~緩やかな時~16.
いつも読んでくださってありがとうございます。
さくさく進まずアワアワしてます。
仕事が始まる前に、もう少し進めておきたい、気持ちはいっぱいです(^^;
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それからマリエッタは、新月の夜半、同じ場所で歌うようになった。
きっと、彼は来ていない。
……それでも、少しでも彼の近くで歌いたい。
岩場までは近づかない。
寄る辺なく、知っている歌を、体力が続く限り歌った。
二度目の新月。ウィルから返事があった。
彼女が歌い出すと、微かに笛の音が聴こえてきたのだ。
ーーウィルが来てる!
それだけで、彼女の胸はいっぱいになった。
その日から、最後に歌うのは必ず子守り歌になった。
それで合図にもなる。「これが最後」と。
歌が終わると、笛の音が聴こえる。
それが、二人のやり取りの全てだった。
明るく活発だったマリエッタは、よく沈み込むようになっていた。
考え事をして大きくため息をついたり、かと思うと急に明るく喋り出したり。
あんなに海上に出て歌うのが好きだったのに、新月の晩以外は、全然出ていかなくなっていた。
そんなマリエッタの変化に、仲間たちも首をひねっていた。
勿論、彼等に心当たりなどある筈もなく。
「マリエッタ……、最近元気がないのね。いったいどうしたの。具合でも悪いの?」
とうとう仲の良い、エミリアという娘が切り出した。
日々憔悴していく姿は、明らかに何らかの異変を周囲に伝えていた。
「何でもない」と言い張る彼女を、仲間たちは一族の呪い師ヴァリーの処に連れて行った。
彼女は、呪い師であり、薬師であり、語り部でもあった。
『千里のヴァリー』と呼ばれるその人物は、人魚の娘たちが住み処に入って行くと、待ち構えていたように言った。
「おいでマリエッタ」
いつもそう。ヴァリーにはみんなお見通し……。
素直に傍らに寄る件の娘の様子に、皆安堵したのか潮が引くように去って行った。
ヴァリーがこんな風に名指ししたのは、マリエッタだけ残れと言ったのと同じであった。
双方黙したまま、暫しの時が過ぎる。
目を伏せたままの少女は、被り布の間から、じっと見つめる眼を感じていた。
自分の心を見透かされているようで、少し嫌だったが、それ以上に自分でも分からない、押し潰されそうな不安の正体を、教えてもらえるならそれもいい。
そう思う気持ちもまた事実だ。
たっぷり半刻以上が過ぎて、沈黙は唐突に破られた。
「あんた、人間に恋してるね」
……。
何を言われてもいいと思っていた彼女は、言葉を失った。




