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24.家具不足と、城下町①

 やっぱりこのシリーズ面白いなー。


 リーズと雲の上に行った翌日。ベッドの上でゴロゴロとラノベを読んでいると、不意に部屋の扉がノックされた。


「和也様。お部屋のお掃除をさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「ああ。頼む」


 リーズは淡々とした声で要件を告げ、扉を開けて部屋に入る。彼女は、相変わらずの無表情だった。


 やっぱりすぐには変わらないか。……まあでも気分転換になってそうだったし、ひとまず良かったかな。


 そんなことを考えながら、俺は窓ふきをするリーズの背中を眺め、体を起こす。それから伸びをすると──グキボキゴキッ! っと肩が鳴った。


 いったぁ……肩凝った。いやまあ、ずっとベッドの上でラノベ読んでたしなぁ……。ちゃんと椅子に座って読めばよかったなー。


 後悔しながら肩を回し、ぼんやりと部屋の中を眺めて気付く。簡素な机に備え付けられた、背もたれが木でできた椅子しかないことに。


 あれだと絶対背中痛くなるなー……そう言えば、家具は後で自分でそろえようと思ってたんだっけ。


 部屋の中には、今座っているダブルサイズのベッドと簡素な机しかない。


 あー、あれほしいな。ゆりかご椅子みたいなやつ。確か名前は、ロッキングチェアだったかな。あとは折角だし、小洒落た本棚とかも欲しいな。


「和也様。お掃除終わりました」


「ありがとなリーズ」


 あ、そうだ! 折角のスローライフなんだしDIYとかもしてみたいな。けどまあそれは次回だな。俺は初心者だし、ある程度家具をそろえてから部屋の雰囲気に合う簡単なものから作ろ。


 そう決めて、俺は魔族に変装するための魔道具──変化の指輪を取り出した。


「リーズ。これから城下町に行きたいんだが、いいか?」


「はい。承知いたしました」


 そうして俺は灰髪赤目の魔族に変装し城門へ向かう。すると、城門の前に見慣れた小さな人影があった──ネルだ。彼女は薄灰色のローブを纏い、フードで顔を隠していた。


 もしかして、ネルもお忍びで城下町に行くのか?


 俺はネルに駆け寄り、門番たちに聞こえないような声量でネルを呼ぶ。


「ネル」


「む? 其方……和也か?」


 あー、そうか。今変装してるんだったな。


「ああ。俺は和也だ」


「其方何故、これが妾だと分かったのだ?」


「ん? どういうことだ?」


「このローブには認識阻害の魔術が刻まれておるのだ」


「あー、なるほどなー。けど俺に認識阻害は効かないんだよ」


 これもステータスカンストの恩恵だ。


「そうであったか」


「それより、ネルもこれから城下町に行くのか?」


「うむ」


「やっぱりか。俺たちも今から城下町に行くんだが、良かったら一緒に行かないか?」


「良いの──か、構わぬ」


 一瞬嬉しそうにはにかんだネル。しかし、門番やリーズの目があることを思い出して慌てて表情を取り繕う。


 あぁ……やっぱりネルってかわいいなぁ……。


 俺は我慢できずに、フードの上からネルの頭をポンポン撫でた。


「や、やめよ和也! 恥ずかしい」


「あははっ……悪かったって」


 そうして俺たちは城下町へと向かった。


***


「あれ? 前来た時となんか雰囲気変わった?」


 曇り空の下、人がにぎわう城下町。以前と変わらず店が立ち並び、人々も活気づいているが、どこか違和感を覚えた。


 俺の疑問に対し、隣を歩くネルは本屋の入り口を指差す。


「おそらくは、其方が作り上げた白い魔導灯の影響だろうな」


「ああ。ホントだ……もうこんなに普及したのか」


 周囲を見渡すと、洋服屋や宝石店などの灯りはすでに白い魔導灯に置き換えられていた。隣のベッド屋では、俺がネル経由で伝えたスプリング入りのベッドが大々的に紹介されていた。


 そんな、俺がもたらした変化に柔らかい視線を向けていたネルは言う。


「和也。其方がもたらした物のおかげで、街は以前にもまして賑わっておる。感謝するぞ」


「あ、ああ……」


 俺は自分が作りたいものを作ってるだけ。そう否定しようとしたけれど、ネルの真っすぐな視線と目が合うと、俺は頷くことしかできなかった。こう改まって褒められると、胸の奥からグッと温かい感情があふれてくる。


 社畜時代に味わえなかった、よくわらない感情に俺が固まっていると、ネルは再び歩き出した。俺はハッとして小走りで後を追う。


 なんか、照れるなぁ……。


 隣を歩くネルの横顔は、フードに隠れていてよく見えない。話していないとみるみる気恥ずかしくなってきて、何か話題はないかと頭を悩ませる。そうしていると、どこからともなく炭で肉を焼くよだれを誘う香りが漂ってきた。


「あー、ネル。この匂いってたぶん焼き鳥だよな?」


「む? おそらくはそうであろうな。其方、腹が空いたのか?」


「まあちょっとな。それに食べ歩きって言うのもいいだろ?」 


「うむ。そうだな。……リーズ。すまぬが鳥串を六本買ってきてくれぬか?」


「承知いたしました」


 リーズはネルから財布を受け取ると、そのまま鳥の串焼きを売っている露店まで歩いていく。ローブに身を包んでもなお分かる姿勢の良さを持つリーズの背中を見送ると、ネルはスッと目を細めて口を開く。


「和也。昨日リーズと出かけたようだが何か進展はあったか?」


「ん? ああ。あったぞ」


 俺はネルに、昨日リーズが雲海を見て感動していたことと、絶景に興味を持ってくれていそうだったことを話した。


「そうか……リーズが笑ったのか……やはり其方にリーズを任せた妾の判断は間違っていなかったようだ」


「そうだといいんだけどな」


 ずっと気にかけていたリーズが笑ってくれたことに安堵し、口元を緩めるネル。不意に彼女は子どもっぽく頬を赤らめ、俺の服の裾を引っ張った。


「……ところで、その……妾にも何かリーズのためにできることはないか?」


 そうか……やっぱりネルもリーズのために何かしたいのか。


「そうだな……」


 俺はざっと周囲を見回し、本屋の看板に目を止める。看板の下の方に書かれた新入荷欄に「魔族領絶景スポット十五選」という文字を見つけたからだ。


「ネル。あれなんていいんじゃないか? 『魔族領絶景スポット十五選』。次に行きたい場所を探したり、本を眺めて景色をイメージしたりして楽しめると思うけど」


「それはよいな! 早速買ってくるとしよう」


 そう言って無邪気に微笑み、歩き出そうとしたネル。


「あ、待てネル」


 俺はネルの手首を掴み、引き留めた。


「さっき財布はリーズに渡してただろ? 金持ってるのか? ないなら貸すぞ?」


「……そ、そうだったな。すまぬが、其方の言葉に甘えさせてくれぬか?」


 目を逸らし、ネルはカーっと顔を赤く染める。その様子があまりに子どもっぽくてかわいくて、俺は我慢できずにネルの頭をポンポンと撫でた。


「あははっ……! やっぱりネルはかわいいなー。俺でよければ手持ち全部貸すよー」


「むぅ……助かる……」


 頭を撫でられ口をすぼめるネルもやっぱりかわいくて、俺はネルの頭をわしゃわしゃと撫でまわしたい衝動を抑えるのに必死だった。


 そうして俺はネルを送り出し、大通りの道端でリーズとネルの帰りを待つことになった。

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