〜そして、陸へ~11.
『あの、手すり……』
思わず出した声があまりにひどい声で、思わず口に手をやる。でも、出た!
それに、前ほど喉が痛くない。
やっと喋ったローラに、ウィルはわずかに眉を上げたが、口を挟まず先を促した。
『……えっと落ちそうになって、思い出したことが……。前にもこんなことが、あったような気がします』
自分でも悲しくなるような掠れ声。だがそのおかげか、切れ切れに喋っても嘘くさくならない。
『色んな処で、歌を披露していました。……ただ、どうしてあそこにいたのかは、記憶になくて……』
ヴァリーはああ言っていたが、ローラは元来嘘が得意ではない。ヴァリー相手でなくとも、仲間たちにもすぐバレる。
ウィルが危ない目に合う場面を、見続けたのは本当。海の上に出ては歌を歌っていたのも本当。あの岩場に打ち上げられることになった記憶がないのも、本当……。
今の自分の説明が、あまりに簡略過ぎるとは思うが、これ以上を嘘無しで語る技術は残念ながら、ない。
「……うーん」
『あのっ……』
何か言わなければと思うが、手で制される。
「いいよ、今はまだこれ以上話さないで。また声が涸れてきてるよ」
喋るほどに声にならなくなった彼女に、グラスを差し出す。
「君は、異国の歌姫ってことかな……。なら、余計大事にしないと」
見つめるだけの彼女に、ウィルはそっと手を添えて持たせて言った。
「喉に良さそうな果汁を何種か混ぜたものだよ。どうぞ」
コクリと頷くと、そっと口を付けて飲んだ。ゆっくりと飲み込むと、ねっとりした喉ごしなのにさっぱりしていて、美味しい。
「君の身元が分かるまで、ここにいるといい。歓迎するよ」
グラスに落としていた視線を上げると、じっとこちらを見ていた彼と目が合った。
その時、ニコリと笑ってくれる笑顔が、あの時と変わっていないことに気付く。
声にならない分、自分も笑顔を返そうとする。なのに、泣き笑いのような顔しかできない。
崖下でのことはこちらが意図したことだとしても、助けてもらっていなければ、私はもう生きていない。
その上、たった今も、助けられている。
これでは、全く立場が逆である。
ローラが自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、ウィルがスッと立ち上がった。
「ローラ、悪いけどこれから用があるので、失礼するよ。それで」
その言葉に合わせたように、扉がスッと開いて、昨日見た侍女と同じお仕着せを着た女性が入ってきた。
「彼女はリーア。君の世話をしてもらう。年も近いし、何でも相談するといい」
ウィルの紹介に、リーアと呼ばれた少女は目を伏せたまま、頭を下げた。
「リーアと申します。宜しくお願い致します」




