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アイドルのマネージャーにはなりたくない  作者: 塚山 凍
Stage27:黄泉の国へふらふらと

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焦らずとも分かる時

 そして、次の日。

 休日の我が家にて。


「昨日は訳の分からない日だったな……下地弁護士には変なことを言われるし、姉さんは思わせぶりなオカルト話をしてくるし……」


 ブツブツ言いながら、寝起きの俺はのそのそと一階へ向かう。

 起きてすぐに出る言葉が愚痴というのもアレだが、仕方がないだろう。

 ベッドの中で何となく昨日のことを思い出していると、こんな感想しか出て来なかったのだから。


 幸いと言うべきか、今日やることは特にない。

 休日ということもあって、愚痴に費やす時間はまだまだありそうだった。

 昨日は焼界寺から帰ってすぐ、姉さんが「まだやることがある」とか言って再びどこかに消えてしまったので、愚痴を直接ぶつけられなかったと言うのもある。


「曾祖父さんのあの話が実話なら、姉さんが『情のある名探偵』を嫌う理由も分からなくはないけど……確証がなあ。何で姉さんは、曾祖父さんの話をあそこまでまっしぐらに信じてるんだ?シンプルに妻を亡くした悲しみで妄言を吐いていたと考えた方が、まだ理屈は通るのに……」


 朝のトーストを焼きながらも、俺の愚痴は止まらない。

 それくらい、モヤモヤが残る一幕だったのだ。


 後になって気が付いたのだが、あの曾祖父の話は、真実だろうが嘘だろうが不快なエピソードである。

 仮に真実だったなら、俺の先祖はとんでもない人物だったという話になり……逆に嘘だったなら、俺の姉は嘘を信じた間抜けだったことになる。

 どっちに転んでも、身内がアレな人物だったことが証明されてしまうのだ。


「凛音さんの捜索をしようとしたタイミングで、曾祖父さんの謎エピソードまで生えてきた……ああそれに、下地弁護士が言うWANのことも調べないとな。昔のアイドルについて、あんまり詳しくないし……もう一人、探さなきゃいけない人も居るけど」


 周囲に誰も居ない──母さんと姉さんは、既に何らかの用事で外に出ていた──のを良いことに、更にブツブツ言い募る。

 こうして列挙すると、年が明けてからの俺は変に忙しく生きているような気がした。

 どうしてこうなったのやらと自虐しつつ、偶々手に取りやすい位置にあった新聞を摘んでみる。


 いつもなら、熱心に新聞を読むことなどほぼない。

 俺がニュースを見る時は、大抵スマホからである。

 しかしトーストが焼きあがるまでには時間があり、何となく読んでみようと思ったのだ。


 税率がどうの、世界情勢がどうのとか言う話を適当に読み飛ばしていく。

 そして犯罪や防犯に関するページに入ったところで、とある記事が目に入った。


「『強盗団逮捕、長期間に渡る逃亡劇』……捕まったのか、あの強盗」


 昨日、ラジオで姉さんと一緒に聞いたニュース。

 新年早々強盗を行った三人組が、昨夜捕まったという記事。

 個人的にタイムリーな話題だったこともあり、俺はついそれに注目した。


「匿名の通報があり、三人組の強盗団を確保……確保場所は映玖市の近くだが、潜伏場所は二十三区内……全員無職で、目的は金目当て……それで、名前が……」


 愚痴を言っていたノリで、新聞記事までつい読み上げてしまう。

 しかしその音声は、実名報道されていた犯人の名前を見たところでピタリと止まった。

 犯人たちの一人として、「佐柳俊雄(さやなぎとしお)(23)」という名前が載せられていたからだ。


「佐柳って、確か……住職がそんな名字じゃなかったか?」


 昨日出会った、焼界寺の住職。

 適当に住職としか呼んでいなかったが、その本名は「佐柳順雄」だったはずだ。

 名前の漢字四文字の内、三文字が捕まった犯人と一致している。


「えっ、じゃあこの犯人って、もしかしてあの住職の息子とかなんじゃ……いや、流石に偶然か?でも、年齢的にそう不自然じゃない。息子はグレてしまったみたいなことを言ってたし、佐柳って名字はこの辺ではありふれた名字でもないぞ……」


 そこで、トースターが焼き上がりを伝える電子音を鳴らした。

 しかし、俺としてはそれどころではない。

 無性にこの件が気になった俺は、新聞を穴があくまで見つめた後、スマホを取り出して強盗事件のことを検索した。


 新年早々に注目を浴びた事件ということで、ネット上では既に結構な反応が見られた。

 ある程度ちゃんとしてそうなサイトを開くと、最新のネットニュースが目に飛び込んでくる。


「詳しく書いてあるな……逮捕の切っ掛けは匿名の通報であり、昨日昼過ぎに『犯人たちが潜伏していたであろう場所を見つけた。中に痕跡がある』と警察に情報提供があった……それを元に警察が駆け付けて、潜伏場所の捜査を……」


