだもの」

最後までお読みいただきありがとうございました。

恋愛小説のはずが、サスペンス要素多めに…(- -;)


番外編もお楽しみください。

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