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2.魔王城修復と、料理長

 ようやく念願のスローライフだ!


 魔王城に住む許可が下り、俺はこれからののんびりとした日常を想像しニヤける。同時に仲間の魔術師カイルと協力して、戦闘でボロボロになった魔王城を修復していた。


「なんという……」


 先ほどカイルの治癒魔術によって回復した魔王が、魔術によってみるみる修復されていく魔王城を見て嘆息を漏らした。


 九割がた崩壊した魔王城だったが、一時間と経たずにその大半の修復が完了した。


「よし! こんなところかな」


「其方ら、魔王城の見取り図もなしにこれほどの速度で修復できるとはすさまじいな」


「それはカイルのおかげだな。カイルが魔王城の間取りを覚えててくれたから、俺はカイルが作った目印の通りに修復したんだ。ありがとなカイル」


「別に……」


 抑揚のない息っぽい声で応えると、カイルは魔王に向き直った。


「それより僕は魔術の研究がしたい。大きい部屋を一つ貸してくれ」


「ああ。構わぬぞ。案内させよう」


 そう言って魔王はメイドの一人を呼び、カイルを部屋に案内させた。


「して、其方はどうする? もうじき夕餉(ゆうげ)の用意が整うが」


「それなら食べるよ」


「そうか。ならば食堂までともに行こう」


 あれ? そう言えば魔族って何食べるんだ? まあ、魔族って頭に角が生えてること以外見た目は人間と同じだし、食べる者も一緒……だよな?


 俺は脳裏によぎった不安を振り払い、魔王を追って歩き出した。


***


「マジか……」


 食堂。縦長のテーブルに座った俺は、目の前に盛りつけられた料理に苦笑い。そこには、食べやすい大きさに切っただけの生肉があった。


「ん? どうした勇者?」


 上座に座る魔王が、頬杖をつきながら聞いてくる。


「あー、えっと……肉ってナマしかないのか?」


「はぁ? おいおい勇者。肉はナマで食うもんだろうが」


 マジですかぁ……これがカルチャーショックってやつ……? 俺腹壊すよ?


 豪快な声を轟かせたのは、俺の正面に座る中年の大男──ジークス。四天王で近衛騎士団団長な彼は「これだから人間は」とでも言いたげにやれやれと首を振る。


 どうするかなこれ……やっぱり自分で作るしかないよなぁ……。


「魔王。ちょっと厨房を借りていいか?」


「妾は構わぬが」


「ありがとう」


 俺は魔王に許可を取り、自分の分の生肉を持って立ち上がる。


「ハッ! 勇者様は生肉すら食えないのかぁ?」


 まあ、そう簡単に俺を受け入れてはくれないよな。俺と魔族は敵対してたわけだし。


 俺は敵対心剥き出しのジークスを一瞥し、厨房の扉を開けた。すると今度は料理人たちに怪訝そうな視線を向けられた。


「厨房、少し借りるぞ」


「あぁん? 勇者が俺たちの厨房に何の用だってぇ?」


 下っ端らしき料理人の一人が突っかかってくる。


 厨房の奥には、料理長らしきぽっちゃりとしたお爺さんが両腕を組み、俺に品定めするような目を向けてきていた。


「厨房を使わせてくれ。魔王からの許可は取ってる」


「チッ……!」


 魔王の名を出すと、絡んできた料理人が渋々道を開けてくれた。


 悪いな。こっちも安全な食事がかかってるんだ。


 俺は心の中で謝ってから、料理長の傍にあるコンロの前に行く。それからある魔術を発動した。


 パラレルゲート──地球にある俺の家から欲しいものを取り寄せられる魔術だ。まあ、機械類とかは取り寄せられないけど。


 この肉、鶏っぽいな。


「ってことは調味料は……とりあえず今日は塩コショウでいいか。……って、なんでコンロあるんだ!?」


「魚を焼くために決まってんだろうが」


 肉はナマなのに魚は焼くんだ……。


「まあ今は、コンロがあるだけありがたいけどな」


 俺は早速コンロに火をともし、温まったフライパンの上に生肉を乗せる。ジューっと音が鳴って、煙と一緒に焼き鳥のいい匂いが立ち込める。そこに塩コショウを振って、片面が焼き上がるのを待つ。


