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33.光竜との和解交渉と、カードの反響と、エルフ族の旅立ち

「和也よ。我の前にエルフ族を連れてくるなど、どういうつもりじゃ?」


 光影山の頂上。ネルにセバスさん、そしてトリスとアイリスさんを連れて光竜が住む神殿の中に足を踏み入れた途端、光竜はその雄大な翼を広げ威嚇してきた。


「……っ!」


 光竜の圧に気圧されたアイリスさんは腕を抱え、肩を振るわせる。トリスは同胞の未来を背負っていることもあって、一歩も引かずに光竜の虹色の瞳と視線を交える。


 俺は両者の間に立ち、光竜と向かい合った。


「光竜。おまえがエルフ族を嫌う理由は、二千年以上前に交渉したエルフが対価を支払わなかったからだろう?」


「そうじゃ。この我を謀り、勇者の聖剣と並ぶ神器を奪い去った。この罪は重い」


「確かにそれは、おまえがエルフ族を憎むのには十分な理由だ。けど、エルフの寿命は千年だ。もうおまえから神器を盗んだやつは死んでるし、当時生きていたエルフはもう誰もいないんだ。同じ種族だからって、子孫に罪はないだろ?」


「お主は、当人が死んだからとその種族か犯した罪が消えるとでも言いたいのか?」


「いや、そこまでは言ってないぞ。俺はただ、もう一度チャンスを与えてもいいんじゃないかと言っているんだ。ここにいるエルフ族の王子に、神器の対価を払っておまえと和解するチャンスを与えてもいいだろ?」


「…………」


 光竜は黙り込み、その全てを見通すような虹色の双眸でトリスを凝視する。光竜がトリスを見定めていると、不意にトリスが、その圧力にひるむことなく一歩前に出た。


「光竜。私たちの祖先がすまないことをした。その件に関しては謝罪する。だがどうか、今一度エルフ族を信じてくれないか? 私たちがあなたの信頼に値すると示す機会をくれないだろうか?」


 普段の軽薄さは微塵も感じられない、引き締まった表情とよく通る声で話すトリス。天井の穴から差し込む光がスポットライトのように彼を照らす。その姿に、俺は目を奪われた。


