3.料理と、夕食
「ほう。これは塩コショウと言うのですか」
なんやかんやで、料理長クカックに鶏の塩焼きを教えることになった。今は魔術で日本から取り寄せた塩コショウについて説明し終えたところだ。
「そう言えば、魔族は調味料を使わないのか?」
「使いませんね。そもそも魔族領では特定の果実樹しか育ちませんからね。人族が使用する調味料というものは大抵、作物から作るのでしょう」
「そうなのか」
じゃあそこも考えないとな。
魔術で日本から取り寄せるにしても、こちらからものを送ることはできない。つまり代金が払えないから、俺の部屋以外から取り寄せたら普通に窃盗だ。そういうわけで、調味料の量には限りがある。
とりあえずは塩だな。魔族領にも海はあるから簡単に作れそうだし、他の調味料は──作物を一から育てるノウハウが俺にはないからなー。
「……? どうしたのですか我が神和也」
「いや、何でもない。ってか、我が神っていうのやめてくれない?」
クカックは赤いちょび髭を持ち、頭皮に髪はなく、ぽっちゃりとした六十代のお爺さんだ。そんな人に神とか言われたらムズムズする。
「いいえ。和也様は我が神ですから」
「ハハ……せめて厨房の中だけにしてくれ。……まあとにかく、気を取り直して作るか」
「はい!」
「って言ってもそんなに教えることはないんだけどな。まずはフライパンに並べた肉に塩コショウを軽く振って、肉全体が白くなるまで焼く。それから──」
そうして俺は、クカックや他の料理人たちに鶏の塩焼きの作り方を教えた。
「できました。我が神和也様」
「おれもできました」
「オレもです!」
俺は全員のフライパンから一口ずつ肉を口に入れ、味を確認する。
大丈夫そうだな。
「うん。よくできてる。流石は料理人だな」
「「「ありがとうございます!」」」
俺は初歩的な料理作っただけなんだよなー。そんなに感謝されるとかえって肩身が狭いよ……。
「では早速食堂にお運びいたしましょう。魔王様もきっとお喜びになられる」
「あ、その前に」
俺はパラレルゲートを発動し、日本にある俺の部屋から料理本を取り出した。そして料理本に自動翻訳の魔術をかける。
「クカック。これ受け取ってくれ」
「これは……?」
「俺が元いた世界の料理本。参考にしてみてくれ。……って言っても、当分は調味料が塩しか手に入らなさそうだからほとんど作れないと思うけ──ど!?」
鼻息を荒くしたクカックの顔が、急に眼前に現れてびっくりした。
「ありがとうございます我が神和也様! このクカック。必ずやこの聖典を読み解き、さらなる料理開発に励む所存です!」
「あ、ああ。俺も調味料の問題をなるべく早く解決できるように頑張るよ」
塩はすぐに手に入りそうだけど、ずっと味付けが塩だけじゃ飽きるしな。
「じゃあ、食堂に行くか」
俺は自分用に焼き直した鶏の塩焼きを持ち、食堂へと続く扉を開けた。
「おぅおぅ。ようやくできたのか勇者様よぉ。こっちはもう食べ終わっちまったぜ」
厨房から出てきた俺を見て、騎士団長ジークスは爪楊枝で歯を掃除する手を止め挑発してくる。俺は彼の言葉を気にすることなく席に着く。
一方クカックは魔王の傍まで歩み寄り、膝をついた。
「ん? 何用だクカックよ」
「魔王様。こちらは我がか──んん! 和也様からお教えいただいた料理『鶏の塩焼き』でございます。このような色の食材、食すことに抵抗があるとは存じますが、外見に騙されず一度食してみてはいただけませんか」
そう言ってクカックは膝をついたまま、両手に持った鶏の塩焼きを万歳の姿勢で持ち上げ、魔王に見せた。
「ほう? プライドの高い其方が他人の料理を妾に進めるとは……それほどの物だったというわけだな?」
「はい。ワタシの料理人としてのプライドを懸けるに値する逸品だと感じております!」
「其方にそこまで言わせるとは……よかろう。妾に献上することを許す」
「ありがとうございます」
魔王の許可が下り、クカックは皿をテーブルに置く。そして魔王は躊躇うことなく鶏の塩焼きを口に入れた。