「これって戦場で人が焼ける臭いじゃねぇか。これを料理だなんて、勇者って頭おかしいんじゃねぇの?」


 料理人たちの嘲笑を無視して、俺は料理を続ける。肉全体が白くなってきたのを確認し裏返すと、程よく焦げ目がついていた。


 よし。いい感じだな。


 俺はもう一度フライパンに塩コショウを振り、肉が焼き上がるのを待った。


「ふっ……! なんだその白い肉は。魚でもないのに白いとか、見るからにマズそうじゃねぇか!」


「肉にかけてた白と黒の粉とか、それ本当に食べられるのか?」


 肉が焼き上がった途端、口々にバカにしてくる魔族たち。彼らの言葉に、俺は首を傾げた。


 ん? マズそうな色? ……あ、そうか。赤い生肉しか食べない魔族からしたら、赤こそがおいしそうな色ってことになるのか。文化の違いってすごいな。


 でも俺料理そんなに好きじゃないし、次からは誰かに作ってもらいたいんだよなー。


「あー、明日から誰かこんな感じの料理を作って欲しいんだが……」


「誰がそんなもの──」


「まあ待ておまえたち。料理人の端くれだったら批判は食ってからにするんだ」


 俺が料理を作っている間ずっと無言を貫いていた料理長が、穏やかな声で部下を制す。そして彼はフォークを手に取ると、俺が焼いた肉を躊躇うことなく口に入れた。


 直後、料理長は目を見開いた。


「ん!? これは……」


 次第に料理長の全身が震えだす。そして彼は、フォークを置いた。


「料理長。やはり人間の料理はマズかったんでしょう?」


 勝ち誇った表情で料理長を見つめる料理人たちの様子に、俺もだんだん不安になってくる。


 魔族と人族じゃそもそも味覚が違ったりするのか? だったら料理は俺が作る羽目になるんじゃ……何か他に方法は──。


「……すばらしい」


「「「はい?」」」


 よかったぁ……。これで料理は明日から自分で作らなくて済む!


 天に召されるかのような幸福そうな表情を浮かべる料理長を見て、俺は胸を撫でおろす。


「人族の料理はこれほどまでに発展していたのか……これは魔族の料理界に革命が起きますぞ」


「マジ……っすか?」


 料理人たちは、俺が作った料理を讃える料理長を前に呆然と立ち尽くす。


「おまえたちも食べてみるといい」


「は、はい……」


 料理長の指示に従い、料理人たちは順番に鶏肉を食べていった。


「う、うめぇ!?」


「なんだこのしょっぱさ。魚よりも味が濃くてうまいぞ!」


 料理人たちは皆、鶏肉を食べるたびに驚きと称賛の声を上げていった。それを見て、俺は料理長にもう一度頼む。


「せめて俺と仲間の分だけでもいいから、明日からはこれに似た料理を作ってくれるか?」


「いいえ。そのようなことはワタシの料理人としてのプライドが許しません!」


「はっ!? どうして──うわっ!?」


 予想外の返答に思わず料理長に一歩詰め寄る。すると料理長は俺の両肩を掴み、鼻先が触れそうなくらい顔を近づけてきた。


「これほどすばらしい料理を広めないことなど、ワタシのプライドが許さないのです! どうか魔王様方にも提供する許可をいただきたい!」


「そ、それはいいけど」


「ありがとうございます勇者様! あなたはワタシにとっての神ですよ!」


 それは大げさすぎないか!? ……まあ、料理作ってくれるみたいだからよかったんだが。


「あー、えっと……じゃあ早速作るか」


「はい! よろしくお願いいたします! 我が神よ」


「神はやめてくれ……俺は雨取和也だから、せめて名前で呼んでくれ」


「了解です我が神和也様。……ハッ、申し遅れました和也様。ワタシは魔王城料理長のクカックと申します」


「あ、ああ。よろしくなークカック」


 ものすごく前のめりなクカックに、俺は苦笑いを我慢できなかった。

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