5.焼き魚と、光の四天王
「ルミナ? 俺そんな名前の魔族と会ったことないけど」
塩作りのために必要な光属性魔術を扱える唯一の魔族。その名前に、俺は全く聞き覚えがなかった。
「何を言っておる。其方はジリル城塞都市でルミナと剣を交えたであろう?」
「ジリル城塞都市……あー、それは分かんないわ。あの時は俺とカイルの魔術で一気に倒したから、魔族たちの顔見てないんだよ」
「それはまた……まあ良い。今念話でルミナをこの場に呼んだ。一刻もあれば来るだろう」
「一時間か……それなら魚でも焼いて食べないか?」
***
「ほう! 塩を振るだけでこれほどまでに美味になるのか」
魔術で魚を捕まえ、塩を振って串に刺し、焚火で焼く。それから最後に軽く塩を振って完成。食欲をそそる香ばしい焦茶色の中に、ところどころ塩が光る焼き魚にかぶりつき、魔王は感嘆の声を上げた。
俺も焼き魚を一口かじる。
うん。ちょうどいい塩加減だ。
味付けを確認してから、少し離れた位置で静観していたリーズに魚を持っていく。
「リーズも食べるか?」
「お構いなく」
自分はメイドだからって遠慮してるのかな?
「リーズって魚苦手だったりする?」
「いえ、そのようなことはございません」
「なら食べてみてくれ。味付けがちゃんとできてるかどうか感想を教えて欲しいんだ」
そう言って俺は半ば強引に魚の串をリーズに渡す。そうでもしないとリーズは受け取ってくれないだろうし、それにもう昼過ぎだ。リーズだってお腹が空いているだろう。
「承知いたしました」
頷いたリーズは、垂れてきた髪を耳にかけ、小さめの一口で魚をかじる。それから目を閉じ、焼き魚を丁寧に味わうように咀嚼し、ゆっくりと飲み込んだ。
「これは……おいしい、ですね。既存の焼き魚よりも塩味が強く、かといって不快なほど塩辛いわけでもない絶妙な味付けだと存じます」
リーズは、相変わらずの無表情のまま、味付けの確認という建前を遂行した。
真面目だなー。
リーズの真面目さに表情を緩め、俺も焼き魚をかじった。
それから約十分後──。
「おまたせー!」
空から明るい女性の声が響いてきた。見上げると、青の魔術師ローブに身を包んだ、金──というより黄色に近い短めの髪をサイドテールに結んだ人影が飛んできていた。背には、光属性魔術で構築された金色の翼が生えている。
すると彼女は、まだ地上から五十メートルくらいはありそうな位置で翼を消した。
「よっと。魔王様待ったー?」
砂埃一つ立てず、スタッと俺たちのすぐそばに着地したルミナ。彼女の身長は百五十センチちょっと。小柄で細身で胸は控えめ。一つ特徴を上げるとすれば、目は左が金、右が赤のオッドアイだということだ。
「問題ない。ご苦労であったなルミナ」
「うん! 魔王様のためならいつでも駆けつけるよ!」
親指を上げて、太陽のように眩しい笑顔を浮かべるルミナ。彼女を見ていると「光の」四天王と呼ばれる理由が光属性魔術への適正だけではないことがよく分かった。それに──。
「魔王って、すごく慕われてるんだな」
手持ち無沙汰になりリーズに話しかけると、リーズは抑揚のない声で応えてくれる。
「はい。今代の魔王様は先代までの魔王と違い、そのお力だけでなく魔族を思うカリスマによって魔王の座に就かれたのです。ですから人望が厚いのは当然です」
ん? なんかリーズいつもより早口じゃないか? それに目もなんか生気あるし、俺の友達が昔、推しのアイドルに向けてた目と若干似てる気が──。
「勇者さん!」
不意にルミナが俺を呼んだ。気付けば彼女は、いつの間にか俺の目の前にいた。
「えっ? あ、なんだ?」
「あのね。あたし勇者さんに会ったら伝えたいことがあったんだよ」
声のトーンを下げたルミナが、サイドテールを揺らして一歩近づいてくる。
この雰囲気、信用できないから魔王城から出ていけとか言われるんじゃ……。