 更に記事をスクロールしていった俺は、そこで息が止まりそうになる。

 記事の下部に、「※犯人グループが潜伏に利用していたと思われる建物」という注釈付きで、犯人たちの隠れ家の写真が載っていたのだ。

 当然、特定を避けるためにぼかしとモザイク塗れだったが……実際にそこに行ったことがある俺としては、一発で正体に気が付いた。


「これ、焼界寺の倉庫だ……空襲秘録の初版が保管されていた、あの古い倉庫。犯人たちがここに潜んでいたってことは……」


 その瞬間、俺は通報者の正体に気が付く。

 同時に、焼界寺で何が起こっていたのかも、おおよそ察しがついた。




「さて────」




 ……俺が気が付いたことをまとめると、ざっと以下のようになる。


 まず、佐柳俊雄なる人物は、やはり住職の息子なのだろう。

 名前しか証拠はないのだが、焼界寺がこうもはっきり出てきた以上、無関係だと思う方が不自然だ。


 住職の話では、グレてしまって好き放題やっているみたいなことを言っていた。

 仏の道に進んだ人の息子とは思えない行動だが、世の中広い。

 住職の教育姿勢は知らないが、とにかく佐柳俊雄は犯罪に手を染めるような人間になってしまったのだろう。


 だから、仲間を集めて強盗を計画した。

 そして、仲間を宝石店の店員として潜り込ませたのだ。


 当日にやったことは、既に報道されている通り。

 業務開始前に店に立ち入れる立場を利用して、彼らは宝石強盗を実行。

 更に殺到する客たちに紛れたことで、見事逃走に成功した。


 問題はその後だ。

 警察の必死の捜索に関わらず、彼らは昨日まで発見されていなかった。

 だからこそ騒ぎになったのだが……どうやらこの真相は、「つい最近まで、焼界寺の倉庫に隠れていた」であるようだ。


 民間の施設内にずっと隠れている犯罪者というのは、警察からすると意外と相手にしにくいことがある。

 例えばタロス事件で茉奈が行方不明になった時、彼女は民家の中でずっと居たことで、偶然にも警察の捜索網を逃れていた。

 警察と言えど、証拠も無しに民家を強制捜査出来る訳ではないから、下手にホテルやネットカフェに隠れるよりも見つけにくいのかもしれない。


 加えてこの強盗事件の場合、デパートの店員になっていた一人を除けば、碌に身元も分かっていなかった。

 だから、犯人一味の親がやっている寺の中すら調べられていなかったのだろう。

 それを利用して、佐柳俊雄は強盗仲間や奪取した宝石をあの倉庫に隠したのだ。


 無論、住職は知らなかったと思われる。

 彼が事件について知っていたのなら、俺たちをあんなに簡単に倉庫に近づけるとは思えない。

 彼の言う通り、あの倉庫は何年も扉を開けたことがなく、その関心の無さを犯人一味に利用されたのだろう。


 結果として彼らは、倉庫に籠もることで捜査の目をやり過ごし、しばらく警察から逃れることに成功。

 食料などは事前に準備していたのだろうが、本当に一度も外に出なかったはずだ。

 見つかれば、捜査員が来るかもしれないのだから。


 しかし昨日、倉庫の中を見ても誰も居なかったことから分かる通り、彼らはやがて倉庫を脱出することになった。

 それは多分……俺たちが、焼界寺を訪ねる予約をしたからだろう。


 焼界寺に向かってすぐ、姉さんは住職に向かって「電話した松原ですが……」みたいなことを言っていた。

 姉さんはあの場に向かう前に、住職に一報入れていたのだ。

 空襲秘録の初版も含めて見せて欲しい、準備を頼むという念押しも込めて。


 恐らく、その電話を佐柳俊雄が聞いていたのだろう。

 近い内に倉庫に来客が来るかもしれない、とそこで察したのだ。

 だから慌てて脱出して、また別の拠点にでも逃げたのだろうが……。






「倉庫を訪れたのが姉さんだったのが、運の尽きってことか……通報者、間違いなく姉さんだろうし」


 ネット記事の表示を消しながら、俺は独り言ちる。

 同時に、昨日の姉さんの様子を思い出した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()


