26.DIYに初挑戦
城下町から帰って昼食を食べた後。俺は城下町で買ってきたロッキングチェアと本棚を設置し、アイテムポーチに閉まっていたラノベや漫画を並べた。
「よし。やっぱり合うな」
白とブラックチョコレート色を基調とした部屋の内装に、今回買ってきた木目調で焦茶色の本棚と、落ち着いた茶色を基調としたロッキングチェアは馴染んでくれた。
けれど二十畳くらいはある部屋の大きさに比べると、やはりまだ家具が少ない。特にベッド周りが寂しい。
「ベッドの横に物置けると便利なんだよなー」
加えて、DIYもしてみたいから初心者でも作りやすい物がいい。となるとやはり──。
「カラーボックスだな」
そうと決まると俺は、以前露天風呂を作った時に余った釘と板材を部屋に運び込んだ。
「よし。やるか!」
気合を入れて作業スタート。
まずは大きさを決める。最初にパラレルゲートを使い、日本から三十センチ定規を取り寄せた。
それから用途を考えた結果、高さは俺の腰より少し上(九十八センチ)にして、三段に仕切ることにした。横幅と奥行きは、高さとのバランスを考えた結果五十五、二十五センチに決めた。
次に、決めた大きさに合わせて板材をカットする。組み立てるときの板材の厚さに考慮しつつ、定規を使って位置を測り線を引く。それから片手剣を取り出し、板材をカットしようとしたが、やめた。
「まあ折角のDIYだしな。のこぎり使うか」
そうして俺は魔王城の倉庫からのこぎりを借りてきて、時間をかけて一つずつ板材をカットする。
ゴリゴリという音とともに飛び散る木くず、強くなる木材独特の甘い香り。そしてのこぎりを握る手から伝わる振動が、剣で一刀両断するだけでは味わえなかった作る楽しさを感じさせてくれる。
数時間後──。
「ふぅ……終わったな」
俺は必要な板材を全て切り終え、額に滲む汗を手で拭った。それから切り終えた板材を確認する。時間はかかったが、初めてにしては真っすぐ切れた──と思う。
最後は組み立て。板材をズレなく合わせ、両端に釘を打って組み立てる。その際、左右の釘を数回ごとに交互に叩くことで、板材をズレなく結合し釘を真っすぐ打ち込む。
トントントントンと軽快な音を立てながら釘を打ち込んでいく。そうして小一時間が過ぎた頃、俺は最後の釘を打ち込んだ。
「ふぅ……完成だな」
軽く叩いてみたり、体重をかけてみたりして強度を確認してから、カラーボックスをベッドの横に立てた。それから一歩下がって、カラーボックスが浮かないか確認する。
「よし! 思った通りいい感じだ」
見事に部屋の雰囲気に溶け込んだカラーボックスを見て頷く。ふと窓の外を見ると、暗くなり始めたばかりで、夕食まではまだ少し時間がありそうだった。
「なら、早速物を並べてみるか」
上段には、読書用のランタンと植木鉢を並べる。
植木鉢にはアイテムポーチに残っていた植物の種を撒き、魔術でカラーボックスに収まる程度に成長させた。それから、魔族領の空気に含まれる植物を枯らす瘴気から植物を守るため、光属性魔術を使い、植物を囲うように瘴気除けの結界を張った。
次に下段。ここにはバスケットを入れるつもりだ。読みかけの本や筆記用具などの小物入れにする。明日にでも買いに行こう。
最後に中段。何を飾るか具体的には決まっていないが、彫刻とかハンドクラフトとか、自分で何か作って飾りたい。
「けど、二段も空だと味気ないな」
俺は部屋を見回して、何か飾れる物はないかと探す。すると、本棚に並んだマイブームのラノベが目に入った。
「オタク感すごいけど、まあ好きだしな」
グッズはないからシンプルだが、何冊かは表紙が見えるように立て、残りはいい感じに並べる。表紙を見せる本がうまくたたなかったため、余っていた木材をL字に組み立て、そこに本を立てかけた。
一通り並べ終え、引きで見てみる。
「お、いい感じだな」
正直さっきまでは「本を飾る良さ」っていうのはよく分からなかったが、今なら分かる。
部屋の中のよく目にするところに好きなキャラたちが見えるのは案外いいのかもしれない。表紙に描かれたかっこかわいいキャラたちを見ると、読んでいた時の面白さを思い出して楽しい気持ちになれそうだ。
そうだな。今の気持ちをこの厨二主人公風に言うと──。
ちょうど今ハマっている厨二主人公物のコメディパートを思い出しテンションが上がった俺は、厨二っぽく前髪を掻き上げ目を瞑る。
「『フッ……このオレの輝きには劣るが、悪くない飾り付けだ』……なんてな──」
「失礼します和也様」
「はっ!?」
声がした扉の方に、脊髄反射で目を向ける。すると扉は開かれていて、リーズが立っていた。
「リー……ズ?」
えっ……今の聞かれた……!? はっ!? えっ!? えっ? えぇ……恥ずかしすぎるだろ!
