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12.男湯お披露目

「おう……なんつーか、洞窟の中みたいだな」


 脱衣所で服を脱いだジークスや宰相たち。彼らは浴室に入った途端立ち止まり、浴室を見回す。


「分かるか!? 自然っぽさを出したくて床や壁は平たい岩で、湯船も丸岩で作ったんだ」


 意図が伝わって嬉しい。自分が造った風呂に初めて入ることも相まって、俺はテンションマックスの声でジークスたちに説明する。


「風呂に入る時はまず、そこの洗面台で頭と体を洗うんだ。体を洗う時は桶の横にあるシャンプーとボディーソープを使ってくれ。それからは好きな風呂に入ってみてくれ! 室内にはあったかい風呂と熱い風呂、それとジェットバスがあって、奥の扉からは露天──」


「おいおい待てって和也。そういっぺんに話されても分かんねぇよ」


「あ……悪い。つい嬉しくて……」


「ほぅ……勇者様にもこのような一面があったとは」


 セバスは長くはない白い顎髭を弄りながら、孫にでも向けるように、優しく目を細めた。


「ま、まあとにかくだ……! 最初に体を洗ったら、あとは好きにしてくれ」


 頬が熱くなるのを感じながら、俺は半ば強引にジークスたちを洗面台に送った。ジークスに連れられてきた騎士たちや、セバスに誘われてきた執務官たちも戸惑いながら後に続く。


 その中には、以前「男が風呂に入るなんてダサい」みたいなことを言って俺をバカにしてきた騎士たちも含まれていた。


 俺はジークスとセバスの間に座り、シャンプーで頭を洗う。


「あったけぇ……お湯ってのも案外悪くねぇな」


 隣でシャワーを使っていたジークスが


「そう言えば、男の魔族は風呂に入らないって言ってたけど、どうやって体洗ってたんだ?」


「そりゃ、魔術で水出して頭から浴びてたんだ」


「それ、臭いとか汚れちゃんと取れてたか?」


「ええ。そこは問題ございません。ただ、そのためには何度も冷たい水を浴びねばなりませんでした。その点、このシャンプーやボディーソープとはすばらしいものですね。臭い汚れが、軽く擦っただけですぐに落ちる」


 セバスの言葉を聞いてなんとなく周りを見ると、他の魔族たちも口々に感嘆を漏らし、夢中で体を洗っていた。


「『風呂とは女性が入るための物』。この常識に囚われて視野が狭くなっておりました。仮にも宰相を任せられている身として恥ずかしい限りです」


 そこで一度言葉を区切り、セバスは俺に頭を下げた。


「勇者様。あなた様のおかげで私どもは『時として、常識を疑うことも必要』という教訓を得られました。感謝いたします」


「頭を上げてくれセバスさん! 俺はそんな大したことはしてない。男湯だって、自分が入りたいから作っただけだ。それなのに業者を雇う金まで出してくれて、むしろ俺の方が感謝したいくらいだ」


「そう言っていただけると幸いです。ですが資金のことはお気になさらず。賓客をもてなすことに金を渋るなど、魔王様の品位が疑われますから」


「そうか……」


 釈然としないが、これ以上はセバスさんの顔を潰すことになる。


 まあでも、これからはなるべく自分で払おう。一応、勇者としての報酬でそれなりに金は溜まってるからな。


「おぅおぅ。おまえら何頭下げ合ってんだぁ? さっさと和也の作った風呂に入ってみようぜ」


 体を洗い終わったジークスがそう言ってくる。見ると、他の魔族は恐る恐るではあるが、すでに風呂に足を踏み入れていた。きっとシャワーや石鹼の良さを知って、風呂ももしかしたらいいものかもしれないと思ってくれたのだろう。


