~緩やかな時~15.
どのくらいそうして過ごしていたのか。マリエッタが先に切り出した。
「そろそろ、行かなくちゃ」
途端に、ウィルが彼女の手を握りしめた。
「……また、会ってくれる?」
……!マリエッタの鼓動が早鐘を打つ。
今、きっと私、ゆでダコみたいになってる!!
こんな暗闇の中でも、それが見えるのではないかと心配になり、思いっきり顔を背けた。
な、なな、何でこんなにドキドキするのぉ~?
その理由はさっぱり分からなかった。手を振りほどくことができない。もう会ってはいけないのだと告げようとすると、舌が痺れたようになってしまうワケも。
それでもマリエッタは、なんとか口を動かした。
「ごめんね、もう、会えないわ」
そう言葉にすると、彼女は急に悲しくなった。
ーーもう、会えない……。
握られた手を持ち上げ、一度だけ彼の手の平に頬を預けた。
ポトリ、ポトリ
ウィルの手に、人魚の涙が真珠となって落ちる。
「さようなら」
飛沫も殆どあげず、人魚の娘は波間に身を踊らせた。
陸から離れながら、先程のウィルの言葉を思い出す。
ーーマリエッタの歌を聴くとホッとするーー
他に逃げ場もない少年。何故か彼女の心を乱す彼の声。
たまらず、水面から頭を出した。まだそれほど離れてはいない。
もう会えない。人魚と人だもの。深く関わってはいけないのだ。
どうして涙が出るの……?
初めて沸き上がる感情に、戸惑うしかない。
逃げるようにその場を去ることしかできなかった。
でも、ウィルは私の歌を聴くとホッとすると言ってくれた。
彼女はその場でもう一度歌った。
たった一人の観客の心を癒すためにーー
読んでくださってありがとうございます(*^^*)




