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32.改良と、売り込み

「はっ? 広める? ボクの話聞いてたか? そんなのめんどいって」


 トリスが持ってきた「マークナンバーズカード」──トランプに類似したゲーム。俺はその完成度とトリスのゲームクリエイターとしての才能に可能性を感じ「大人も楽しめるゲーム」というものを広めようと決めた。


 というのもこの世界、子ども向けのものや貴族向けの気品漂うゲームはあるものの、気軽に楽しめる大人向けのゲームに乏しい。


 トリスのマークナンバーズカードを流行らせれば、それに触発された人たちがいろんなゲームを開発してくれるかもしれない。そうして大人向けゲームがブームになれば、商人も利益を求めてゲームを取り扱うようになるだろう。そうなれば俺も楽しめる。


 最近ラノベやマンガ読むだけだったからな。もっと娯楽が欲しい。


「トリス。面倒くさいのは最初の数日だけだ。軌道に乗せれば後は勝手に広まる」


「それにしたって面倒だね。ボクは自由にやりたいことだけしていたいんだ」


「なら、なおさら広めた方がいいぞ」


「はっ? どーゆーことさ?」


「トリスのやりたいことってナンパだろ? それなら『大流行ゲームを作ったクリエイター』って肩書きがあれば、『王子』って言われてもピンとこない他種族の庶民層とかにも名前が知られて──」


「かわいい女の子たちがボクに寄ってくるってことね。いいじゃんそれ! やろう!」


 あまり使いたくなかった手札だったが、ナンパに有利と聞いた途端に乗り気になるトリス。それでいいのか王子様……。


「あー、俺から言っておいてなんだがほどほどにしておけよ。……あと無理やりは絶対やめろ」


「はいはい。和也までアイリスみたいなこと言うなよ、硬いなぁ」


 それから俺は、念のため魔族の宰相セバスさんとエルフ族の外交官アイリスさんに「魔族領にマークナンバーズカードを広めてもいいか?」と確認を取った。


 一応トリスは他種族の王子だし、勝手に他種族領で異文化を広めたと問題になったら俺では責任を取れないから。


 ちなみにアイリスさんには最初渋られた。が、「魔族領でうまくいったらエルフ族領や人族領でも広めていい」と言ってなんとか許可をもらった。


「ってことで許可は取ってきたから次はどうやって広めるかだな。俺の考えを話すぞ。何か疑問に思ったり変だと思ったりしたらすぐに聞いてくれ」


「オッケー」


「はい」


「まずは城下町で広める。酒場とか冒険者ギルドとか、人が集まるところで宣伝するんだ。子どもたちのたまり場とかでもいいな。それで宣伝した場所にマークナンバーズカードを置いていって、その時いなかった人にも広まるようにする。ここまではいいか?」


 二人の顔を見回すと、椅子に座ったリーズは静かに頷く。俺のベッドに寝転がるトリスは軽薄な笑みを浮かべたまま「いいんじゃね」とだけ言った。


「なら続けるぞ。って言っても、その後は基本マークナンバーズカードが広まるのを待つだけだけどな。商人を通して噂は魔族領中に広がるだろうし、流行り物は売れるから、商人たちが勝手に量産すればさらに広がるだろう。つまり俺たちは初期宣伝だけ頑張ればいいってことだ」


 利益を得るのが目的ではない分、競合他社との差別化やら量産体制の確保やらをしなくていいのだ。


「ってことで、後はマークナンバーズカードを少しだけ改良するぞ。今は数字とマークしか書いてないが、これだと文字読めない人はできないからな」


 そうして、現代のトランプのようにマークの数で数字を表すことにした。そして俺たちが伝えるルールのまとめ作業に入る。


「なあトリス。このゲーム名、変えてもいいか?」


 俺は、トリスが作ったルールを書き出した紙のタイトル欄を見て苦笑いする。そこには、役作りゲーム、数字合わせゲーム、手札ゼロになったら勝ちゲームと、ネーミングセンスの欠片もないタイトルが並んでいた。


「んー? いいよー」


 結果。ゲーム名は日本の近いルールのゲーム名に変更した。そして今回宣伝するルールに選んだのは、大富豪、神経衰弱、ブラックジャック、ポーカーの四種類だ。


「で、後はマークナンバーズカードを五十組作る。俺はカード用の板材を作るから、二人はこのハンコを使ってマークと数字を入れてくれ」


 俺はインクと羽ペン、そして土属性魔術で作ったハンコを二人に渡す。


「承知いたしました」


「えーめんどー……でも、まぁ、これでかわいい女の子たちにモテるんなら頑張っちゃおっかなぁ」


 そうして俺はひたすら剣で板材を切り続け、トリスとリーズはハンコを押し、数字を書いた。俺は必要数の板材を切り終えると二人に合流し、最後は三人でカードにマークと数字を入れていく。


