こんな時だからこそ
最近投稿した作品に誤字が多く申し訳ありません。連載がひと段落した段階で修正する予定です。
さて、シリアスな話が続いているので、今回は少しだけ軽めに話してもらいました。
「そういえばさ。ノエルはどうやってその場所を見つけたわけ? たしか僕と同じ匂いがするとか言ってけど」
「別にお前が臭いとかそういう意味で言ったんじゃねぇよ」
「うん、それはありがとう。もしそうだったらかなり落ち込んでたよ」
「言葉で説明するのは難しいんだが、なんか独特な雰囲気があるんだよ、お前。そうだな、一歩ずれてる所にいる、みたいな。まぁそんな感覚だ」
「確かに私も感じてましたわ。執着がないとでも言うんでしょうか。もっとも、それが『死者』であるからだと分かったのはノエルよりずいぶん後ですけれど」
「うーん。ずれてるとか執着がないとか全然実感はないんだけどね」
そもそもこの身が本当に死者なのかさえ、僕の中では整理がついていなかった。それだけ自然なのだ。ただ古城に来るまでのことを思い出せない以外には。普通の人がこうあるべきだっていう在り方が分からないから、ノエルが何を以て僕の異質さを見抜いたのかは理解できなかった。
「まぁいいや。それで、僕と同じような雰囲気ってことは、死者の魂がそこにいたってことだよね」
「あぁ。そもそもは、この古城に隠された場所があるんじゃないかって疑ったのが始まりだ」
「隠された場所……ですか?」
「この古城で暮らしてる騎士の数を知っているか? 五十八人だ。だがいつ、どんな方法で数えても俺たちが立ち入れる場所にいる騎士だけでは人数が合わない。見知った顔のうち、誰かが必ず居なくなっている。最初はどこか裏の部屋があって休憩でもしてるんだと思ってた。だがこの城やオリバーへの不信が募るにつれて、人数が合わないのは『どこか知らない場所で見張りをしている騎士がいるからだ』と考えるようになった」
「そ、そんな所を気に掛けていましたの? さすが鋭いと言いますか――」
「逆に三年目になって初めてこの考えに至ったっていう事実の方が最初信じられなかったぜ」
「いや、ベアトリーチェの言う通り、そんな騎士の人数なんて気にしないよ。さすがノエルだね」
「おだてても何も出ねーよ」
口ではそう言いながらも少し嬉しそうな表情を見せたノエルにはあえて突っ込まないでおいた。ここで彼の起源を損ねると後で面倒なことになるに決まっている。
「当たり前だがあいつらは何も口を割らなかった。だからクリスマスの日、俺は怪しい所を探ってたんだよ。どうせトワにはばれてるだろうが、何も言ってこないことを考えれば、見られて困るものではないんだろって思ってた。今となっては、それもあいつの望む未来に必要なことだったのかもしれないな」
トワは僕たち候補の位置をいつでも把握できるほどの力を持っている。だからクリスマスの日、ノエルが姿を眩ましても取り乱す必要はないって思っていた。
彼女はどこまで予想していたんだろう。
相手の顔を見るだけで心の中が分かってしまうのだ。ノエルが古城に対して不信感を持っていたことに気づかなかったはずがない。毎日のように候補とは顔を合わせていたのだから。
トワはそれでも、ノエルの行動を止めなかった。もしかしたら未来で必要になるかもしれない、と。
「ほら、ここが入り口だ」
ノエルが示したのは、ただの壁だった。東棟を入ったすぐの部分。僕が最初に捕らえられていたこの東棟は電気が通っていないらしく明かりが火だったし、何だかじめじめしていて好きじゃなかった。だから僕が入ったのは初日以来、一度きり。古城全体を案内してもらった時以来だ。
「……僕が死者の魂だから見えない、とかの理由じゃなければ壁だと思うんだけど」
「私もそう見えますわ、大丈夫ですわよ、レーヴェ」
そこは大丈夫とかそういう返しを期待していたわけじゃないんだけれど。
ノエルは僕たちの様子に苦笑しつつ、壁の中のタイルを一つ押して見せた。隠し扉にありがちな展開だ。どうせそのタイルを押したら開くんだろう。仕掛けが作動して冥界の扉みたいなものが――。
「って期待しただろ。残念ながらこのタイルはスイッチなんかじゃないんだ。これはな、こうやって――」
ノエルは拳を鳴らして大きく振りかぶり。
地響きすら聞こえそうな勢いで壁の真ん中に強力な打撃を加えたのだった。
「……」
「……」
ノエルの拳を中心として周辺のレンガが崩れ落ちていく。その様子を僕とベアトリーチェは黙って見ていた。というか言葉も出なかった。
「――ある程度の力を入れると開くんだよ」
「絶対に違うと思う。それ、壊してるでしょ」
「――最初に入る時はどうしたんですの、ノエル」
「……二人とも、今日は一段と厳しいな。もちろん仕掛けはあったさ。外から中に入る時にだけ作動するやつが。多分侵入者対策だろう。けど、俺が入った後に壊れたんだよ。ただ出る時に確認したらそんなに壁が厚くなかったから、今度からは壊せば良いな、って思ったんだ」
「……次に見張りで来た騎士が見つけて、修理でもしたんじゃないの?」
「……あー。その可能性が高そうだな。ま、開いたんだから良いだろ」
それは開いたとは言わない。強いて言うなら、向こうの部屋と「繋がった」と言うんだ。なんていう言葉は胸の内に秘めたまま。結果オーライということにしておこう。こんな時だからこそ、ユーモアを交えてくれたんだ、うん、そうに違いない。
僕はそれ以降のノエルへの対応はベアトリーチェに任せ、廊下にあった松明を手に、現れた階段をゆっくりと下った。
次にいくと長くなりそうなので、短いですが今回はここで切ります。
あと少しで終わり予定なのでもう少しだけお付き合いください。




