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16.部屋の灯り

 風呂もベッドもできたし、調味料作りはエルフとの交渉待ち。魔王城に来てからようやくひと段落した俺は、自室のベッドに寝転がり、パラレルゲートを使って日本の俺の家から取り寄せたラノベを読んでいた。


「時間気にしないでラノベ読めるとか最高だなー」


 俺の日本の家には、ブラック企業勤め時代にいつか読もうと買ったものの読めていなかったラノベや漫画が山のように積まれている。当分ストックが尽きることはないだろう。


「けど、夜だと読みにくいな」


 間も無く日付が変わる頃。俺は目を擦り、壁の燭台を見た。


 魔王城の灯りは、シャンデリアや燭台、もしくはランタンだ。火属性魔術で火をつける分、普通のロウソクよりは明るいが、どれもオレンジ色の灯りだ。オレンジの灯りは風情がある点は悪くないが、とにかく文字が読みにくい。それに魔族領は基本的に曇りなので月明かりもない。


「光属性魔術を試してみるか」


 俺は魔術で風を吹かせて燭台の火を落とし、ライトオーブをいくつか天井付近に浮かべてみた。そしてラノベに目を落とす。


「うーん……さっきよりはマシだけど……」


 ライトオーブは黄系統の光を放つ。やはり、LEDになれた日本人としては黄色の光に違和感を覚えた。なんとか光を白くしようと試みるも、黄色味を消しきることはできなかった。


「……そうだ! あれを使えば、光の色を変えるくらい簡単にできるんじゃないか?」


 あることを思いついた俺は、ラノベをベッドに置いたまま部屋を出る。夜も遅いので足音を消し、俺は廊下を小走りして厨房へと向かった。


 ん? 誰かいるな。


 もうすぐ日付が変わるというのに、厨房にはロウソクの火が灯っていた。俺は取っ手に伸ばしかけていた手を引き、扉をノックした。


「ちょっといいか?」


「こんな夜更けにどなたですか?」


 中から聞こえてきた声には聞き覚えがあった。料理長のクカックのものだ。


「クカックか。俺だ。和也だ」


「我が神和也様!?」


 名乗った途端、バタンっと扉が勢いよく開き、中からクカックが飛び出してきた。


「お久しぶりでございます我が神和也様!」


「うっ……!?」


 急にドアップになったぽっちゃり赤チョビ髭お爺さんの顔に驚き、思わず後退る。


 軽くホラーだろこれぇ……。


 いつの間にか俺の手を大事そうに両手で握っているクカックに、苦笑いを抑えられなかった。


「く、クカックは、こんな時間まで何してたんだ?」


 クカックの意識を会話に向けさせ、彼の手を振りほどく。


「厨房の掃除と調理器具の確認、それと食材の在庫確認でございます。我が神和也様。あなた様こそこんな夜更けにどうなさったのですか?」


「あ、そうだった。……クカック、ちょっとワイングラスを借りてもいいか?」


「おや、我が神和也様。晩酌をなさるのですか? でしたらどうかワタシめもご一緒させていただけませんか? 料理について語り合いたいのです」


 また鼻息荒く迫ってくるクカックを押し返しながら、俺は誤解を解く。


「いや、悪いそうじゃないんだ。……それと、その『我が神』って毎回いうのやめないか?」


「いえいえ。我が神は我が神ですから。……しかし、晩酌でないならワイングラスでいったい何をなさるおつもりです?」


 ようやく落ち着いたクカックを見て一息つく。そうして俺はクカックの横を抜け、赤いグラデーションの入ったワイングラスを手に取った。


「ああ。灯りの色を変えられないかと思ってな」


「む? 確かにガラスの色を通すとロウソクの灯りに色彩を乗せることはできますが……差し出がましいようですが一つ忠告を。ワイングラスを火にかぶせたら、すぐに火が消えてしまいます」


「それは大丈夫だ。俺はこれを使うから」


 そう言って俺は、調理台に置いてあったロウソクの火を消すと同時にライトオーブを一つ生成した。すると、一瞬で周囲が白っぽい黄色の光に包まれる。


「おお。光属性魔術ですか。うっかりしておりました。我が神は魔族ではなく人族でしたね」


 俺はライトオーブを調理台の上に移動させ、上からワイングラスをかぶせた。結果は予想通り。厨房はバラエティ番組でよく見る赤い光に染まった。


「よし。大丈夫そうだな」


 俺はワイングラスを外して元の黄色い光に戻す。それからクカックに向き直った。


「クカック。青色のワイングラスってないか?」


「青色のワイングラスですか……申し訳ございません我が神和也様。青色のワイングラスは持ち合わせていないのです」


「そうか……」


 ないのか……ならどうするかなー。青がないと黄色の光からはLEDを再現できないし、また明日城下町にでも出かけてみるか?


「ですがご安心ください我が神! まさに今日、ジークス様率いる近衛騎士団の方々がお飲みになった酒の瓶が青色でございます!」


「ホントか!?」


 諦めモードになっていた俺は、チョビ髭をつまんでどや顔をするクカックの言葉に顔を上げる。


「ええ。ええ。本当ですとも! こちらでございます!」


 そう言ってクカックは、厨房の隅に積まれていた木箱を開ける。その中には、空になった大量の青い酒瓶が並んでいた。しかもその酒瓶の青は、光を通す半透明だった。


「助かったよクカック! これならいける!」


「左様でございますか? 我が神和也様の助けになれたと……ワタシなどにはもったいない栄誉でございます!」


 祈るように手を組み涙を流すクカックを無視して、俺は早速酒瓶を一つ取り出す。そして、その中にライトオーブを入れた。


「あー、ちょっと青が強いな」


 部屋はかなり白に近い水色に染まった。同じ彩度の黄色と青を混ぜると白ができるはずだから、ライトオーブの黄色度が少し弱いのだろう。


 だったらこれで……。


 俺は少しずつライトオーブの色を黄色に近づけていく。すると、光は白へと変わった。


「よし! 成功だ!」


 これなら夜でもラノベを読める!


「おめでとうございます我が神和也様」


「ああ。クカックも瓶ありがとな」


「いえいえ」


 何かクカックにもお礼したいな……そうだ!


「クカック。ロウソクの灯りだと肉の焼き加減を見分けにくくないか?」


「……? はい。確かに昼間と比べると見分けにくいです」


「なら、この灯りを使って試しに肉焼いてみてくれ」


 数分後──。


「すばらしい……」


 肉が焼かれる香ばしい香りと、ジュージューというおいしそうな音を立てる肉を見ていたクカックが吐息のような声を上げた。


「な? ロウソクよりも肉の焼き加減が見やすいだろ?」


「はい! 我が神和也様! ぜひともこちらの照明器具をいただきたい! これがあれば、より焼き加減にこだわれます。このクカック、精進いたしますのでどうか……」


 そう言ってクカックは俺の足にすがりついてくる。


「あ、ああ。元々そのつもりだ。だから離れろよー!」


「ありがとうございます我が神和也様!」


 ようやく離れてくれたクカックに苦笑いしつつ、俺は一つ確認する。


「なあクカック。魔族は直接光魔石や光魔道具に触れたり魔力を流さなければ問題ないんだよな?」


「はい。その通りでございます」


「だよな」


 それなら瓶の中に光魔石を入れて、電気回路みたくスイッチ押したら無属性魔石から魔力が流れるようにすれば魔族でも使える電球を作れる。


 明日にでもカイルに魔石を作ってもらおう。

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