18.魔導灯の評価
「わ、我が神和也様ー!? どうされたのですか!?」
「んん……」
聞き覚えのある騒々しい声に目を覚ますと、昨日俺とカイルで作った魔導灯が目に入った。
そうだ……昨日は疲れて、そのまま厨房で寝たんだった……。
「……悪いクカック。今出ていく」
俺は半分目を閉じたまま起き上がると、近くで眠っているカイルをゆすった。するとカイルも重い体を引きずり、のそのそと起き上がる。
「我が神和也様。大丈夫なのですか? 誰か部屋までお付けしましょうか?」
「いや、いい。それに昨日は朝しか食べてないから、このまま食堂に行くよ」
「左様でございますか。でしたら早急に料理をお出ししましょう」
そう言うとクカックは料理人たちを振り返り、気持ちを引き締めるためにパンッと手を叩いた。
「みなさん、急ぎますよ!」
「「「はい!」」」
俺は邪魔にならないよう、カイルに肩を貸して厨房を出ようとした。その時、扉の横に取り付けたスイッチが目に入った。
「そうだクカック。このスイッチ押すと天井に設置した魔導灯が光るから、よかったら試してみてくれ。今日も曇りだし、ちょっと暗いだろ?」
「もう完成したのですか!? ……まさか、魔導灯を早く完成させるために無茶をして倒れられていた? ワタシの軽率な発言のせいで我が神和也様にご迷惑を……?」
自分のせいで俺に無理をさせてしまったと、顔を青ざめさせるクカックに俺は弁明する。
「それは違うぞクカック。俺が倒れたのは俺のせいだ。魔道具作りに夢中になって、食べるのも寝るのも忘れて没頭した俺の自業自得だ。だからクカックが気にすることはないよ」
「そうですか」
「それに今は、魔導灯を使ってみた感想が欲しいんだ。俺が初めて作った魔道具だから上手くできてるか気になる」
「なるほど。では、ありがたく使わせていただきます」
クカックの返事を聞いて、俺はスイッチをオンにし厨房を後にした。
***
「む? 今日はやけに早いな和也。それに勇者パーティーの魔術師──カイルと言ったか。其方がいるとは珍しい」
食堂でクカックが作ってくれたステーキを食べていると、魔王のネルと宰相のセバスが入ってきた。時刻は午前六時半。いつも俺はネルたちの朝食の終わり際に食堂に来るから知らなかったけれど、二人とも朝早いんだな。
「それに今日の朝食はやけに気合が入っておるな。和也。其方またクカックに何か教えたのか?」
「いや、俺はカイルと二人で厨房に魔導灯を設置しただけだ」
「魔導灯? 必要だと申してくれれば妾が魔道具職人を手配したのだが」
「いや、俺たちが作った魔導灯には光魔石が必要だったんだ。魔族じゃ作れないだろ?」
「ふむ。確かにな。だが何故また光魔石を使ったのだ? 火魔石ではダメだったのか?」
「それは──」
「魔王様。それはワタシが説明いたします」
そう言ったのは、いつの間にかネルの傍で膝をついていたクカックだった。彼が連れている部下二人は、ネルとセバスさんの席にステーキを並べる。
「──と言うわけで、和也様に白く光る魔導灯を作っていただいた次第です」
「ふむ。そういうことか。和也はまた面白いものを作るな。……しかし文字や肉の焼き加減を昼間と変わらずに見分けられる白い魔導灯か……妾にも見せてくれぬか?」
「はい。もちろんでございます」
クカックの案内で厨房に向かうネルとセバスさん。ちょうどステーキを食べ終わった俺は、なんとなく彼らについていった。
「ほう……確かに既存のオレンジよりも白い光の方が昼間の雰囲気に近いな」
感心した様子のネルは、虚空から何かの本を取り出し開く。
「なるほど。これはよいな。夜間の書類仕事がはかどりそうだ」
「はい。しかも和也様は天井の魔導灯を一度に付けられるようにしてくださいました。これならば従来のように魔術でいっぺんに火を灯していた頃と手間は変わりません。さらに──」
クカックがネルに白い魔導灯の魅力を説明していると、料理人たちは扉の近くで様子を眺めていた俺に集まってきた。
「和也様。この魔導灯、本当に便利っす! 助かります!」
「今までは肉の焼き加減を時間で調整していたせいで焼き加減にムラができてしまってましたけど、この白い魔導灯のおかげで正確に焼き加減を調整できるようになったんです! ありがとうございます!」
「それにこの白い光のおかげで今までは気付けなかった汚れにも気付けたんです。マジ感謝しかないです!」
「あ、ああ。……まあ気に入ってくれたならよかったよ」
押し寄せる料理人たちから口々にお礼を言われる。
まあ嬉しいんだけど……それよりも頭痛い……。
料理人たちの声は大きく、三時間くらいしか寝ていない俺の頭に響いた。
それからしばらくして料理人たちの感謝が止み、ネルとセバスさんの元へ行く。すると、ちょうど二人が真面目な話を始めたところだった。
「セバス、この魔導灯が革命的な代物であることは確かだ。王都の魔道具技師にこの魔導灯と同じものを大量発注しようと思うのだが、其方はどう思う?」
ネルに聞かれて、セバスさんは顎に手を当てて考える。
「そうですな。……確かに和也様方がお作りになられた魔導灯は民たちの暮らしを快適にするでしょう。しかしながら、光魔石の生産はどうなさるおつもりで? 今はカイル様に作っていただくとしても、いずれは光魔石を生産できる者がいなくなります。そうなれば──」
セバスさんの言葉を、ネルが引き継ぐ。
「そうなれば、突然魔導灯の生産が止まり民たちを混乱させてしまう……か」
「はい」
「念のため言っておくが……僕も……断る」
いつの間にか俺の後ろにいたカイルが、か細い声で続ける。
「魔族全体の需要を賄えるだけの光魔石を作っていたら、研究の時間が潰れる……から」
「ならばこの話はなかったこととしよう。妾も軽率だった」
「あー、ちょっといいか?」
魔導灯の大量生産はしないという方向で話がまとまりそうになっている中、俺は手を上げた。
「どうした和也?」
「実は俺、光魔石を恒久的に大量生産できるやつに心当たりがあるんだ」
「ほう? そのような者が存在するのか」
この場にいる全員が俺に視線を集める。そんな中、俺は軽く頷いた。
「ああ」
それは、俺に勇者の聖剣を授けた相手──。
「──光竜だ」
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