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28.懐かしの○○

「ん? 来たのか?」


 夕方。部屋でゴロゴロとマンガを読んでいると、外が騒がしくなった。マンガを閉じて窓から城門を見下ろすと、そこには道を埋め尽くすほどの荷馬車が停まっていた。


 運んできたのは、今朝届いた魔族領の畑で収穫された作物を使い、各調味料工場で試作した調味料だ。これで問題なければ明日から大量生産に移り、一般に販売する予定だ。


 それともう一つ、俺がエルフ族に頼んで作ってもらったアレも運び込まれていた。


「よし。やっとアレを食べられるな!」


 久々にアレを食べられる。そう思うと途端に腹が空いてくるのは、日本人の性だろう。俺はアレの調理方法を教えるべく、急ぎ足で厨房に向かった。


***


「クカック。アレ、届いているか?」


「えぇ、えぇ届いております。我が神和也様」


 そう言ってクカックは、厨房の奥にある調理台を指し示す。そこには、「米」の袋が山積みにされていた。


「おー! これでホントに米が食えるのか!」


 そう、俺がエルフ族に頼んで作ってもらったもの。それは米だ。ちなみに精米所も畑の近くに作ってもらったから、ここにあるものは玄米ではなく白米だ。


「我が神和也様。お早くお米の炊き方を教えてはいただけないでしょうか。ワタシも、我が神和也様がくださった調理本に描かれていたお米を拝見した時からずっと、ぜひともお米を食してみたいと思っていたのですよ」


「クカックもか。俺も早く食べたいよ。早速作ろう」


「はい」


「じゃあまずは米研ぎだ。っていっても量が多いから、鍋に米と水を入れて三十分くらい置くだけだけどな」


 俺はクカックたち料理人に米の炊き方を説明しながら深底の鍋に米を入れる。とりあえず二十合くらい。それから冷たい水に浸しコンロの上に置く。


 その間、料理人たちは食い入るように俺の一挙手一投足を観察し、一部の人はメモまで取っていた。


 ……ちょっとやりずらいな、これ。


「あー、今は魔術で時間飛ばすぞ?」


 そう言って俺は、米を入れた鍋に時間加速の魔術を行使し、疑似的に三十分水に浸したことにした。すると、水が白く濁った。


 よし。二十合なんて炊くの初めてだが、今のところはうまくいってるな。


 米を流さないように手で押さえながら、鍋の中の水を捨てる。そして米をならし、米より少し高い位置に水面が来るように水を入れた。


「この時入れる水の量で米の柔らかさが決まるんだ。だいたい目安は、米嵩の一、二割増しくらいだな」


「なるほど。参考になります我が神よ!」


 ペン先を折る勢いでメモを取るクカックに苦笑いを返しつつ、俺は鍋にふたをし、コンロの摘みに指を掛ける。


 えっと、高校の時の林間学校で炊いたときは中火スタートだったけど、二十合なら強火からか?


「あー、クカック。ここからは俺もあまり自身がない。ミスったら悪いな」


「いえいえ。問題ありません。我が神和也様が失敗するほどの調理を誰が成功できましょう? 自分ができないことを失敗した相手を責めるような未熟者はここにはおりません」


 正直意外だった。クカックは俺を、何度やめろと言っても神と呼ぶくらいだから、俺に完璧を求めているかと思っていた。他の料理人たちも「失敗してもいいから頑張れよー」と応援するように表情を緩めている。


「……そうか。ありがとな」


 彼らの人の良さに背中を押され、心が軽くなる。フッと息を吐いてリラックスし、コンロに強火を灯した。


 それから水が沸騰するのを待つこと十五分。鍋からぐつぐつと音が鳴り出し、ほどなくしてふたがカタカタと揺れ水蒸気が噴き出した。俺は料理人たちに見守られる中、すかさずコンロの摘みを回し、火を一気に弱火まで持っていく。


 そこからさらに水がなくなるまで過熱する。十分ほど待ってからふたをずらして中を確認すると、まだ少し水が残っていた。もう一度ふたをして待つこと五分。今度はちゃんと水がなくなっていた。


 下の方が焦げてる感じもないし、成功か……?


