25.城下町②
城下町の大通り。鳥串を買いに行ったリーズと、リーズへのプレゼントを買いに行ったネルが戻ってきた。
そして、リーズは買ってきた鳥串六本を三本ずつ俺とネルに渡そうとしてくる。
「そうではない。リーズ、二本は其方の分だ」
「いえ、わたしは結構──」
リーズは断ろうとしたが、口をつぐむ。それからその黒く潤った瞳で俺を見た。その目は、「いただいてもよろしいのでしょうか?」と問いかけているようで、俺はコクリと頷いた。
「承知いたしました。ありがたく頂戴いたします」
少しは、昨日出かけた意味はあったみたいだな。
以前のリーズなら、何か理由をこねくり回さないと受け取ってくれなかった。いい変化だ。隣では、ネルがリーズの変化に目を丸くしていた。
ネルは表情の変化一つ一つもかわいいなぁ……。
ほのぼの癒されながら、俺は鳥串にかじりつく。すると、クカックが作ったものとはまた違う、油控えめのさっぱりとした味わいを感じられた。
これはこれでアリだな。味付け同じ塩なのにこんなに違ってくるのか……。
前に、味付けがずっと塩だと飽きるみたいなことを言ったが、訂正しなければならなそうだ。
「うむ。やはりうまいな」
隣では、我に返ったネルが鳥串を食べていた。リーズもピンと背筋を伸ばしたまま鳥串を食べている。
「リーズ。其方も味わえているか?」
「はい。魔王様からいただいたものですから、大切に味わわせていただきます」
やっぱりリーズはまだ硬いなー。まあでもそこは、他人が口出しするところじゃないか。
そんなこんなで鳥串を食べ終え、俺たちは当初の目的である家具屋にやってきた。
「おー。結構広いな」
城下町はぎっしりと建物が立ち並んでいて土地が少ない。だから家具屋もこじんまりとしていると思っていたのだが、実際はニ〇リくらい広かった。
「それで、其方は何が欲しいのだ?」
「えっとな。ゆりかご椅子と本棚が欲しいんだ」
「そうか。ならば妾が案内しよう」
そう言って迷いなく歩き始めるネルは、この店の配置を熟知しているようだった。
「ネルは家具屋によく来るのか?」
「うむ。家具の進化は目まぐるしく、民たちの生活の質に直結する。故に民たちの生活を知るには、家具屋を訪れるのがちょうど良いのだ」
それから俺は、ネルの案内で欲しい物の売り場を順に回った。
ロッキングチェアは座り心地、本棚は容量。それらに加え、落ち着いた部屋の雰囲気に合うデザインかどうかを検討し、色は板材感のある茶系統に統一して買うものを選んでいった。
「ネルとリーズは何か欲しいものはないのか? 俺の買い物に付き合ってもらったんだし、今ならおごるぞ?」
「いや、妾は特段欲しいものはない」
「お心遣い感謝いたします。ですが、わたしも結構です」
「そうか」
そうしてレジで会計を済ませ、三つの家具が目の前に並べられた。
「さて」
俺は涼しい顔で二人を振り返り、問う。
「これどうやって持ち帰ればいいと思う?」
どうみても俺のアイテムポーチでは容量不足だ。数回に分けて運ぶにしても、そもそも本棚が入らないだろう。
ミスったなぁ、これ。
アイテムポーチに入る大きさの本棚にしておけばよかったと今更後悔していると、ネルはコロンと首を傾げた。
「む? 其方、収納魔術を使えぬのか?」
「あー、俺の場合は魔力が多すぎてバグるんだよなそれ」
前に俺が収納魔術を使ったら、中に入れたものがすべて消えた。まあカイルが言うには、正確にはものが消えたわけではないらしい。
『収納魔術は魔力総量によって大きさが決まる。和也の場合は、収納魔術で作り出される亜空間が大きすぎるんだ。だから、ものを置いた場所が分からなくなっているんだと思う』
カイルの説明を思い出しながら、俺は苦笑いを浮かべた。
「それに俺、アイテムポーチも『小』までしか使えないんだ。『中』以上だと魔力の干渉がどうのこうので収納魔術みたくしまったものが消えるんだよ」
「驚いたぞ。其方にもそのような弱点があったとは……妾の収納魔術で運ぶか?」
「いいのか?」
ネルに期待の眼差しを向けると、彼女は一瞬目を泳がせてから頷く。
「う、うむ。構わぬ」
「ありがとなネル」
そう言って俺は、ネルの頬をそっとさする。絹のようにサラサラな肌と、プニプニとした柔らかさを兼ね備えたネルの頬は、ほんのりと熱を帯びていた。
照れてるネルもやっぱりかわいいなー。ずっと撫でてたい。
「や、やめよ和也。もう家具屋に用は無かろう……帰らぬか?」
ネルに手を払われてしまった。ちょっと残念だが、これ以上はネルが嫌がるから俺は潔く手を引いた。
「そうだな。けどその前に、ネルはリーズに渡すものがあるだろ?」
「……そうであったな」
ネルは表情を引き締め、数歩後ろで待機していたリーズを振り返る。そうしてリーズの前まで行くと、ネルは収納魔術からさっき買った本「魔族領絶景スポット十五選」を取り出す。
「リーズ。これを、受け取ってくれぬか?」
そう言ってネルは両手で賞状を渡すようにして、リーズに本を差し出す。
「これは一体……」
突然のことに戸惑うリーズ。臣下の前では威厳を保つネルは、リーズの目を真っ直ぐに見つめて説明する。
「リーズ。其方は十年もの間魔王城で尽くしてくれた。その礼がしたいと思っていたのだが、其方の好みが分からなくてな。和也から聞いたのだ。其方は景色を見るのが好きなのだろう?」
「そうですが……わたしは十年前、魔王様に拾われた際に忠誠を誓った身。あなた様に尽くすのは当然のことです。ですから、お心遣いはうれしいのですが、礼など──」
無表情のまま、淡々とネルからの贈り物を断ろうとしていたリーズだったが、思い直したように口をつぐむ。そして、ネルの前に片膝をつき頭を下げた。
「失礼しました。魔王様のご厚意、ありがたく頂戴いたします」
「うむ。それで良いのだ。其方は少しばかり遠慮しすぎていたからな」
威厳たっぷりに本を渡したネルだったが、よく見ると口端が上がっている。対してリーズも、本のタイトルを見て眉がピクリと跳ねた。
仲いいなー。
リーズは素で、ネルは意図的に、表情を崩すまいとする二人。黒髪長髪の無口な美少女と、幼い体であっても雰囲気を纏う紫髪の美少女がそろって隠しきれない感情を滲ませる様子は微笑ましくて──けれど、そろそろ魔王城に戻らないと昼食に間に合わない。
「ネル。リーズ。そろそろ帰るぞ」
「はい」
「う、うむ」
そうして俺たちは、城下町を後にした。
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