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真珠の姫君~海に捧げる子守歌~  作者: とも
第二章 そして、陸へ
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~そして、陸へ~4.

「大丈夫か?」

何度も咳き込む彼女の背中を、優しくさすって声を掛けてくる。


「君は誰だい?名前を言えるかい?」

その問いかけに真の名を答えようとして、驚いた。


ーー覚えて、ない?


私の、名?私は誰だったかしら……。


いや、違う。『・・・・』だということは、解る。

解るのに、言葉にならない。否、することができないのだ。

彼女は、自分で自分の身体を抱きしめる。寒くないのに、肌が粟立っていた。


『・・・・!』

声を出そうとするが、やはり声は出ない。

小さな息遣いが聞こえたのか、ウィルが背をさすりながら声を掛けてくる。


「……ん、何だって?」

彼女は、違う名なら口にできるかどうか、試して見ることにした。


『ロー……』

「ロー……?」


ローレライと言いそうになって、止める。コレではウィルに気付かれてしまうかも知れない。


『……ロー、ラ』

それだけ言うと、また、激しく咳き込んでしまう。

「ああ、ごめんごめん。もういいよ、喋らなくて。今、医師を呼ぶから……」


そう言うと、ウィルは上掛けを彼女の胸元までそっと引き上げると、部屋を出ていってしまう。


ーーどうしてこんなことになったのか……。

真実の名を失うということの意味を、今、改めて感じていた。恐ろしいまでの喪失感だった。


彼女は、己の喉元に、そっと手をやった。


ーーけれど、こうしている間にも、彼女が人の姿でいられる時間が、刻一刻と過ぎて行く。


ーー悩んでる暇なんて、ない!!


確かに、人魚として生きてきた自分の持っていたものは、この手に殆ど残っていないかも知れない。


けれど私は、まだ、忘れていない。

全てを捨てても、ここに来ようとしていた、その意味も。





読んでくださって、ありがとうございます。

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