 半信半疑のまま、次の蒸らし作業に入る。まずはふたを戻して十秒くらい加熱する。そうすることで、ふたを開けた時に逃げた分の水蒸気量をまかなうのだ。


「後は十五分置いておくだけだ。たぶん、成功してると思う」


「おお! おめでとうございます我が神和也様!」


「流石和也様! やるな!」


「おいおい。たまには失敗してくれてもいいんだぜー? でないとおれたちの立つ瀬がねぇ」


「あー、いや、まだ食べてみるまではうまくできてるか分からないって」


 そうして料理人たちに一通り祝福されてから、俺はクカックに視線を送る。するとクカックは俺の意図を汲み取り、パンっと手を叩いた。


「さあみなさん、次はワタシたちの番です。お米の完成に合わせて、仕込んでいた肉を焼き上げますよ」


「「「はい!」」」


 そうして本格的な調理が始まり、邪魔にしかならない俺は一足先に食堂で待つことにした。


***


「ほう。これが其方の言っておった米か」


「相変わらず和也の持ってくる食いもんはうまそうだぜ」


 米とハンバーグが並べられた長テーブルには俺とネル、そして中年の近衛騎士団団長ジークスが座っていた。


「じゃあ早速、いただきます」


 お椀を持ち、湯気の立ち昇る白米に箸を通す。ごくりと喉を鳴らし、俺は待望の米を口に入れた。


 うまぁ……。


 口の中に広がる、米特有の甘い味。もちもちとした食感。懐かしい。目を閉じ天を仰ぎ、口の中に神経を集中させていると、二人からも感嘆の声が上がる。


「うむ。……これはなかなか、うまいな」


「やっぱすげぇよ和也。よくこんなうまいもん知ってるなぁ!」


 どうやらネルとジークスの口にもあったようだ。俺は口の中の米を飲み込むと、ハンバーグの方に目を向けた。


「あー、二人とも。米は単体で食べるのもおいしいが、肉と一緒に食べるともっとうまいんだ」


 そう言って俺は、香ばしい香りを漂わせるデミグラスソースのかかったハンバーグを切り取り、米に乗せる。そして米とハンバーグを一緒に口の中へ。途端にデミグラスソースの濃厚なコクと米の甘さが口いっぱいに広がった。


 あーうまいなぁ……。やっぱりハンバーグには米だよなー。


「マジでうまそうに食うなおまえっ! オレもやる!」


 ネルとジークスもハンバーグを米に絡めて口に運ぶ。彼らはフォークを口に入れた途端に目を見開き、表情をとろけさせた。が、ネルは魔王の威厳を保つべくすぐに表情を引き締めようとする。けれど、目元は柔らかく、口端はフニャっとしたままだった。


「こ、これほど美味なものがまだ残っていたとは……料理とは恐ろしいな」


 やっぱりネルはかわいいなー。


 必死に取り繕う様子はいじらしくて、俺は味覚的にも嗅覚的にも視覚的にも癒された。


***


「あぁー! 食った食ったぁ!」


 ハンバーグを食べ終わるまでに全員米を何度もおかわりし、俺とジークスは満腹の体で背もたれによりかかる。


 そう言えばセバスさん、今日に限っていないな。もったいない。


「ネル、セバスさんってどこにいるんだ? よかったら米持っていくけど」


「おおそうであった。米がおいしくてすっかり忘れていたぞ」


 何かを思い出した様子のネル。彼女は頬杖をつき、唇を動かす。


「セバスは明日の準備をしておるのだ。明日、エルフ族の王子が光竜と和解するため、我が魔王城を来訪するのだ」

この話を読んでいただきありがとうございます!


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