〜そして、陸へ~12.
「リーア、早速だが、彼女を別の客間に案内してくれ。ここはしばらく封鎖する」
ウィルはそう言うと、部屋から出て行ってしまった。
リーアという娘は、赤っぽい茶色の髪を頭の高い位置でシニヨンに纏めていた。目が悪いのか分厚い眼鏡をかけており、薄い茶色の瞳からは感情が読みにくい。
そのままの姿勢で彼女は、グラスを空けるローラを見つめていた。
年の頃はウィルの言う通り、17、8だろうか。
果汁を全て飲みほし、グラスを卓に戻すと、リーアが口を開いた。
「……では、ご案内致しますので、どうぞ」
最初、何を言われているのか分からなかったが、どうやら立ってついて来いということらしい。
ローラは困ってしまった。
一向に立ち上がる様子のない、目の前の客人に、リーアは微かに眉を寄せる。
「……どうされました?」
『……あの、足が痛くて……』
どうも自力で立ち上がれそうにない。先程のほんの短い歩行で、もう足が痛くてたまらない。
途方に暮れたように見返すと、何故かリーアは検分するようにローラを見ていた。
……?
どうしてそんなふうに見られるのか、ローラは訳が分からなかった。けれど、ろくに言葉も出せない今の状況では、自らそれを知る術はない。
すると突然、リーアの表情が変わった。
「……どうやらあなたは、違うようですね」
……へ?違う。違うって、何が?
リーアの言っている言葉は分かるのに、言っている意味が解らない。
ローラは真剣に、人魚と人間ではもしかして言葉の使い方も違うのかしらと悩み始めていた。
そうこうしているうちに、少し待っているように言っていなくなった侍女が、カラカラと音を立てて何かを運んできた。
「給仕用の台車です。これに掴まっていただければ、楽に歩けるかと」
それを聞いて、ローラはぱっと顔を輝かせた。
楽に歩ける!?
見るからに喜んでいるその姿に、リーアは少し表情を和らげた。
何か言われたかと振り向いた少女の腰は少し浮いている。余程歩きたかったのか、歩けと言われたのに笑顔だ。
「いえ、何でも。……申し訳ございません。本当はローラ様を運べるよう、誰か呼んできても良かったのですが、生憎、ただ今人手がなく……」
それを聞いても、何でもないというように首を振ると、ローラは自分で椅子から台車に掴まって立ち上がった。
大人数の給仕用なのか、重量も割りとあるそれは、華奢な少女が体重をかけてもびくともしない。
恐る恐る、台車を押しながら歩を進めて見ると、本当に楽に歩けた。
壁に肩を擦り付けながら歩くのとは雲泥の差だ。
「どうですか?足は痛みませんか?」
台車が前に進み過ぎないよう、前にも付いた持ち手を取りながらリーアが訊ねる。
こくこくと頷き、一生懸命歩く姿を、眼鏡の娘はすでに姉のように見守っていた。




