17.魔導灯作り
「カイル。入るぞ?」
翌日。朝食を終えた俺は、電球改め魔導灯を作るため、光魔石を作ってもらおうとカイルの部屋を訪れた。
「和也……僕は忙し──」
本に埋もれた机から鬱陶しい虫を見る目を向けてくるカイルに、俺は地球産コーヒーが入った袋を見せた。
「──今度は何を作ればいいんだ?」
コーヒー袋を見た途端、暗緑色の髪から覗くカイルの目に光が宿った。
「光魔石と無属性魔石をとりあえず十個ずつ頼む。もしかしたら追加するかもしれないけどな」
「分かった。すぐ作る」
光魔石と無属性魔石は、電球で言うところのフィラメントと電池だ。あと必要なのは電線とスイッチ。カイルの部屋を見回すと、魔導回路に使う部品が雑に詰め込まれた木箱があった。
「カイル。ここの魔導線とスイッチももらっていいか?」
「ああ。……和也は……何か魔道具を作るのか?」
早速魔石を作り始めたカイルが、片手間に聞いてくる。
「ああ。魔導灯を作るつもりだよ」
「和也も……魔道具作りに興味があるのか……?」
「うーん……どうだろ。でもまあ、こういうのは嫌いじゃないと思うぞ」
一応理系だったからな。
「なるほどな……」
カイルが自分から話すなんて珍しいな……いつも魔術の研究のことしか頭にないのに。
どうしたのだろうとカイルを見ていると、不意に彼は顔を上げた。
「できたぞ」
「はやっ!」
一般の魔石職人が一日かけて作る量を、カイルはたった十分程度で仕上げてしまった。俺はコーヒーをカイルの机に置き、代わりに魔石を受け取る。
「じゃあなカイル。魔術の研究楽しんでなー」
そう言ってカイルの机から離れようとすると、カイルは俺を引き留めた。
「待て和也……」
「ん? コーヒー足りなかったか?」
「そうじゃない……」
カイルはボサボサの前髪を弄り、目を泳がせながらボソッと呟く。
「その、なんだ……魔道具の作り方、見てやっても……いい」
「いいのか!?」
「……あ、ああ」
「それは助かる! カイルが見てくれるなら最高の魔導灯を作れるよ」
「それは……買いかぶりすぎ……」
「そんなことはないと思うが……まあとりあえず、必要なものを持ってくる」
俺は一度カイルの部屋を出て、青い酒瓶が入った木箱をカイルの部屋に運ぶ。その間にカイルは机に積まれていた本を片付け、作業スペースを確保してくれた。
「まずは……自分でできるとこまでやってみろ……」
「分かった」
この世界の魔道具作りは、電気、電子回路の組み立てと変わらない。高卒とはいえ豆電球の回路は何度か見たことがあるから、魔導灯の作り方は分かる。机に光魔石、無属性魔石、スイッチ、魔導線を並べ一つ一つ順番に繋げていく。
俺は視線を手元に落としたまま、さっきから気になっていたことをカイルに聞く。
「けど、カイルが魔術の研究を中断してまで俺を手伝ってくれるなんて珍しいな。どうして今回は手伝ってくれたんだ?」
「ああ……それはその、和也が魔道具作りに興味持ってくれて、嬉しかったからだ。……僕の周り、魔術と魔道具の両方を好きな人がいなかったから」
「あー確かに、魔術師は魔道具に頼るのを恥だって思ってるやつ多いよな。カイルが所属してた宮廷魔術師とか特にそうだった」
「ああ……魔術と魔道具に優劣なんてないのに……」
俺がカイルを勇者パーティーに誘った時、カイルは宮廷魔術師の中で孤立していた。あれはそう言うことだったのか。
そんなことを考えているうちに、魔導灯の回路が出来上がった。俺は青い酒瓶の一つに回路を入れ、スイッチだけを外に出す。魔導線の長さを調整して、電池である無属性魔石は瓶底に、ライト本体である光魔石は瓶の中央で吊り下がるようにした。
試しにスイッチをオンにする。すると、魔導灯は黄色っぽい光を放った。どうやら、光魔石の黄色が強く、酒瓶の青では光を白にできなかったらしい。
「うん……問題なく動作している……」
カイルが回路を確かめながら頷く。けれど俺が目指すのはLEDのような白い光を放つ魔導灯だ。
「カイル。この光を白にしたいんだ。光魔石の黄色っぽさを下げる方法を教えてくれないか?」
「ああそれなら、魔石のルーンを少し弄れば……」
瓶から魔石を取り出したカイルは指に魔力をこめ、何かを書き加える。そうして再びスイッチを押すと、今度は俺が目指していた真っ白な光を放った。
「すごいなカイル! カイルが手伝ってくれて助かったよ!」
「大したことは、ない……」
照れくさそうに目を逸らすカイル。彼は誤魔化すように話題を変える。
「ところで、これは何に使うんだ?」
