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9.

がたん、と軽く揺れて馬車が止まる。

しばらくすると、ドアが開きセバスチャンさんの姿が現れた。

右手を差し出してくれるが、どうやら手を貸してくれるらしい。しばらく悩んだが、一応は初代勇者なのでそれを断り、馬車を降りた。


「やっぱり大きいねー」

正門らしき1番大きな門を見上げて、感嘆の声をあげる。

セバスチャンさんの先導により、門の脇の小さい門みたいなところから王宮に入る。

門番は、いつの日かの筋肉ムキムキおじいさんと私が回し蹴りした人たちだった。何これ超気まずい。

驚きに目を見開いたり、口をポカンと開けたり、にらんだりと反応が様々な門番さんたちの脇を通過し、お城の入口へと入った。


*


レグランド王宮の感想。

一言で言おう。でかい。

何なのあの庭、どんだけ広いの!? もう庭じゃないよね、森だよね!?

何階あるんですかいというような、日本の高層ビルに負けちゃいない高さといい! どこまで続くのというような長い長い廊下! あれもう、先見えないよね。

前宮だけであんな大きさなら後宮とかその他色々入れたら、どんな広さになるんだろうか。

世界って広いわー。

だから、思わずそんなことをつぶやいてしまってもバチは当たらないのである。多分。


通された貴賓室____ いや、私身分高くないから来客室か。

オテュール家別邸やさっきのマダムの店に負けず劣らず豪華な内装に驚きつつも、高級生地のふかふかソファに座りながら、出されたお茶を優雅に飲む。

気分は、中世の女性貴族だ。

いやー、それにしても空気で人は変わるものなんだね! ドレスとか豪華な部屋のおかげでもう綾音さん、立派レディですよ。マドモアゼルアヤネですよ。淑女たるものとか言っちゃいますよ。


などと考えていると、やはり重厚なつくりのドアがバンッと大きく開く。

ふふふふ、ついに私に会いたいなどと言うくせにこっちに来いという不届き者の登場ということですね!

この部屋を使っていることから、身分が高いことは伺えるけど綾音さん、権力には負けない強い女だから! いやでも、さすがに王様はなぁ……!


目に入った男は、どこか見覚えのある、というかほんの数日前に見た、しかし絶対認めたくない。

あの、金長髪男だった。

この前の騎士風の服装ではなく、王族・貴族が着るような格好。長髪はこの前見た時とは違い、うなじのあたりで1つに束ねられていた。確かあれ、オバンテールだよ。

空いた口が塞がらない私を横目に、不機嫌そうにどしんと正面のソファに座る。

え、何、こいつが私に会いたいって人? もしかして、騎士団長とかなの? いやいや、ないない、どう見ても見た目10代後半から20代前半だもん。騎士団長ってのはね、もっと壮年の無精ひげをはやしたようなワイルドなオジサマがやるようなものなのですよ。こんなわがままっぽい若造がやるもんじゃないんだよ!


「お前は誰だ」

「いやいや、それはこっちのセリフなんですけど! というか、あなたは誰ですか」

そして、お前の職業を言え。

貧乏ゆすりをしている金長髪男に告げると、はぁとため息をついて自己紹介をしてくれた。あれ、何げにやっぱいい人だよこの人!

「俺は、ノエル・ジュスト・ヴィクトリエだ」

「ほー。私は、以前紹介した通り都城綾音です。よろしくされることはないと思いますが、よろしくお願いします」

相変わらずの不機嫌な表情でつぶやくと、早く出ていけという風に私をにらむ。

何かその態度にイラっときたので、時間のある限りここに居座り続けることにした。紅茶もお菓子もおいしいしね!


「いいから早く出ていけ。俺は、3日前に不覚にも負けた男に会いたい」

「男?」

ノエルはこくり、とうなずくとまた足を震わせる。

もう優雅な仕草などどうでも良くなったので、ばりぼりとスコーンを頬張りながら聞き返した。どうでも良いけど、多分ノエルは身分が高いみたいだけどこんな態度で不敬罪とかにならないのだろうか。

3日前って…… 多分、決闘だよね、いや、確実に決闘だよね。

あー、私男だと思われているのか。そりゃまあ、男装していたし男性の長髪も普通の国ですからねぇ。まったくおかしくありませんわよねぇ。


「あのー、それ、私かと」

「………… はあ!?」

しまった! 反射神経というかで自分だと言ってしまったけど、私はまったく関係ない別人として振舞った方が良かったかもしれない。

だって、何かこの人と関わったら面倒なことになると私の直感がそう言っている。

目を見開き、素っ頓狂な声を上げたノエルは私をまじまじと見つめる。

しばらくし、こほん、とわざとらしい咳払いをした。

「お前……」

そう言うと無言で立ち上がり、部屋の出口へと向かう。ドアを開き、外にいる人と2、3言と会話を交わし、また私の正面のソファに座った。

すると、その音を合図にしたかのように部屋にメイドさんがわらわらと入ってくる。私に近づいてきたメイドさんたちは、笑顔で私の両手を引っ張るようにして立たせ、部屋の外へと向かう。


