11.男湯の完成と、石に詳しい意外な人
現状サウナストーンの入手方法がないという課題は残っているものの、それ以外の男湯の設備が全て完成した。
「いやぁ……完成してみるとすごい達成感だなー!」
浴室の中心辺りに立ち、部屋中を見回す。
最初に目に入るのは洗面台。俺が作った土台にシャワーと蛇口が取り付けられ、桶と椅子が並んでいる。そして洗面台の手前には、温度の違う二つの四角い浴槽。お湯こそ張っていないものの、丸岩で装飾されたそれらは温泉のそれと大差ない。
後ろを向くと、五つ並んだジェットバスがあり、その横に水風呂とサウナが見える。露天風呂に通じる扉を開けると、砂利が敷き詰められた庭と、木目がはっきりと見える板材が風情を引き立てていた。そして中心には、これまた丸石で装飾された浴槽があり、奥には桶風呂が並べられている。
脱衣所に行くと、大理石でできた洗面台が三つ並び、壁一面にはロッカーが並べられていた。
これ、ほとんど俺が作ったんだよな……魔術は使ったけど、素人が作った割には良くできたんじゃないか?
ここ数日の成果を眺め、達成感に拳を握り締める。最初は「ゆっくり風呂に入りたい」という目標のためだけに頑張っていたけれど、終わってみると作業も楽しかったなー。
そんなことを思いながら達成感に浸っていると、不意に後ろから声をかけられた。
「和也様。もうじき夕餉の時間ですが、如何なさいますか?」
「もうそんな時間か。なら食堂に行こうか」
***
「して和也よ。男湯の進捗はどうだ?」
夕食中、上座に座る魔王のネルが聞いてきた。
「ああ。それならついさっき完成したよ」
「マジか!? だったらこの後入りに行ってもいいかぁ?」
真向かいに座り、骨付きマンガ肉の塩焼きに豪快にかぶりつくジークスが聞いてくる。
「あー、悪い。まだ掃除してないから明日にしてくれ」
「おう! 楽しみにしてるぜ」
「でしたら、私どももご一緒してもよろしいでしょうか?」
「ああ。もちろんだ」
ジークスと、ナイフとフォークを使い気品あふれる所作で豚肉を食べていた宰相セバスの二人に頷く。それから俺はネルを見た。
「……それでネル。一つ相談なんだが、石に詳しい人を紹介してくれないか?」
そう言って俺は、豚の塩焼きを一口頬張る。
ん!? またうまくなってる。
塩の味が舌を打ち、作業で疲れた脳に効く。噛むと肉汁があふれてきて、豚肉本来のジューシーな味わいが口中に広がった。料理長たちに塩焼きを教えたのはたった数日前なのに、もう一流料理店並みのおいしさだ。
「石? 其方、また何か面白いことを企んでおるのか?」
「いや、風呂関係だ。設備は完成したんだけど、サウナ用の石がなくてな」
「さうな? ……とはなんだ?」
そうか。こっちの世界にサウナはないのか。
「うーん……端的に言うと、石を熱した蒸気で熱くなった部屋のことだな。そこに入って汗を流すのがまた、風呂とは違う気持ちよさがあってな? しかもサウナから出た後、火照った体で浴びる水も冷たくて最高なんだよ!」
「ほう……いまいちピンとこないが、其方が熱弁するところを見るに、良い物なのであろうな」
え? 今俺、そんなに熱弁してた……?
なんだか急に恥ずかしくなって、俺は苦笑いを浮かべて誤魔化し、豚肉を口に入れた。
「つまり其方は、そのさうな? とやらに使うための石を探しておるのだな?」
「ああ」
「ならば、ジークスに相談するとよい」
「ジークス? ジークスって石に詳しいのか?」
「おう! 石のことならこのオレに任せな」
右手で力こぶを作り、左手でそれを押さえるポーズを取り、ニッっと歯を見せて笑うジークス。あとでジークスが石に詳しい理由を聞くと、どうやら遠征等で野営する際、石や植物の知識があるのとないのとじゃ危険度や快適度が全然違うから身に着けたらしい。
「ならジークス。これから俺が言う特性を持った石を知らないか?」
そう言って俺は、サウナストーンに必要な特性を列挙した。
「なるほどねぇ……その条件ならジェブロ石がよさそうだ」
「それってどこで手に入るんだ?」
「火山の近くだぜ。ちょうど十日後に火山地帯に遠征に行く予定がある。その時取ってきてやるよ」
「助かるよジークス。ありがとな」
これで男湯が完全に完成するな!
あとは明日、メイドたちに風呂の入れ方と掃除の仕方を教えれば俺の作業は完全にお終いだ。と言っても、女湯の管理でメイドたちも慣れているだろうから教えることは少ないと思うが。
そして翌日。俺はメイドたちと掃除の仕方などを確認し、ジークスと騎士たちが鍛錬を終える夕方に合わせて、彼女たちにお湯を張ってもらった。
「おう和也! 来たぜ!」
脱衣所の椅子に座って待っていると、ジークスとジークスの部下である騎士たち、それに宰相と数人の執務官がやってきた。




