10.風呂造り④
浴槽に火魔石を設置し終えた翌日。俺はジェットバス作りに取り掛かった。一人用のジェットバスを五つ並べるつもりだ。たぶん試行錯誤が必要になるから、まずは一つを完成させる。
ジェットバスは通常の風呂よりもぬるい。だから火魔石を床に二つ設置し、水を張る。それから二十分ほど時間を空けてからお湯に手を入れる。
「よし。ちょうどいい温度」
次に、カイルが作ってくれた魔道具の設置だ。形はビー玉サイズの水色の肉まんで、魔力を付与すると魔力が切れるまで先からウォータージェットという魔術を出し続ける効果がある。威力を抑えめにして作ってもらったから、ジェットバスのジェットにピッタリだ。
俺はこの魔道具を、両肩と腰、足裏に当たるよう設置していく。手順は火魔石の時と同じで、壁や床に筒状の穴を開け、魔道具を設置し、水だけを通す結界で蓋をする。
魔道具に魔力を通すと、ゴオォォォという音を立てながら、水泡が水面を埋め尽くした。
最後に自分で入って魔道具の位置を微調整しようと服の裾に手を掛け、気付く。リーズや、排水溝などの工事に来ている業者の人たちがいることに。
「あ、リーズ。悪いんだけど、業者の人たちを連れて出て行ってくれないか? この風呂に入って使い心地を確認したいんだ」
「承知いたしました」
人払いを終え、俺は服を脱ぐ。そうしてジェットバスに入ると、ジェットの水圧が俺の肩や腰をほぐしてくれた。足裏のツボも押されて気持ちいい。
「よし! 一発成功! ……はぁ……それにしても気持ちいいなーこれ」
正直このままずっと入っていたい。けど、それだと業者の人たちの作業が進まない。そうなると、男湯が完成してのんびりと風呂に入れるようになるまでの時間が長くなる。
「よし。あと三十秒したら出よう」
俺は目を閉じ、秒数を数え始める。
……二十八、二十九、三十!
けれど、体は脱力しきっていていうことを聞かない。
ま、まああと十秒ぐらい……八、九、十!
「ヤバいこれ。出れない……よし。あと十秒で絶対出るぞ!」
……八、九、十!
俺は浴槽の端を手で押し、ザバァァァンと音を立てながら勢い良く立ち上がった。
「ふぅ……何とか出られた。……あ、タオル忘れてたな」
仕方がないので風属性魔術で体を乾かし、服を着る。それから、リーズや業者の人たちを呼ぶため脱衣所に向かう。
「リーズお待たせ。業者の皆さんも、作業を中断させてしまってすみません」
「あ、ああ……じゃ、じゃあおれたちは作業に戻ります」
業者の人たちはどこか怯えた目で俺を見てくる。彼らは俺が元勇者であることを知っている。勇者なんて、平和に暮らしている一般の魔族からしたら鬼や悪魔でしかないから、怯えられても仕方ない。
魔王のネルは、無駄な混乱を避けるため俺たち勇者パーティーが魔王城で暮らしていることは魔王城関係者や有力貴族以外には公表していない。が、彼らは魔王のネルが信頼している業者らしく、また人間である俺と何の説明もなく鉢合わせたらトラブルになるため、俺の事情を話したらしい。
「はい。よろしくお願いします」
「ああ……はい……」
業者の人たちはなぜか困惑した様子で作業に戻っていく。彼らを見送り、俺はジェットバスのところに戻る。
そうして残り四つのジェットバスにも同様の作業をし、残るはサウナ作りだけとなった。
俺はいったん外に行き、露天風呂の仕切りとして使った木材の余りが積んであるところに来た。
まずはサウナの壁、床、天井、椅子に使う板材と、支柱にする木柱を作る。そのために霊剣を取り出そうとして、昨日リーズを怖がらせてしまったことを思い出す。
「あー、リーズ。これから霊剣出すけど、木を切るためだから安心してくれ。まあ、怖かったら下がっててもいいけど」
「いえ、お気遣いには感謝いたしますが問題ありません」
「ん? そう?」
昨日霊剣を抜いたときに何もしなかったから信用されたのか?
俺は、無表情のまま佇むリーズに首を傾げつつも、霊剣を取り出す。
「来い。霊剣デウスマキナ」
手に剣の重みを感じると、俺は木材に向かって剣を振り下ろした。柱は木材を縦に四等分して完成。ついでに椅子の足にする角材も切り出す。床、天井、壁、椅子に必要な板材の枚数はあらかじめ確認しておいたので、あとはひたすら均一な太さの板材を量産した。
「よし。ここからは手作業だな」
次は柱と板材を組み立て、釘を打っていく作業だ。こればっかりは魔術ではどうにもならない。
俺は切り出した柱や板材を、サウナ予定地がある浴室に念動力のような魔術で一気に運ぶ。それからあらかじめ取り寄せていた釘とハンマーを受け取り、脱衣所の横──浴室の角と脱衣所の壁の間にピッタリはまるように、柱同士を接合しサウナの骨組みを作る。
翌日になり、出来上がった骨組みの内側と、唯一壁のない出入り口側の骨組み外側に板材を打ち付けていく。この段階で業者に頼み、サウナにも扉を付けてもらう。その傍らでサウナの中に二段の椅子を作り、中庭側の壁に湿気を逃がす通気口を開けた。
その時、コンコンコンとサウナの扉をノックする音が聞こえた。
「作業中失礼します。和也様。洗面台用の桶と椅子、脱衣所のロッカー、桶風呂の三点が届きました」
「ホントか!? なら早速運んでもらってくれ。俺も見に行く」
「承知いたしました。ですがこちらの業者には和也様のことを説明していません。ですので──」
「あー、俺の姿を見られたらまずいな。なら俺はサウナで作業してるよ」
「ありがとうございます」
そうしてリーズはサウナの扉を閉め、搬入の案内に向かった。
まあなんにせよ、ロッカーに桶も来て、だいぶ男湯も形になってきたんじゃないか?
遠くでリーズの指示に合わせてドタバタと足音が鳴るのを聞きながら、俺はサウナでもっとも重要なサウナストーブとサウナストーンの設置に取り掛か──ろうとして気付く。
「あれ? サウナストーンってどうやって手に入れればいいんだ?」
ストーブは金属の容器を土属性魔術で生成し、火魔石を突っ込めばできる。だがサウナストーンに使う石は、蓄熱、放熱、耐熱性を持ちつつ有害物質を含んでいないものである必要がある。つまり何が言いたいかというと、素人がサウナストーンに使える石を選べるはずがないということだ。
俺はとりあえずストーブ用の金属容器を生成し、作ったばかりの椅子に腰を落とす。
「まあ、ネルかリーズにでも頼んで石に詳しい人を紹介してもらうしかないか」
ともあれ、排水溝等の業者に頼んでいた作業も終わり、ついにサウナストーン以外の全ての男湯設備が完成したのだった。
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