「……っ!?」
肉を噛んだ魔王は目を見開く。彼女の肩甲骨辺りまである紫髪がふわりと揺れた。そして次の瞬間には威厳に満ちた表情を崩し、おいしいものを食べて喜ぶ幼い少女のように、年相応のとろけた笑顔を浮かべた。
か、かわいい!? 魔王ってこんなにかわいい表情ができたのか!? 俺も口うるさい姉さんよりこういうかわいい妹が欲しかったんだよなー……よく見ると髪もサラサラ。ああ、撫でたい。
そんなことを思いながら温かい目で魔王を眺めていると、ハッとした魔王が慌てて肉を飲み込み厳格な表情を取り戻す。
「こ、これはなかなかに美味だ。勇者よ、其方は料理の才まで持ち合わせていたのだな」
内心すごく慌ててそうだよなー。必死に取り繕ってかわいいなー。
こんなことを言うと魔王に怒られそう、というか普通にキモいから、俺も平静を装って会話を繋げる。
「いや、この料理は人族の料理の中でもかなり簡単な方だぞ」
「そうなのか? ……ジークス、セバス。其方らも食してみるといい」
「魔王様がそこまで言うなら、まあ食ってやるよ」
「頂戴いたします」
ジークスは眉間にシワを寄せて嫌そうにしながらも肉を口に放り込む。彼の隣にいるセバスと呼ばれた白髪白髭の執事ぽい格好をした細身の老人は落ち着いて目を閉じ、丁寧な所作で肉を口に入れる。
「はっ!? なんだこれうめぇ! しかも酒に合いそうだなぁ!」
大きな声を上げて鶏の塩焼きを掻き込み始めるジークス。隣では、セバスがフォークを置き、その全てを見透かすような碧眼で俺を見てくる。
「このセバス、感服いたしました。人族ではこれほど美味な料理が浸透しているのですね」
「おぅクソうまいなこれ! 勇者、さっきはバカにして悪かったな! おまえが魔王様に何かしでかすんじゃねぇかと警戒してたが無意味だったなぁ!」
いや、警戒するんならご飯ぐらいで気を許さない方がいいと思うんだけど! ……近衛騎士団長がこんなにチョロくて大丈夫なのか?
「ガッハッハ!」と豪快に笑うジークスに呆れていると、隣では魔王とセバスが何やらアイコンタクトを取っていた。
「勇者様。一つよろしいでしょうか?」
「ん? なんだ?」
「こちらの料理を魔族の民たちにも広めたいのです。そのことに許可と協力をお願いしたい」
「それは構わないが、そうなると調味料を安定して生産しないとならないぞ?」
「調味料……というものは存じ上げないのですが、その調味料と言うものが必要なのですね? それでしたら、調味料とやらを生産するため、できる限りの予算を下ろしましょう」
ああ思い出した! セバスって宰相やってる四天王か。どうりて……ただの執事だったら国政に関する発言なんてできないもんな。
「いいのか?」
「構わぬ。民たちの生活を豊かにするためであれば金に糸目はつけぬ」
「それは助かるよ」
正直、調味料だけは自分で作らなきゃならないと思っていたから本当に助かる。なるべくぐーたらしたいから、調味料を作る地盤だけ手伝えば後は人に任せられるって言うのはありがたい。
「決まりですね」
「ガッハッハ! そうだなぁ! オレもうまいもんが食えるってんなら大賛成だ!」
なんか、この人たちとなら上手くやっていけそうな気がするな。
「じゃあ早速明日塩を取りに行くけど、誰か付いてくるか?」
「申し訳ございません。明日は外せない会議がありまして……」
「だったらオレが行くぜ──って言いたいところだが、明日は魔獣討伐に行く予定なんだよ。悪いな」
「そうか……」
まあ急だったしなー。だったら別の日に──。
「ならば妾が行こう。其方がこの国で何を成すのか、この目で確かめたい」
「いいのか? 魔王が城から離れて」
「構わぬ。妾は一人おらずとも、妾には信頼できる臣下たちがおるからな」
「そうか。じゃあ決まりだな!」
まだまだ快適ぐーたらスローライフを送るには時間がかかりそうだけど、のんびり頑張ろ!
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