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7.風呂造り①

 魔王──ネルと風呂で一緒になった翌日。早速俺は男湯を作るべく、昨日のうちにネルに頼んで確保していたスペースに向かう。


 女湯の横にある、今は使っていないらしい空き部屋群。壁を取り払えば、温泉並みの大きさで風呂を作れるだろう。


「さて、どうしよっかなー。折角だし温泉みたくジェットバスとか露天風呂とかも作りたいよな。……まあ、まずは壁を取り払うか」


 各湯船の大きさや配置を考えるにも壁は邪魔だ。俺は闇属性魔術「バニッシュ」を発動し、右手に黒い霧を纏う。そして霧を纏った手で消したい壁に触れると、壁は一瞬で灰燼に帰した。


「和也様。わたしもバニッシュを習得しております。お手伝いいたしましょうか?」


 俺に付いてきていた専属メイドのリーズがそう言ってくれて、俺は素直にうなずいた。


「ああ。助かるよリーズ。それならリーズは反対側の壁から消していってくれ」


「承知いたしました」


 そうして、五分とかからず壁を除去することができた。


「お疲れ。リーズ」


「いえ」


 壁がなくなった男湯予定地は、天井が通常民家の二階建て分くらいの高さにあり、広い風呂場を作るのにはもってこいだ。それに廊下と反対側の壁は中庭と隣接している。木の板で区切れば露天風呂を作ることも可能だ。


「さてと。下準備は整ったことだし、まずは間取りから決めていくか」


 そう言って俺は、腰に下げているアイテムポーチ(小)から紙と羽ペンを取り出す。そして紙を床に広げ、端の方に作りたいものや必要なものを箇条書きにしていった。


「っと。とりあえずはこんなところかな」


 ふぅと一息ついて、書いたものを確認する。


・脱衣所

・洗面台

・熱めの風呂

・ちょうどいい温度の風呂(大きめに)

・ジェットバス

・サウナと水風呂

・露天風呂

・桶風呂


「大丈夫そうだな。……次は見取り図か」


 まず紙に部屋全体を表す長方形を描き、実際の部屋の大きさと見比べながら箇条書きしたものを配置していく。


 脱衣所とサウナは左の壁際に配置し、洗面台は右と下の壁際に並べる。上の壁際には水風呂とジェットバスを並べ真ん中あたりに熱い風呂と通常風呂を並べた。


「露天風呂は……今は出入り口の位置だけ描いておけばいいか」


 露天風呂を作る敷地はまだ確保していないため、設計のしようがない。だから今は、上側の壁に中庭に通じる扉を描き足して見取り図の完成だ。


 よし。無難な配置だけど悪くないな! じゃあ最初は脱衣所とサウナの壁から作るか。


 俺は見取り図と部屋を見比べで位置を確認してから、土属性魔術で壁を生み出す。脱衣所とサウナ、サウナや脱衣所と浴室を区切る壁を作り終えると、今度は扉を埋め込むための穴を開けた。


 それから穴をくぐって脱衣所に行ったところで、リーズがいたことを思い出した。


 あ、リーズもずっと立っているだけじゃ暇だよな。


「リーズ。ちょっと来てくれ」


「はい。何でしょう?」


 俺はリーズを脱衣所に呼び、巻尺を渡した。


「これでこの部屋の広さを図って、ロッカーがどれだけ必要か計算して欲しいんだ」


 そう言って、俺は計算用の紙と羽ペンもリーズに渡す。


「承知いたしました」


「あ、洗面台は置く予定だから、そのスペースは開けておいてくれ」


「はい」


「じゃあ頼んだぞ」


 そうして俺はリーズを脱衣所に残し、浴室に戻る。


 ここからはもう流れ作業だ。まずは元々の床をバニッシュで消し、土属性魔術で岩肌チックな床に加工。見取り図と部屋を見比べ、同じく土属性魔術で浴槽用の穴を開けていく。そして浴槽穴の壁や地面に丸みを帯びた岩を生成し、温泉のような見た目に変更した。


 それから洗面台用の低い壁と台も土属性魔術で生成した。最後に洗面台の下に傾斜を付けた溝を掘り、水が排水溝予定地に流れるように調整して終了だ。


「ふぅ……こうしてみると、土属性魔術ってホント便利だな」


 魔術って実は面白いのか? 


 社畜な勇者をやっていた時は時間も気力もなくて、趣味のために魔術を使うことなんてなかったから気付かなかった。勇者時代にはなかった余裕が、この世界の面白さに気付かせてくれる。


 風呂造りとかが落ち着いたら、のんびりと異世界ならではの面白いものを探してみるっていうのも悪くないかもしれないな。


 そんなことを考えていると、見惚れるほど綺麗な姿勢で歩くリーズの足音が聞こえてくる。


「和也様。ロッカーの必要数、計算が完了しました。ご確認ください」


「ああ。ありがとなリーズ」


 リーズから差し出された計算用紙を受け取り、計算結果を確認する。その瞬間、俺は目を見開いた。


「はっ!? 四千二百五十三!?」


 脱衣所の広さは、日本にある一般的な銭湯の脱衣所と大して変わらない。どう考えても数値がおかしい。


 なんでこの数字を平然と渡せるんだよ!? リーズって賢そうに見えて本当はバ──いや、落ち着くんだ俺。たった一度のミスで決めつけるのはよくないぞ。今日はたまたまリーズの調子が悪かっただけかもしれないからな。


 相変わらず無表情なリーズの顔をチラッと見てから、計算過程を最初から追っていく。内容は、小学生高学年なら解けるものだ。


「……ああ、ここか。リーズ、ここの部分割り算なのに掛けてるぞ」


「……そうですね。申し訳ございません」


「いや、謝らなくていいよ。誰にでもミスはあるからさ」


「ご容赦いただきありがとうございます」


「だからもういいって。顔を上げてくれよ」


 頭を下げ続けるリーズを説得し、なんとか顔を上げてもらった。俺は、計算し直した結果を紙に書き、リーズに返す。


「じゃあそこに書いてある数のロッカーと、洗面器と洗面台用の椅子を五十個ずつ。それと桶風呂を五個。発注しておいてくれるか?」


「かしこまりました」


「あと、脱衣所と浴室の洗面台と、扉と排水溝工事の依頼も頼む」


「かしこまりました。早急に手配いたします」


「ありがとなリーズ。でも無理だけはしないでくれよ」


「はい。お気遣いありがとうございます」


 うーん……そんなに硬くならなくてもいいのになー。


 俺の気持ちにリーズが気付くはずもなく、彼女は一礼して部屋を出ていく。


 ……ああえっと、あと必要なのは──お湯を沸かす火魔石だな。けどどうする? 実際試してみないと、どのくらいの数必要かは分からないぞ……?


 一つの魔石でどの程度水を温められるかが分からないから、必要数を計算しようがない。それにどのみち大量に必要になる。要するに、火魔石を普通に注文するのは面倒。ちなみに俺には魔石を作る技術はない。


「まあ、カイルと交渉するしかないよなぁ……」


 元勇者パーティーの魔術師カイル。彼は一言で言うと魔術バカで、魔王城に来てからもずっと引きこもって魔術の研究をしている。そう言うわけで、ただお願いするだけだとカイルは魔石を作ってくれないだろう。


「けどこれを渡せば……」


 俺はディメンションホールを展開し、日本の自宅からある物を取り寄せ、カイルのいる部屋へと向かった。

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