31.トリスの遊び
エルフ族の王子トリスが魔王城に来た翌日。
朝食を摂り終え、リーズに部屋を掃除してもらっていると、バタンッといきなり扉が開いた。
「和也いるかー? ナンパいかない?」
部屋に入ってきたトリスは開口一番チャラ男発言をすると、プラチナブロンドの前髪をファッサァーと掻き上げた。
「トリス……またアイリスさんに蹴られるぞ」
俺はトリスに白い目を向けながら、自然にリーズとトリスの間に立つ。
「つれないなぁ……」
「それより公務とか大丈夫なのか? トリスは王子なんだろ?」
「公務ならアイリスがやってるよ。ボクは建前上ついてきただけなんだ。お飾りの王子様ってやつ。だからボクは公務をやらなくていいんだよ。最高だろぉ?」
「そう……なのか……トリスはそれでいいのか?」
お飾りの王子様って自分で言ってて悲しく……ならなそうだなートリスは。
「ああ。なんせほとんど仕事しなくても王子様って言うかっこいい肩書きが手に入るんだ。こんな役得他にないだろぉ?」
エルフ族はなんで光竜との大事な和解交渉にトリスを選んだんだよ……。
軽薄に笑い、胸を張って言い切ったトリス。彼に呆れていると、昨日彼が言った一言が脳裏をよぎる。
『ボクなら、同胞を裏切るようなことはしないぞ?』
まあ、仲間思いではあるのか。案外、光竜との対談にはそれが一番大事なのかもな。
「それにボクはバカだし魔術の腕もないのさ。だから、ボクより向いてるやつがいるならそいつにやらせた方がいいじゃん」
トリスが言うと、不思議と自虐しているようには聞こえなかった。ただ事実を言った。そんな感じだ。
「トリスは達観してるな」
「へぇー。キミにはそう見えるんだ。そんなこと言われたのは初めてだよ」
「そうなのか?」
「そうだぞー。百年以上生きてきて始めて言われたよ」
「えっ……!?」
思わず目を見開き、トリスの全身を舐めるように見てしまう。色白でスラリとした体つきに、シワ一つないイケメンな顔。どう見ても二十歳前後の容姿だ。
百……? 同い年くらいだと思ってたのに。
「トリスって今──」
「百二十六歳だ」
「マジか……」
流石エルフ……ってか百二十年も生きてまだナンパしてるのか……。
「なあそれよりさー。ナンパが嫌なら、面白い遊びを教えてやるよ」
そう言ってニヤリと怪しい笑みを浮かべ、肩を組んでくるトリス。俺は真横にある彼の顔にジト目を向ける。
「遊びって、違法なやつじゃないよな……」
「違う違う。これだよこれ。このボク自ら発明した──『マークナンバーズカード』!」
えっ……? その名前にその見た目、もしかして……。
トリスがポケットから取り出し俺の顔の前で振ったのは、薄い長方形の箱だった。ある物に既視感しかない物を出されて固まっていると、トリスは我が物顔で俺のダブルベッドにあぐらをかいた。そして俺を手招きし、箱の中身をベッドの上に広げる。
「この札一枚一枚にはそれぞれゼロから九の数字とマークが書いてあってな、──」
やっぱりこれトランプだ。素材が薄い板材で、数字がゼロから九ってところ以外は後は同じ……。
「トリスこれ、ゼロから自分で考えたのか?」
「んー? そうだよ。手軽に遊べるゲームって運要素がないのばっかりでつまんなかったからさー。運に左右されるゲームを作ったんだ」
「すごいなトリス……見直したぞ」
「だろぉ?」
調子に乗って鼻を伸ばすトリスを見ても、今は素直な尊敬しか出てこない。
ゼロから新しいゲームを作るなんてすごいな! ゲームクリエイターじゃん。
「そんなことよりさ、やろうか。……ねぇ! そこのキミも一緒にどうだい?」
そう言ってトリスは昨日のことを悪びれもせずリーズに向かってウインクした。
あー、やっぱりトリスはトリスだな……。けどリーズもトランプで遊んだことないだろうし、もしかしたらリーズの新しい趣味になってくれるかもしれない、か。
「リーズ。トリスはリーズに近づけさせないから試しに一回どうだ? 楽しいかもしれないぞ」
「はぁ……? 承知いたしました」
「和也さーん? 少しはボクを信頼してくれてもいいじゃないのかなー?」
「トリスのどこに信頼できる要素があったんだよ……」
「ひっどいなー」
「あ、リーズもベッドの上に座っていいぞ」
「はい」
リーズは靴を脱ぎ、何の抵抗もなくベッドに座る。以前ならば遠慮していただろうが、少しは心を許してくれたのかな。
それから俺たちは神経衰弱改め「数字合わせゲーム」、ブラックジャック改め「二十一作りゲーム」、ポーカー改め「役作りゲーム」大富豪改め「手札ゼロになったやつが勝ちゲーム」とプレイしていく。
いやぁ……久々に遊ぶとトランプって楽しいな。今度ネルも誘ってみようかな。
「それにしてもトリス。ネーミングセンスひどいな」
「名前なんて内容が分かればいいじゃん」
「そうか?」
「そうさ」
俺は手札を場に出し、リーズの方を見る。
うーん……微妙だったかな。
リーズはいつも通り無表情のまま手札を切る。景色を見た時のように笑ってはくれていない。かといって「楽しいか?」と直接聞いても本心を答えてはくれないだろう。
トリスたちが帰ったら、またリーズとどこかに景色を見に行くか。景色見て興奮してる時なら本心を離してくれるかもしれないしな。
「なあトリス。これって売ったりしてるのか?」
一通り遊び終えた後、カードをまとめながらトリスに聞く。
「いいや、売ってないよ。だって面倒だし。ま、一緒に遊んだ女の子たちには評判なんだけどねぇ」
一度褒めたらとことん自慢を挟んでくるトリス。そんな鼻につく行動すら気にならないほど、俺は手に持ったカードをじっと見つめ考え込む。
ゼロから新しいゲームを作れるのは間違いなくトリスの才能だ。チャラくて鼻につくけど悪いやつじゃないし、このまま成長してくれれば地球にもなかった面白いゲームを作ってくれるかもしれない。
それに、こういうゲームをプレイして触発された人たちが、もっと面白いゲームを作ってくれるかもしれない。
俺はトリスを、ゲーム作りに関してのみ、本当にその点だけは尊敬し、援助することを決意した。
「なあトリス。これ、国中に広めないか?」