 適度に休憩を取りつつ、雑談もしながら作業を進め、窓の外が暗くなり始めた頃、ようやく作業最後の一組が完成した。


「ふぅ……完成だな。ちょうど酒場と食堂が繁盛する時間だし、早速売り込みに行くか」


 俺は変化の腕輪を使い魔族に化け、リーズとトリスはフード付きのローブを纏う。そうして俺たちは城下町の一角にある食堂に足を踏み入れた。


 まだ客は少なかったが、奥の長テーブルで冒険者らしき三人組の男たちが乾杯しているのが見えた。


「最初はあの三人にするぞ」


「えぇー。あんなむさくるしいやつらより、ボクはかわいい女の子たちと遊びたいなぁ」


「そう言うと思ったよ。けどほかに客いないんだから仕方ないだろ?」


「ちぇっ……はいはい分かりましたよー」


 軽薄な返事をしたトリスはフードを脱ぎ、頭の後ろで手を組んだ。そしてそのまま三人組へと声をかける。


「ねぇキミたち。一緒にいいかな?」


「ん? エルフ? ……まあいいや。ここで会ったのも何かの縁だ。いいぜ」


 顔に傷がある大男は低い声で俺たちの同席を歓迎してくれた。それから俺たちは軽く飲みながら会話した。


 そして夕食を半分以上食べ終えた頃を見計らい、トリスはカード入りの箱を取り出す。


「ねぇキミたち、面白い遊びがあるんだけどやらなーい?」


「面白い遊び?」


 ほろ酔いで顔を赤くした冒険者たちが興味を示す。するとトリスは軽薄な笑みを濃くし、カードを配りながら大富豪のルール説明を始めた。


「……ルールはよく分かったが、本当に面白いのか?」


「なんかガキ向けって感じがするよな」


 最初はそう言って腕を組み、疑わしげな目をしていた冒険者たちだったが、二、三ゲーム終わった頃には──。


「よっしゃ! おれ一位!」


「なんだよこれ、めちゃくちゃおもしれぇー!」


 娯楽の少ないこの世界、大富豪という完成されたゲームに冒険者たちは席から立ち上がり、ご飯を食べるのも忘れて熱中していた。


 なんか、思ってた以上に好評だな……。


「なんだなんだ?」


「面白そうなことやってるなおまえら!」


 騒ぎを聞きつけ、他の席に座っていた客も集まってきた。


「みんなよく聞けよー! このゲームを作ったのはこのボク、トリ──んん! ボクが尊敬するエルフ族第一王子トリンスト・フォン・ホーリンス様だぞー」


「「「うおぉぉぉ!」」」


 ちゃっかりトリスは、目的である名声を広めようと声を張る。それに応えて、周囲の客たちが腕を突き上げ吠えた。


 そうして食堂はマークナンバーズカードで持ちきりとなり、最初の店での宣伝は大成功に納まった。


 店を出る際、これから酒場をはしごする予定のある人たちには何組か渡し、他の酒場でも配ってもらう約束をした。


 その時もトリスは自分の名前を売ることに抜かりはなかった。


「はしご先でもちゃんと、トリンスト王子が作ったって言えよー」


「おう! 任せな」


 そうして俺たちはいろんな食堂や酒場を周り、日付が変わる頃魔王城に戻った。結果、今日は合計四十組配ることができた。


***


 翌日の昼下がり。残りの十組を配るべく、路地裏や空き地など子どもたちの集まる場所に足を運んだ。子どもたちにルールを教え、少し遊んでからまた別の場所へ。そうやって手持ちのマークナンバーズカードを配り終え魔王城に戻ったのは、辺りが薄暗くなった頃だった。


 ふぅ……結構時間かかったけど、後は結果を見守るだけだな。


「お疲れ。二人とも」


「和也様もお疲れ様です」


「あぁ疲れた疲れたー。……でもこれでかわいい女の子たちに好かれるんだなっ? じゃ、ボクは今からナンパに──」


「いや、まだマークナンバーズカード広がってないんだから効果でないだろ」


「あぁそっか。そりゃそうだ」


 疲れたとか言いつつ元気があり余っているトリス。彼の間の抜けた声に、俺は思わず表情を崩した。


 その翌日。いよいよトリスと光竜の和解交渉が行われるのだった。

この話を読んでいただきありがとうございます!


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