ずっとここで待ち続ける
過去の手記の内容はこの話で最後になります。
手記の作者の決断が、今の古城の制度に繋がっているのです。
「神木よ、全部視て、聴いて、理解していたのでしょう!」
当たり前だが返事はない。けれど、たしかに僕はその存在を感じ取っていた。
「ソフィアは巫女として貴方を守りました。その結果、この地に災厄をもたらす存在となってしまった。ですからどうか、今度は貴方がソフィアのことを助けてください! そのためなら僕は――何でもしますから! 彼女が目覚めるまで、待ち続けますから……どうか」
「私からもお願いします。巫女様はかつて貴方の穢れを一部引き受け、貴方とこの国を救ってくださいました。ですから今度は私たちが、守りたいんです!」
僕の横に立って叫んだのは、ソフィアの隣の家に住んでいた女性だった。僕よりも少し年上で、いつもソフィアのことを妹のように可愛がってくれた人。そして立ち上がってくれたのは彼女だけじゃなかった。この場に集まった全員が祈るように神木を見上げている。
――ソフィアはこんなにも愛されていたんです。だから。どうか彼女を救う術を僕たちにお与えください。
神木よ!
『汝らは時の狭間に囚われる。それでも災厄と化した少女が目覚めるのを待ち続けるか?』
それは永遠にも似た刹那。ソフィアを解放する時に溢れ出たものと同じ光が僕たちを包み込んでいた。
「ええ、待ち続けます!」
『ならば汝らの時を止め、我が力を受け継ぐ巫女を守り続けよ。少女が再び目覚める時のため巫女と共に我を崇め続けよ。さすれば浄化の力が少女に届くであろう』
「……必ず! 必ず守ります!」
後ろを振り返ると、全員が決心したように頷き合っていた。
「みなさん、良いんですか。僕はソフィアの幼馴染で――」
「あんただけに美味しい所を奪われはしないよ! あたしたちだって巫女様にお世話になったんだ。これくらいの恩返しをしないと罰があたる」
「もう一度、巫女様にありがとうって伝えたいんです」
「私たちの運命は巫女様と一緒にあるようなもんだ」
口々にそう告げる人々の瞳に不安などなかった。誰もが未来のためを想って志願してくれている。
「王宮を神木に捧げましょう。少しでもこの地の穢れが引き受けられるように。王がお怒りになるかもしれませんがこの国の未来のためです!」
この地を守るため、権限を無視して動いてくれる神官たち。今ここにいない街の人々を避難させるためにルートや場所を確認してくれるアシュリーと部下の騎士。
ソフィア。
君が守った国を、君を慕う人々が未来へ繋げようと頑張ってる。僕は君に比べればほんの少ししか役に立たないような騎士だけど、それでも精一杯のことをやってみせるよ。君が次に目覚めた時、もう一人にはさせない。君と一緒に逝けるように。
「アシュリー。貴方は時間を止める必要なんてない。貴方にはもっとこの場で出来ることがあるはずでしょう。それを押し付けてしまうことは本当に申し訳なく思います。でも」
「……分かりました。それではオリバー様、巫女様をお願いいたします。わたくしはこの地に残り、語り継ぎましょう。貴方たちのことを。ソフィア様のことを。そして、新たな巫女様のことを。時を進める者として貴方たちをサポートいたします」
「頼みます。全ては、この地を守るために。巫女様を――ソフィアを救うために」
神木の光で囲まれた空間から一人外に出るアシュリー。その役目をたった一人で背負わせるのはあまりにも残酷だと思う。倒壊した家屋に泣き叫ぶ人々の声。全部見えていないはずはない、聞こえていないはずはない。
けれど彼はそれを名誉として引き受けてくれた。
「神木よ! わたくしたちは常に貴方の言葉を忘れず、生き続けましょう。生きて、来るべき時を巫女様と待ち続けましょう!」
君を失った日。
ただ君が消えていくのを見ていることしか出来なかったはずの僕に神木はチャンスをくれた。そのせいで、僕たちは厳密に言うと人間ではなくなってしまった。そしてこれから何人もの巫女様をこの地に迎え、彼女を浄化のための道具として守り続けるだろう。
けれどこの決断に後悔はない。
あるとしたら、あの時ソフィアを犠牲にしてしまった無力な自分に対してだろう。何故あの時、僕は彼女と共に眠る決断が出来なかったのか。穢れを引き受ける力などなくても、何故彼女を孤独な空間に導いてしまったのか。
僕も一緒にいれば、彼女は人間として十五年間の時を経ることができたんじゃないのか。
いや、そんな考えが無駄なことは分かっている。
ソフィアは穢れを宿して災厄となり、僕たちは彼女が浄化される日まで時を止めて新たな巫女様を守る決断をした。それが全てだ。
どうか赦してほしい。僕はただ一人でも多くの人を救いたかっただけだったのに。君を守りたかっただけなのに。
君を、あんな目に遭わせてしまった。
だからせめて僕は、君が目覚めるのを待ち続けよう。
たとえ次に目覚める君が僕のことを覚えていなくても。次に目覚める時、君がすでに人でなくなっていても。
僕はもう君を一人にはさせない。
何百年でも、この場所で待ち続けるから。
今回は少し短めですが、ここで過去の物語が全て終わりました。
この内容を知ったレーヴェたちはどんな想いを抱くのでしょう。
そしてレーヴェたちの物語も、ついにクライマックスを迎えます。
つたない文章ではありますが、もう少しだけお付き合いいただければと思います。