 トリス。やっぱり公務の時はホントにかっこいいな……。


「光竜よ。妾からも頼む」


 ネルも光竜を真っすぐに見据える。俺、トリス含め三人から真っすぐな視線を向けられて、光竜はようやく目を閉じた。


「よかろう。ならばエルフの王子よ。ひと月以内に月光石を持ってくるのじゃ。それが、お主らエルフ族に与える対価じゃ」


「光竜よ。感謝する」


 こうして、エルフ族と光竜の和解交渉は成功した。


***


 二日後。曇天の中、トリスたちはエルフ族領に戻るべく馬車に乗り込む。


「またな。トリス」


「うん。じゃあねー」


 いざ見送りとなると意外と話すことが出てこなくて、簡単な別れの挨拶だけかわすと、馬車の扉を閉めた。


 すぐ隣では、ネルとアイリスさんが堅苦しい挨拶をかわしている。


「魔王様この度は魔王城に宿泊させていただいたこと、エルフ族を代表して感謝いたします」


「うむ。またいつでも来るがよい。歓迎するぞ」


「ありがとうございます」


 そうしてアイリスさんも別の馬車に乗り込み、いよいよ馬車が出発する。その時だった。


「「「トリンスト王子ー!」」」


 城門の外から、大勢の魔族の声が響いてきた。


「なんだ? 暴動か? ……セバス、早く警備を──」


「待てネル。大丈夫だ」


 冷静に鎮圧を測ろうとするネル。けれど、俺はネルを手で制した。城門周辺にいる魔族たちの手にはマークナンバーズカードが握られていたから。


「む? 和也。其方はあやつらが無害だと言うのか?」


「ああ。理由はすぐに分かるぞ」


 そう言って俺がネルに微笑むと同時、城門前を埋め尽くす群衆から声が飛んでくる。


「こんなおもしれーもん作ってくれてありがとうございまーす!」


「おかげで仕事後の楽しみが増えましたー!」


「生きがい増やしてくれてありがとー!」


 まさかこんなに早く広まるとは思わなかったなー。まあそれだけ、この世界の娯楽は少なくて、みんな娯楽に飢えてるってことか。


「なぁ和也……これ、何が起こってるんだよー!?」


 混乱して翡翠色の瞳を揺らし、馬車の窓から上半身を乗り出すトリス。彼に浴びせられる感謝を聞いていると、なぜか俺まで嬉しくなって──俺は自然とトリスに笑いかけていた。


「ん? これはな、トリスがすごいゲームを作ったってことの証明だよ」


「なんだよそれぇ……! 分っかんねぇよ」


「ハハッ……! トリスってアイリスさんに怒られる以外で焦ることもあるんだなー!」


「はぁ!? おまえはなんで笑ってるんだよぉ?」


 トリスがそんな情けない声を出した直後、先頭馬車の御者が声を張り上げる。


「彼らは王子殿下を祝福しているようですので、このまま出発いたします!」


「はっ!? おい和也。早く答えろよぉ」


「いや、だから、あの人たちはトリスが作ったゲームに熱狂して、感謝を叫びたくなったんじゃないか?」


「はぁっ……?」


 トリスはピンとこないようで、彼が微妙な顔をしたまま馬車は城門を潜る。一見すると盛大な見送り。けれどテンションが上がった俺からすると、何か物足りない。


 あーそうか。全体的に暗いんだ。


 天を仰ぐと、分厚い雲が空を覆っている。


 そうだ! 今くらいは晴れさせてもいいよなっ?


「ネル、リーズ。ちょっと目を閉じててくれ」


「はい」


「其方何を──」


「何でもいいだろっ?」


「なっ!?」


 俺はリーズが目を閉じたのを確認し、ネルの目を手で覆う。そして、ずっと雲に覆われていた空に向かって反対の手のひらを突き出し、最高位の風属性魔術を発動した。


 瞬間、吹き荒れる突風が雲を蹴散らし、眩しくて温かい日光が魔族領の大地に降り注いだ。


「うおっ!?」


「眩しっ!?」


 誰もが目を覆い、驚きの声を漏らしたのも束の間。次にみんなが目を開けた時には歓声と吐息があふれ出した。


「うおぉぉ! こんなに明るいのは初めてだー! テンション上がるぜー!」


「空って、こんなに青かったのね……」


「最高の旅立ちだなー王子様ー!」


 馬車の窓から見えるトリスも、口元が緩んでいる。


 喜んでくれてよかった。それにやっぱり日差しはいいなぁ……。


 久々の日差しに、手でひさしを作って空を見上げる。ふと横を見ると、ネルとリーズも突き抜けるような空の青さに魅入られ、呆然と立ち尽くしていた。奥ではセバスさんも顎に手を当て、ほぅ……と嘆息を漏らしていた。


 ……ホント、やってよかったな。


 魔王城に来てから、ネルやリーズ、セバスさん。他にもいろんな人にお世話になった。これで少しはお礼になったかな。


 この二か月で魔王城の生活基盤はあらかた整った。このまま何もせずにダラダラするのも悪くないけど、それだといずれ飽きる。


 そうだなー。トリスのおかげでゲームはできたし、次はスイーツとか音楽とか、もっと娯楽を増やすのもいいかもしれないな。


 そんなことを思いながらネルたちを見つめていると、三人と目が合った。ネルは他の人にバレないように口元を緩め、リーズは無表情のまま、セバスさんは紳士的な笑みを浮かべ、俺を見る。俺も三人に向き直り、口元を緩めて見せた。


 俺の魔王城スローライフは、まだまだ楽しく続けられそうだ。

これにて一章終了です!

二章以降は作るか分かりませんが、ひとまずは最後まで読んでくださりありがとうございました!


「面白かった!」

「もっと和也たちのスローライフを見たい!」


と思っていただけたら、


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