~そして、陸へ~3.
リアルが急に忙しくなり、気付いたら大分あいてしまって……。
ーー人間になったら、どうやってその事が分かるの?ーー
マリエッタは、ヴァリーの住み処でそう聞いていた。
1ヶ月経ったら、朝日とともに、泡になるのだという。
けれど、期間内に人に成れたとして、姿はもう人間なのにどうやって気付くのか。素朴な疑問であった。
対してヴァリーは、こう応えた。
「仮に人の姿となったとしても、人と人魚では決定的に違うところがある」
……だから、それを教えてほしいのに……!
マリエッタのそんな言葉に、ヴァリーは薄く笑っただけであった。
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今度はすんなり目が開いた。
目が覚めてまず、その事にびっくりした。
身体は相変わらずあちこち痛かったが、動けないほどではなくなっていた。
ここ、どこーー?
知らない間に、何処かに運び込まれたようだった。
見たこともないものだらけの部屋に、一人寝かされていた彼女は、そうっと起き上がる。
そして、あるコトを思い出して、掛けられていた上掛けを思い切りめくった。
するとそこには、白くてすらりと伸びた、二本の足があったのだ。
ーー足。これが、足?
ゆっくりと、指先に力を入れる。すると自分の思うように、足の先が曲がった。
二本の足を揃えて、寝台から下ろし、床に着けてみた。
けれど、ここから先、どうしたらいいのか、さっぱりわからない。
ー思い出して、ウィルとか、他の人達はどうやって歩いていたっけ……?
そして不意に、目線を上げると、少し離れた場所からこちらを見返す娘と目が合った。
びくりと後退ると、同じくその娘も後退る。それでようやく気付いた。
ー鏡ーー?
あんな大きな鏡を見たのは生まれて初めてだが、だから分からなかったのではない。
鏡に映る、自分の姿。肌もあらわな寝間着の下に、たくさん巻かれた包帯。
そして見返す瞳の色は、漆黒。流れるように、背にかかる髪もまた、漆黒だったのだ。
ーー何、コレ、私?
思わず立ち上がってみたものの、そこからどうしたらいいのか、やっぱり分からない。
足に力を入れてみるが、それで歩ける訳もない。あろうことか、突然、膝の力ががっくりと抜け、そのまま、前のめりに倒れそうになった。
……!
来るべき衝撃に備えて、体を固くしたが、どうも倒れてはいないようだ。
きつく閉じた目を、恐る恐る開けると、肘と腰をたくましい二本の腕で支えられていた。
「おっと、……失礼、お嬢さん。様子を見にきたんだけど……」
後ろから抱きすくめるように立っていたのは、以前会った時より、更に大人になったウィルだった。
彼はそっと彼女を抱き上げて、今出てきたばかりの寝台へと運んだ。
「気が付いたようだね。気分はどう?」
黙ったままの彼女を見て、いきなり登場した自分に驚いていると思ったのか、ウィルは言葉を続ける。
「声も掛けずに邪魔してすまない。静かだったからまだ眠っているかなと思って、覗いてみたんだけど……。鏡を見て百面相してたから、声をかけそこなってしまって」
……!一体、いつから見てたのっ?
声を出そうとして咳き込む。
かなり喉が痛いことに、今更気付いた。
『……あ、……』
掠れて、うまく声を出すことができない。
その時、彼女はあの言葉を思い出した。
ーー目覚めた時、お前は何も持ってはいないーー
全身の血の気が、いっぺんに引いた。
ーーもしかして、……声、も……?
読んでくださってる方、ありがとうございます!
遅くなってすみません(。>д<)




