過去の手記の筆者が昔を懐かしむ頃
遂に始まるクリスマスパーティーの裏で、それぞれの人物が少しずつ動き始めます。
次の日の昼。
ようやく飾り付けを終了するとすぐさま城の人々全員が中央の建物に入った部分に集められた。そこにはもちろん騎士さんや普段あまり見かけない裏方の仕事をしている人々も集まっている。
何よりもいつもと違うのは、集まった彼らが全員白い布を顔に被せていないことだった。隣に立つベアトリーチェにこっそり聞いてみると、それが毎年の恒例らしい。
「では皆様、今年も無事にこの日が迎えられたことに感謝いたしましょう。まずは、巫女様、お誕生日おめでとうございます」
「「お誕生日、おめでとうございます」」
まるで小さい子供たちの集まりのように全員が大合唱してトワのことをお祝いする。普段なかなか彼らと話すことに馴れていないトワは恥ずかしそうな表情を見せながらも、「ありがとうございます」と小さくお辞儀した。
「また、今日はクリスマスということでいつもとは違うルールに従っていただきます。それでは各自、よろしくお願いいたします!」
オリバーさんの司会のもと、遂にクリスマスのイベントが開始された。
今日一日は騎士たちやメイド、料理人まで幅広い職業の者たちが巫女様と話す機会を与えられる。さらに夕方からは身分関係なくペアを組む舞踏会まで開催されるようだった。
「うわ―、予想よりもよっぽど大きなイベントだなぁ」
「まぁこういう機会でもなきゃ巫女様と話すことなんてないからな。俺たちは候補として一定の身分を与えられているが、それこそお前が仲良くしてる騎士なんかは普段巫女様と言葉を交わすことは許されてないだろ」
「それは薄々分かってはいたけど。でもやっぱり、巫女様っていう存在は愛されているんだなって」
普段は白い布で隠れて表情が見えない城の人々。しかし彼らは今、誕生日を迎えたトワを囲んで笑っている。そうだ、彼らも古城という制限の多い場所でずっと働いてくれている人たちなんだ。
「……ま、そうだな。巫女様のために何かしてやりたいという気持ちはみんな同じなのかもしれない」
ノエルはそう小さく呟くと、一人輪を外れて出口の方へ歩いて行ってしまう。
「ノエル? どこへ行くの!」
「気にするな」
冷たく言い放たれたその声はいつものノエルとは違って拒絶の意思が全面に表れていた。今日はホワイトクリスマス。外は雪が舞っているのに、ノエルはわざわざどこに行こうとしているんだろう。
「レーヴェ様」
後ろから声を掛けられて、僕は後をついていこうと踏み出した足を戻した。
「あ、オリバーさん」
「どうかなさいましたか」
「いえ、それが、ノ――あ、何でもありません」
「そうですか?」
オリバーさんは張り付いたような笑顔を絶やさず僕の顔を覗き込む。けれどここでオリバーさんにノエルのことを伝えるのは憚られた。ノエルは今、一人になりたいんだろう。オリバーさんに話せばきっと面倒なことになる。
「はい、大丈夫です。それよりオリバーさんは今日、ずっと裏方に回るんですか?」
「そのつもりですよ。もしかしたら舞踏会で一曲くらいは踊らせていただくかもしれませんが」
「それは楽しみです。僕はダンスが苦手なのでオリバーさんのステップを見て参考にしますね」
「わたくしのもので参考に出来ればよいのですが。まぁ本日はあまり気負わずお楽しみください」
初めて出会った時と同じ執事のような衣装。その整った格好にはオリバーさんの性格が表れていると思う。仕事熱心。それでいて核心には触れさせない巧みな話術。素顔を隠すための張り付いた笑顔。
思えば彼の本音を見たのは、僕が候補になる直前の時だけかもしれない。候補になればこの城に囚われることになる、と警告してくれたオリバーさんの言葉は本当になってしまったけれど、候補になったことを後悔しているわけじゃない。少なくともあんな表情で苦言を吐いた彼よりは楽しく毎日を過ごしていると思う。
――この時、僕はあれ以来完璧を演じるオリバーさんを、少しからかってやりたくなったのかもしれない。
「舞踏会が開かれるのはこの二階でしたっけ。広いですよね、この古城。やっぱり元々『王宮』だったからでしょうか」
「そうですね。二階は王の側近の執務室だったんですよ。そして今、巫女様の部屋になっている部分は王の間。当時ソフィアの――巫女様の部屋は王宮にはなかったんです。……よくご存じでしたね、『この城が元々王宮だった』なんて」
オリバーさんがしまった、とばかりに表情をしかめたのを僕は見逃していなかった。ちょっとからかうだけのつもりだったのに、彼自身クリスマスということで少し浮かれていたのか思った以上の収穫だった。
「ええ、ちょっととある筋から分かったものですから。『ソフィア』さんという巫女様がいたのも知っていましたよ?」
「……貴方は。これ以上そのことに関して突っ込めば、取り返しのつかないことになりますよ。それではわたくしは次の準備がありますので、失礼いたします」
苦々しくそう言い放ちオリバーさんはそそくさと僕の元を去って行ってしまう。
オリバーさんは恐れたのだ。過去について何故か知識のある僕の前でこれ以上ボロを出すのを。トワの前の代からこの城にいると言うオリバーさんが、王宮の詳しい間取りを知っているだろうか。いや、まだこれは良い。城の管理者として調べていたのだと言われれば納得せざるをえない。しかし次はどうだろう。
オリバーさんは過去に巫女様であったソフィアさんのことを呼び捨てにした。
これはあの過去の時代にソフィアさんの近くにいた人物しか出来ないことだ。ましてや根っからの仕事人のごとく振舞っているオリバーさんが敬称を忘れるわけがない。
『貴方はあの過去の時代に生きていたんじゃないんですか』
それでも彼の後ろ姿に、まだ僕は疑問をぶつける勇気はなかった。
ただこれだけは確信できる。
オリバーさんは過去の出来事を詳しく知っている人物なのだ、と。
だんだんとレーヴェも核心に迫ってきている感じがありますね。




