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29.エルフ族の王子①

「魔王ノクティネル・ナイトメア様。この度のお招き感謝いたします。私はエルフ族が第一王子、トリンスト・フォン・ホーリンスと申します」


 謁見の間、整えられたプラチナブロンドの短髪と長い耳、遠目からでも際立つ端麗な顔が特徴的な王子。彼は片膝をつき、気品あふれる所作で頭を下げた。


 今回彼らが来た目的は、長年犬猿の仲だった光竜との和解だ。そのために俺とネルが両者の仲立ちをすることになっているから、俺も顔見がてら謁見の間の隅に参列したというわけだ。


 それにしてもかっこいいなーエルフの第一王子。同性の俺から見てもかっこいい。


 俺は王子の隣に控える外交官のアイリスさんに目を向ける。


 アイリスさんも綺麗だし、やっぱりエルフって美男美女の集まりなんだなぁ……。


「よくぞ参られたな、エルフ族の第一王子よ。此度の長旅ご苦労であった。光竜との和解交渉は三日後、それまで我が城で羽を伸ばすと良い」


「感謝します」


 そうして謁見は問題なく終わり、王子たちは謁見の間を後にした。


***


 けど、あんな厳粛な人と空の旅をするのか。なんか息が詰まりそうだな……。


 謁見の間を後にし、俺は自室に向かって廊下を歩きながらため息を吐く。


 まあ自分から引き受けたことだし、やるけどさ。


 久々に少し憂鬱な気分になりながら階段を登り、自室の扉を視界に入れる。すると、扉の前には先ほどの王子が立っていた。なにやらリーズと話している。


 ん? あー、俺とも顔合わせに来たのか。


「トリンスト王子──」


 声をかけようとした、その瞬間。王子はドンッと壁に手を突き、リーズに覆いかぶさった。


 はっ!? 何して──。


 王子の予想外の行動に混乱して声が出ない。足も動かずに立ち止まっていると、王子の声が聞こえてきた。


「キミ、やっぱり近くで見るとめっちゃかわいいじゃん! どうだい? 今夜はボクと熱い一夜を過ごすってのは?」


「いえ、結構です」


「えー、そんな硬いこと言うなよ。誰にも言わないからさ? なぁいいだろ?」


 な、ナンパ……? しかもチャラっ! さっきのイケメンとは別人過ぎるだろ……。


 驚きから呆れへと変わり、俺は王子──いや、トリンストに白い目を向ける。


「お戯れはおやめください。わたしには専属メイドとしての仕事がありますので」


「そんなこと言ってぇ、実はめっちゃ乗り気だったりするんじゃないっ?」


 そう言ってトリンストは勝ち誇った目をして首を傾げ、リーズの耳に手を伸ばす。


 って早くリーズを助けないと!


 俺は、トリンストがリーズに触れるより早く助けようと地面を蹴る。が、その瞬間。俺の横を抜けて一人の人影がトリンストに向かって駆ける。そして人影は勢いそのままに、トリンストの顔面に向かって飛び蹴りを放った。


「──恥ずかしがらずにボクの部屋ゴブッ……!?」


 人影の足は見事にトリンストの頬にクリーンヒットし、トリンストの体は盛大に廊下を跳ね転がった。


「トリス! あなたまたこんなことして、王族として恥じない行動をしてくださいと何度言ったら分かるんですか!」


「ア、アイリスおま、おまえこそ何度も何度もボクを蹴りやがって──」


 人影の正体は、プラチナブロンドの長髪を靡かせたアイリスさんだった。


「それはあなたが何度も何度も懲りずに女性に言い寄るからでしょう! ……この性欲モンスター王子。やはりこれは潰してしまいましょう」


 そう言ってアイリスさんはトリンストの股間に冷たい視線を注ぐ。


「ちょ、おまえそれ洒落になら……じょ、冗談、だよなっ?」


 トリンストはお化けを見た子供のように震えあがり、歯をカタカタと鳴らしていた。


 アイリスさん怖ー。


 俺は二人のやり取りを横目にリーズの元へ歩く。


「リーズ。大丈夫だったか?」


「はい。問題ありません」


 リーズは普段と変わらず、無表情のままピンと背筋を伸ばして立っている。強がっているわけではなさそうだ。


「ならよかった。すぐに助けに入れなくて悪かったな」


「いえ、和也様が謝られる必要はございません」


 リーズのいつも通り淡々とした声を聞くと、安堵と同時に漠然とした不安がよぎる。リーズは何かあった時に誰にも頼らず大変なことになるんじゃないかという不安だ。


「リーズ。自分じゃどうしようもない時は俺やネルに頼っていいんだからな?」


「はぁ……? わたしは──」


「勇者様、侍女さん」


 リーズの声を遮ったのは、トリンストの首根っこを掴んだアイリスさんだった。俺とリーズが彼女に視線を向けると、彼女はトリンストと一緒に頭を下げた。


「この度はトリス──トリンストが大変失礼いたしました。このお詫びは必ずいたします。ですからどうか、我々エルフ族の名誉のために今回の件はなかったことにしていただけないでしょうか? どうか、お願いいたします……!」


「あー、俺は被害者じゃない。リーズが決めてくれ」


「わたしは構いません」


「ありがとうございます。ありがとうございます」


 淡々と答えるリーズに何度もペコペコ頭を下げるアイリスさん。トリンストはというと、アイリスさんに無理やり首をブンブン振らされて、白目を剥いていた。


 なんかこの王子、呆れはするが不思議と嫌いにはなれなそう。


 その予感は、すぐに的中することになった。

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