 足先をお湯につけた時には不安そうにしていた魔族たちも、風呂に浸かった途端顔をとろけさせていく。彼らの幸せそうな表情を見ていると、なぜか嬉しかった。


「そうだな! 折角の風呂なんだし堅苦しい話はもうやめだ。俺たちも入ろう」


 そう言って立ち上がると、俺は座ったままのセバスさんに手を伸ばした。


「セバスさんも敬語はいらないし、俺のことは和也って呼んでくれ」


「申し訳ございません。私どもは敬語で話すときが自然体なのです」


「そうなのか? なら好きにするといいよ。風呂に入る時は自然体が一番だ」


「ありがとうございます和也様」


 そうしてセバスさんと握手を交わし、そのまま手を引っ張って立ち上がらせる。


「二人とも、まずはどの風呂から入りたい?」


「「和也(様)のおすすめで」」


 きれいに声をかぶせる二人に、思わず表情が崩れる。


「ハハッ……なら最初はこれだな」


 そう言って俺は、三十人はのびのびと入れる大きさの通常温度の風呂に足を踏み入れた。ジークスとセバスさんも続いて入って来る。


「あ゙~~」


 ジークスが気持ちよさそうに、中年らしい(?)絞り出すような声を上げる。


「これは……一度体験したらやめられない快感ですね……」


 セバスさんは目を閉じ、今までずっとピンと張ってた背筋を初めて曲げた。俺も俺で数日ぶりの風呂に肩まで浸かり、体の芯から温まる感覚に身を任せ、全身の力を抜く。


 やっぱり風呂はいいなー。


「おいおまえら! こんな気持ちいい思いをさせてもらってるんだ。和也に感謝しろよー!」


 ジークスが、同じ浴槽や熱湯、ジェットバスに入っていた騎士たちに声を飛ばした。


「いやジークス。そういうのはいい──」


「「「はっ! 和也様、ありがとうございます!」」」


 声を揃える騎士たち。中には、セバスが連れてきた執務官の姿もあった。そして彼らは、一斉に俺の元へ押し寄せる。 


「和也様。この前はバカにして申し訳ありませんでした! まさか風呂がこんなにいいものだとは──」


「和也様。この風呂ってまた入れるんですか?」


「自分、こんないい物があるなら鍛錬をもっと頑張れます!」


「和也様が考案された肉の塩焼きもおいしかったです!」


「和也様バンザイ! あなたが魔王城に来てくれてよかった!」


 ライブ会場から出てきたアイドルに押し寄せるファンさながらの勢いで詰め寄ってくる彼らに、俺はどうしていいか分からず視線を泳がせる。


「えっ、あ……ありがとう」


「おいおまえら! 和也が困ってるだろうが! ちったぁ遠慮しろよ」


 いや、焚きつけたのジークスだろ……!


 心の中でツッコミつつ、俺は逃げるように風呂から出る。


「俺露天風呂いくけど、二人も来るか?」


「おう! もちろんだ」


「ぜひともご一緒させてください」


 というわけで露天風呂。こっちは人が少なく、のびのびと浸かれた。


 やっぱり外の空気を吸いながら風呂に浸かるっていうのは、室内とまた違った気持ち良さがあるよなー。


 仕切りに使った板材や砂利で埋めた地面、岩で構成された浴槽が風情を醸し出す。しかし、空はあいにくの曇りだ。


 これで星とか見れたら最高なんだが──そうだ。ここは異世界なんだったな。


「ちょっと魔術を使ってもいいか?」


「ん? 構わねぇが?」


「何をなさるおつもりですか?」


「まあ見ててくれ」


 俺は両手を受け皿のようにして体の前に出し、光属性魔術「ライトオーブ」を発動させた。俺の手のひらから現れた、大小さまざまな光の粒。それらを空に浮かべ、星空を形成した。


「これはまた、風情がありますな」


「だろー?」


 俺は伸びをして天を仰ぐ。いくつかの星座と天の川を構成した空は、まだ苦労を知らなかった子供の頃の気持ちを思い出させてくれた。


***


「あー気持ちよかったー!」


 自室に戻り、まだ熱が冷めきらない体を硬いベッドに投げ出す。しばらく天井を見つめ、自分が造り上げた風呂でさっぱりしたという、日本ではそうそう味わえない達成感を噛みしめた。


 まあ、慌ただしくてジェットバスに入れなかったのは心残りだけど、明日でも入れるしな。


 ベッドに寝転がり十分以上が経過した後、部屋の扉がノックされる。


「和也様。夕餉の準備が整いました」


「ああ。今行く」


 ダブルサイズのベッドから降りようと、力が抜けきった体を動かしマットレスの上を転がる──ゴロゴロと転がってみて初めて分かった。


 このマットレス、思ってた十倍硬い!


 転がるたびに背骨やら肩やら肘やらの骨がぶつかって、ゴリゴリと音を立てる。まるで床の上を転がっているようだった。


「明日は、ベッドのマットレスでも作ろー」


 そう決意して、俺は食堂に向かった。

この話を読んでいただきありがとうございます!


「面白かった!」

「続きが気になる!」


と思っていただけたら、


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