俺は火照る顔をリーズから逸らし、一縷の望みをかけて問う。
「……リーズ。い、今の……聞いたか?」
「はい」
そんな淡々と答えないでくれぇ……せめてなんか、リアクションとかしてくれた方がマシなんだって。
「な、なんで今回だけノックしなかったんだ?」
「わたしは何度もノックし、お呼びいたしましたが」
マジかー。俺が一人の世界に入ってただけかよ。黒歴史過ぎるってこれ。
膝から力が抜けていき、俺は床に四つん這いになって頭を押さえた。しばらくそうしていたが、無表情のままじっと見つめてくるリーズの視線に耐えかねて、俺は腕の隙間からリーズの顔を見上げた。
「……それで、何の用だ?」
「はい。夕餉の準備が整ったのでお呼びに参りました」
「分かった。……けどリーズ。頼むからさっきの俺の独り言は忘れてくれぇ」
そう言って俺は両手を合わせ、リーズにすがった。
***
「和也。其方、今度は何を作ったのだ?」
食堂の長テーブル。その上座で頬杖をつき、豚の生姜焼きを食べているネルが聞いてくる。
「ん? ただのカラーボックスだぞ」
「からーぼっくす、とはなんだ?」
「えっ?」
俺は口に運びかけていたフォークを止める。
カラーボックスってこの世界にないのか? ……あーでも確かに、異世界ものとかでカラーボックスを見たことないな。カラーボックスって割と新しい物……なのか?
一人驚き一人で納得すると、俺はネルに説明を始めた。
「カラーボックスって言うのは、形的には小さい本棚だな。けど、いろんな使い方ができるんだ。段ごとに用途を分けられる。好きなものを飾るのもいいし、よく使う小物とかをしまっておくのもいい」
俺は話しながら氷属性魔術を行使し、長テーブルの上にカラーボックスの形をした氷を作って見せる。サイズは大きすぎず見えやすく、学校カバンくらいにした。
「扉を付けたりかごを入れたりすると収納になるし、形や大きさ次第ではキッチンとかベッド下の収納にも使えるんだ。それにカラーボックスは縦置きと横置きどっちにも対応できて、組み合わせ次第で見た目や機能を好きなようにアレンジできるんだ」
「ほう。また面白いものを……」
俺の説明を聞き終えたネルは頬杖をつくのをやめ、感心した声を漏らす。そして顎に手を当てて、考えを話し出す。
「実物を見るまでは断言できぬが、そのカラーボックスとやらも民たちに人気が出そうだな。セバス、其方はどう思う?」
「僭越ながら、私どもも魔王様の考えと同じにございます。貴族には意匠を凝ったものを、庶民には簡素かつ安値なものを販売すれば、流行するでしょう」
「それはかいかぶり──」
「そうだな」
あまりの過大評価に戸惑っているうちに、話しはどんどん進んでいく。
「では、私どもが家具屋への根回しをしておきましょう」
「うむ。頼んだぞセバス」
「はっ!」
あー、まあいいか……。
カラーボックスに対しては過大評価だとは思う。が、内政に部外者が口を挟むのはよくないだろうと、俺は自分の心に折り合いをつけた。
そんなこんなで話が一区切りつき、俺は生姜焼きを食べる。
あぁ……おいしいー。
弾力のある肉の舌触りに、ピリッと舌をしびれさせる味。やっぱり料理長はすごいな。
「ところで和也よ。其方に一つ、頼みたいことがある」
「ん? なんだ?」
「実はな、妾の部屋の白い魔導灯から光魔石が取れたのだ。その上、使用中だったがゆえに魔力が流れ続けておる。魔族では触れぬゆえ、其方に直してもらいたいのだ」
「ああ。いいぞ。ご飯食べ終わった後でいいか?」
「うむ」
そうして俺は夕食を食べ終え、ネルと二人でネルの部屋へと向かった。
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