強靭な意思⑦
『マジックルーム』は空間魔法の一つ。
術者しか見えない異空間に、物質を出し入れできる。
ミカエル兄様の魔法によって、俺たちは瞬時に正装に着替えさせられてしまう。
さすがに朝食の席ともなると、このままの格好ではダメらしい。
ーーただ、気がかりが一つ。
「何で、王族のミカエル兄様が、俺の隣に……?」
「今世の肩書きなんて、関係ないよ。私がザナフェルの隣に座りたかっただけだから」
「いや、その……」
どう答えたらいいのか分からず、俺は言葉尻をにごしてしまう。
「話し合いが平行線でも構わない。ザナフェルと、こうしてそばにいられることが何よりも重要で大事だから」
「ううっ……」
ミカエル兄様が言い足すと、俺は面喰ったように言葉に詰まった。
悪役天使として名高いミカエル兄様だけど、俺に対してはすごく優しいんだよな。
前世でも、俺に危害を加えようとしていた者たちから救ってくれたし、身を呈して守ってくれた。
もっとも、危害を加えようとした者たちの生死は不明だけど。
「あ……」
しばらくするとお茶が運ばれてきて、ふわりと紅茶の香りが漂う。
目の前に置かれた紅茶は、平民では中々、飲めない高級品だ。
一口飲むと、渋みが程良く、とても飲みやすかった。
「ザナフェルは、紅茶が気に入ったみたいだね。話し合いの続きは、朝食を食べてからにしようか」
「うぐっ……」
どうやら、嬉しい気持ちが顔に出ていたらしい。
昔から俺のこういうところ、一番に気づいてくれるんだよな。
だけどーー今は。
「のんびりしている場合じゃないと思っているみたいだね。でも、この状況で逃げられるわけないから」
いい笑顔のミカエル兄様の期待の眼差しには勝てなかった。
最近、どんどん逃げ場がなくなっている気がする。
「さあ、ザナフェル。すべてを諦めて、世界を盛大に蹂躙するための方法を一緒に考えよう」
「何で、そうなるんだよ!」
「なにしろ、今日はとっておきのお菓子を用意したからね」
「何だよ、その不意打ち!」
ミカエル兄様が掲げた宣言に、俺は慌てて、『待った』をかける。
このまま放っておくと、間違いなく、ミカエル兄様のペースで話が進みそうだ。
これ以上、頭痛の種を増やすわけにはいかない。
とにかく、この不利な状況を打開しないと。
ハラハラしながらも、俺が動向を探っていると。
「人間は不思議だね。短い生をこんなにも一生懸命で、意味を見出だすことができる。だからこそ、私たち、天使の奇跡を求めるんだろうね」
「ミカエル兄様……」
ミカエル兄様のその声に、妙な引力を感じた。