「ん? 一つは俺の読書用で、残りは厨房用だけど、それがどうかしたか?」
そう聞き返すと、カイルはピクッと眉を震わせ、大きく息を吸った。そして彼は、両手をドンッと机に突き、一気にまくし立てる。
「……『どうかしたか?』じゃないだろ! 魔道具は用途に応じて細かな工夫を凝らすものなんだ! 魔導灯だって、リビングで使うなら部屋中を照らせるように明るく、寝室で使うなら明るさを調整できるように。そうやって小さな工夫を積み重ねていって魔道具は進化してきたんだ!」
「そ、そうなのか……」
「そうだ。例えばライニッツ公が作り上げた第二世代魔導風車だって──」
魔道具について熱く語りだすカイルに気圧される俺。この構図は、勇者として旅していた頃も何度かあった。
いわゆるオタク語り。一般的に、その分野に対する興味と知識がなければ聞いている側は面白くないと言われているもの。けれどカイルのオタク語りには、魔術や魔道具の知識に乏しい俺でも不思議と引き込まれた。
そこに、カイルの信念が現れている気がするから。俺も見習いたいと思える何かがあるから。
「──だから魔道具を作る時は常に用途を考えるんだ。そうやって使用者にとって最適な魔道具を作り上げようとする気持ちこそ、魔道具作りで一番大事なことなんだ」
「なるほどな。『使用者にとって便利なものを』ってことか。確かにそれが一番大事かもな」
俺がカイルの話を聞いて思ったことを呟くと、カイルは声を上擦らせた。
「和也も分かるか! それなら、和也は厨房に付ける魔導灯にはどんな工夫が必要だと思う?」
「そうだな……厨房だと手元がはっきり見えるようにしたい。だからと言って明るくしすぎると包丁とかの金属に光が反射するから、他に使う魔導灯よりも明るさを厳密に調整した方がいい、とかか?」
「そう! 流石和也。呑み込みが早い! それなら次、読書用の魔導灯にはどんな工夫がいる?」
「あー、えっと……周りの明るさとか個人差とか、本の文字が光を反射する度合いとかで魔導灯が眩しく感じたり暗く感じたりするだろうから、明るさを調節する機能が欲しいな」
そうして俺は、カイルにアドバイスをもらいながら読書用のランタンと厨房用のライトを作った。途中何度も失敗したが、その度にカイルは改善策の答えではなくヒントをくれた。
魔術で包丁を生成して、光の反射が眩しくならなず手元がよく見える明るさを探したり、明るさ調節機能を付けるために複雑な回路を組んだり。難しいし地道な作業だったけれど、カイルの教え方が上手だったおかげで完成に近付いていく実感があったし、自分自身の成長も実感できたから楽しかった。
「できた……」
途中リーズが食事の時間を知らせに来たが、俺は食事を摂らず作業に没頭した。
そうして魔導灯を完成させたのは、夜の十一時過ぎだった。昼前から作業していたから、ほとんど半日ぶっ通しで作業していたらしい。
俺は、瓶を半分に切ってマグカップ型にした魔導灯に付いている摘みを回し、明るさを変えていく。俺の部屋から持ってきたラノベを開いてみると、ロウソクの灯りでは見えにくかった文字もハッキリと見えた。
「おめでとう和也。その読書用ランタン……初めて作ったとは思えない出来だ……」
「ああ。ありがとなカイル。こんなに上手くいったのはカイルのおかげだ」
そう言って俺とカイルは見つめ合い、フッと同時に破顔した。いつも眠たそうにしているカイルがこんなに楽しそうに笑ったところは初めて見た。
「ハハッ! ……よし! じゃああとは、こっちの厨房用を厨房に設置して終わりだな」
「ああ……今、行くか……?」
「もちろんだ!」
そうして二人で厨房にライトを運ぶ。俺とカイルは手分けしてスイッチを壁に、魔導灯を天井に取り付け、その二つを繋げるように魔導線を壁や天井の中に這わせた。それから魔導灯の位置や角度の微調整を繰り返し、全ての作業が終わったのは深夜の二時半だった。
「完成だーあぁ……」
「和也と一緒に魔道具を作ると、一人で作るのとは違う楽しさが……あっ……た……」
作業を終えた俺たちは満足感に包まれ、厨房で倒れるように眠った。
明日クカックの喜ぶ顔を見るのも、自分で作ったランタンの灯りでラノベを読むのも楽しみだなぁ……。
この話を読んでいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけたら、
ブックマーク登録や感想、
↓の「☆☆☆☆☆」をタップして、応援していただけるとうれしいです!
星はいくつでも構いません。評価をいただけるだけで作者は幸せです。