「な、なんだ?」
恐る恐る俺が聞き返すと、ルミナはバッと頭を下げた。
「勇者さん、ジリルであたしたちを殺さないでくれてありがとう!」
なんだそんなことかぁ……。
俺は安堵に胸を撫でおろした。
「頭を上げてくれルミナ。俺が魔族を一人も殺さなかったのは自分のためなんだ。だからお礼を言われる筋合いはないんだよ」
もし俺が魔族を殺していたら、恨みやらなんやらで魔王城スローライフなんて送れなかった。それに俺はこの世界の人間じゃないから、「人族のために」なんて都合のいい免罪符で魔族を殺す気にはなれなかった。
「でも! あたしたちが助かったのは勇者さんみたいな優しい人が勇者だったおかげだよ!」
「そんなことないって……あー、えっと、魚食べるか?」
「うん……」
いつまでたっても頭を上げないルミナに、余っていた焼き魚を渡してみる。するとルミナはすんなりと頭を上げ、魚にかじりついた。
「……んん!? ふぁにふぉれ!? ふっごふおいひい!」
「ルミナ……飲み込んでから話せ。何を言っておるのか全く分からんぞ」
笑顔でバクバクと焼き魚を食べていくルミナに、魔王が呆れた目を向ける。それから十秒と経たずに焼き魚を全て飲み込んだルミナは、左右で色の違う目をキラキラさせて俺に詰め寄る。
「勇者さんこれ何っ!? こんなにおいしいものあたし初めて食べたよ!」
「塩を振って魚を焼いただけだ」
「塩って何?」
「ああ。その塩を作るのに光属性魔術が必要だから、魔王にルミナを呼んでもらったんだ」
「そうなんだ。こんなにおいしいものが食べられるならあたし、塩作り頑張るよっ!」
「ありがとな。……ああそれと、俺はもう勇者じゃなくてただの雨取和也だから、名前で呼んでくれると嬉しい」
「分かったよ和也!」
「じゃあ、早速教えるぞ」
「うんっ!」
そうして俺は、ルミナに塩の作り方を教えた。
三十分ほどして、塩作りレクチャーは無事終了した。途中、塩をエクスプロージョンで蒸発させるときに、ルミナが火力を誤って水槽ごと木っ端微塵にしてめちゃくちゃ落ち込んでたけど。
「……できた……できたよ和也!」
水槽に付いた白い粉を指差してルミナが声を上げる。俺はその粉を一口舐め、頷いた。
「うん。できてるな。おめでとうルミナ」
「やったぁ!」
ルミナは黄色のサイドテールを揺らし大はしゃぎ。少しオーバーな気もするが、一度大失敗をしているから成功の喜びも大きいのだろう。
「魔王。ルミナに塩の生産を任せて大丈夫か?」
「うむ。問題ない。其方からみても問題はないか?」
「ああ。大丈夫だと思う。けど塩を大量生産するなら、浄化以外の部分は他の魔術師にやらせないとルミナの負担が大きくなるぞ?」
「分かっておる。そこは我が魔王軍の魔術師部隊の者たちを送ろう」
「そうか。今のは余計なお世話だったな」
これで塩の生産は任せられる。だけど、他の調味料を作るにはいろんな作物が必要なんだよなー。
ここ魔族領の土地は死んでいて、特定の生命力が強い植物しか育たない。再生には高度な魔術と専門的な知識が必要で、それらを持っているのはエルフ族くらい……。
「あ、そう言えばエルフ族って魔族と人族に対して中立だったよな」
「うむ。それがどうかしたか?」
「塩以外の調味料には素材として作物が必要なんだ。エルフ族と交渉して魔族領に畑を作ったらいいかなって思ったんだよ」
「ふむ。なるほどな。であれば、エルフ族との交渉の場を用意しよう」
「ありがとな魔王。それで、交渉できるのはどのくらい後になる?」
「おそらく、二週間以上はかかるだろうな」
二週間か。その間ずっと味付けは塩だけかぁ……。
まあ、あの硬いベットもどうにかしたいし、のんびり待つか。
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