 恐らく、姉さんとしても本当に暇潰しだったのだろう。

 冊子の内容を知っている姉さんとしては、俺の読了を待つのはつまらない。

 だから、適当に倉庫の中を見学していた。


 そして、気づいたのだ。

 何年も開けたことが無いはずの倉庫の中に、人が立ち入った痕跡があることに。


 だから通報して、それが逮捕に繋がった。

 恐らく倉庫を出てからは、犯人一味は以前のように隠れて行動出来なかったのだ。

 既に正月は終わり、人通りもまだらになってきている……慌てて拠点を出たこともあって、どこぞの監視カメラにでも引っかかったんじゃないだろうか。


 かくして姉さんの通報を切っ掛けに、犯人一味は全員逮捕。

 こうして新聞記事になった、という流れになる。

 知人である住職の息子相手に容赦ない対応をしているようにも思えるが、強盗被害と住民の不安感を考えれば妥当な対応だろう……住職の心痛については、考えても仕方がないので考えないでおく。


 寧ろ、この事件で考えないといけないのは────。


「姉さんは……あの倉庫を見るだけで、人の痕跡に気づいたのか。そして、かつてそこには強盗事件の犯人たちが居たと気づいた。証拠なんて碌に無かったはずなのに……()()()()()()()()()()


 姉さんの行動に今更ながら驚いて、俺はそこで固まってしまう。

 あの人の推理についてはこれまで何度も見ているし、敵わないと思うのは日常茶飯事だ。

 しかし今回は、今までに抱いた感覚全てを凌駕する勢いで驚いてしまった。


 同じ探偵だからこそ、分かる。

 今回の彼女の推理は、今までとはレベルが違う。


 だってあの倉庫内の様子は、俺だって去り際に一応見ているのだ。

 本来管理する側の立場である住職だって、探し物の一環として中に立ち入っている。

 しかしそれでも、異常には全く気付かなかった。


 強盗事件のことなんて考えていなかったので、じっくり調べていなかったのはある。

 それでもあの倉庫には、分かりやすい痕跡なんて残っていなかったように思う。

 犯人たちだって、逃走する際には可能な限り痕跡は消してから立ち去ったはずだ。


 それに、努力して人の痕跡を見出したとしても……それと強盗事件を結びつけるのは、かなり難しい。

 俺が同じ状況だったなら、倉庫内で痕跡を見つけたところで、「住職の記憶違いで、実際はちょっと前に中に入ったことがあったのか」とか、「住職が探し物の途中で汚してしまったんだろう」と考えてしまいそうだ。


 しかし、姉さんはすぐに強盗事件と結び付けた。

 警察を動かし、推理を信じさせた。


 彼女はそもそもにして、「人が立ち入っていない、倉庫内の正しい風景」を知らないのに。

 俺が文章を読み終わるまでの五分かそこらで、異常に気づいて見せた。

 まるで、過去にそこに強盗犯一味が居る風景を本当に見たかのように。


 当然ながら、姉さんは強盗犯が隠れている様子を本当にリアルタイムで見ていた訳じゃない。

 犯人一味が消し忘れた微かな痕跡を発見して、過去の風景を推理することで、イメージを組み上げたのだろう。


 だからつまり、これは────。


「……『黄泉騙り』なのか?姉さんにも、それが出来たんだ。名探偵だから……」


 曾祖父が、自宅の痕跡を見て妻の姿を幻視したように。

 姉さんもまた、あの倉庫の風景を見るだけで強盗犯が隠れている様子を幻視した。

 だからこそ犯人たちの行動を確信して、逮捕に動いた……そういうこと、なんだろうか。


 ──「黄泉騙り」については、焦らなくてもすぐに理解することになるだろうからな


 昨日、最後に姉さんが呟いていた言葉。

 あの真意こそ、これなのかもしれない。

 そうなるとこの新聞は、姉さんが意図的に置いて行った物なのでは……。


「だったら、姉さんが曾祖父さんの話をすぐに信じた理由って……」


 何のことはない。

 彼女は実体験として、推理力を極めればそんなことも出来るということを知っていたのだ。

 だって実際に、自分は「黄泉騙り」が出来るのだから。


 確たる証拠が無くても、顔すら合わせたことが無い相手であっても、名前も知らない対象であったとしても。

 本気で推理モードになった姉さんが、犯人が居たであろう現場に赴きさえすれば、犯人たちの過去の行動は幻視出来る。

 普通なら気が付けない痕跡にも気が付いて、自然とそのイメージを組み立ててしまう。


 俺からすれば、昨日の曾祖父の話は信じる理由が無かった。

 しかし姉さんは逆に、信じない理由が無かった。

 姉さんに出来て、曾祖父さんに出来ない理由が無いのだから。

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