これまた豪華な部屋に通され、あっという間に身ぐるみはがされた私は、3日前に着ていたような騎士服と白いフードコートを着せられていた。

怖いくらいに笑顔なメイドさんたちに連行され、またノエルと会った部屋に戻る。

やっと拘束がとけたので、ささやかな抵抗としてわざと音を立ててソファに座り、わざと音を立ててお茶をすすり、わざと音を立ててお菓子を食べた。

私を見たノエルは、今度はそっちが空いた口が塞がらないようで、ぱくぱくと金魚のような状態になっていた。


「お前、もしかして3日前に俺と決闘した長髪女顔男か!?」

ソファから身を乗り出され、ガシッと肩を掴まれる。

私はごくりとお茶を飲み干し、テーブルの上に置いてから口を開いた。焦らしだよ、焦らし! イラっとくるのでさっきのようなささやかなる仕返しですよ。

「そうですけど?」

ふふん、どうだ、このさぞ当たり前というような表情! …… うん、ごめん。せいいっぱいのドヤ顔でノエルを見つめ直した。


「なんてことだ…… 俺は女に負けたのか…… 今まで1度も負けたことはなかったのに……」

おお、ふさぎこんじゃいましたね。

いや、女に負けたってちょっと女を見くびりすぎじゃない? そして、今まで1度も負けたことなかったって、ノエルってそんなに強いの? 事実上、剣での戦闘は初心者な私にだよ? いやいや、私だって剣道、柔道、合気道、空手、居合道、弓道を全国制覇した人間だよ。それなりに、力はある! ………… あるよね、多分。あ、あるって信じてる!

もしかしたら、ノエルが弱いんじゃなくて私が強すぎるのかもしれない。ノエルはこの世界では強いけど、異世界人である私よりは弱いのだー! あははー! とか?

「ま、まあ! そういうことだってありますよ!」

何と返していいのか分からず、思わず口からこぼれ出たその言葉に、ノエルがはっとした風に私を振り返る。

あああ、何で励ましてるんだ、私!


「そうだな、女、俺は強い。まぐれで勝ったくらいで我が物顔とはまったくあきれるぞ! ハハハハハ!」

「は、はあ…… 後私、都城綾音です……」

後、何かそれ違くないですか?

とは言えずに、ソファから立ち上がって思いっきり笑うノエルをただ呆然と見上げる。

立ち直るの早いなー。


「そうだ、まぐれで負けだまでだ! 俺は、女なぞに負けるような実力の持ち主ではないものな! ふはははは!」

………… はい、セーフセーフ。落ち着こうか。

「いや、俺は負けてなどいない! そもそも、こんなアホでなよなよとした貧弱なアマに俺が負けるはずはどない!」

………… セ、セェフ、セェフゥ。

「わ・ざ・と、勝たせてやったのだ! それも分からないとはまったく、やはり女は無能無知だな!」

………… はーい、もう綾音さんブチ切れますよ。MK0だよ。


「ちょっと言い過ぎだよねぇ、それ!? 私、この国のことよくは知らないけど、それなりに歴史はかじってるんだよ! レグランド、普通に女性の権力者とかいるよね!? 確かに男よりかは少ないけどさ、実力があればなれるよね!? 後、私勝ったから! 勝ったからね!? (多分)実力で勝ったから! まぐれじゃないから!」


立ち上がり、ノエルと目線を合わせてから思いっきりまくしたてる。

終わった後も何故だが怒りが収まらなくて、ふぅふぅと息を吐きながら、シュッシュッと宙に向かって拳を突き出していた。

というか、あまりの怒りに敬語忘れちゃったよ。まあいいか。この人だし。

唖然とした表情で私を見ているノエルは、ゆっくりとソファに腰を下ろす。

私、いや、私の方向を見つめながら動かなかったが、しばらくすると、壊れたように不敵な笑い声を上げた。

「ふふふ…… ははは…… フハハハハ!」

関わったら面倒なことになること間違いなしなので、聞いていないふりをして、シャドーボクシング的なことをやめ、お茶を飲んでいた。


「ハッ、女、言ってくれるではないか! この俺に! ノエル・ジュスト・ヴィクトリエ様に!」

「いやあなた、どんだけ俺様なのか知らないけど! というか、私を呼び出しておいて何か明確な用事はないわけ!?」

「だから、1度も負けたことのない俺が負けた相手とはどんな野郎か見たかったたのだ! しかし、この俺にでさえこんな口答えをするような貞淑さの欠片もない女だとは思いもしなかったがな!」

「あーあー、ごめんなさいね、私にはおしとやかさなんて微塵もありませんよ、ついこの前も門番を回し蹴りするような暴力女ですよ! だけど、私に会いたいっていうなら普通、そっちが私のところへ来るのが筋ってもんじゃないと思うのは私の思い違いだろうか!?」

「思い違いだ、この暴力女! 俺が自分で出向くなどありえないと言っても良い!」

「自分で出向くのがありえないって…… そも、あなたは誰なんですか、名前しか知らないし、身分も知らないんだけど!」

「お前、俺のことを知らないのか!? ………… ハッ、まあ、良い。教えてやろう。俺は____」


「______ 殿下」


そんな、自分でもしょうもないと思うような口喧嘩を繰り広げていると。

よく知った、しかし絶対に認めたくない、横から、第3の勢力が。


「アヤネ様もお変わりなく」

明らかに怒気を含んだその言葉に、怯えつつも恐る恐る振り向く。

既に両方とも相手の胸ぐらを掴むくらいにはヒートアップしていたノエルも、ロボットみたいなギクシャクした動きで声の主の方向へと顔を向ける。


「あ、アルド………… と、というか、何故ここに…… そ、それに今殿下って…………」

引きつった笑顔のアルドは、今まで(といっても10日と10年前の1日だけけだけど)見たこともないように怖かった。本気(マジ)でバックに炎揺れてた。

「何故とは、ここは王宮ですから。はい、殿下とお呼びするのが適切と思いますが」

「いや、何で適切なのかな!?」

うん、これは3日前より怒ってるよね!

というか何なの、ここの国のは怒ったら笑顔装着しなきゃいけない法律とかあるの!?


「ノエル・ジュスト・ヴィクトリエ様は、レグランド王国の王太子殿下ですので」


………… 王、太、子?

王太子ってつまり、次期国王で現国王の子供…… つまり。


「王子ぃぃぃっ!?」

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