強靭な意思⑧
「天使は如何なる行動も、世界に対して『可能性』を紡ぐ。蓄積された力は、やがて世界を変える可能性にすらなるのかもしれない。天使とは、そういう特別な存在だ」
ミカエル兄様の言葉が、こびりついたように離れない。
ミカエル兄様の背後にある、言葉にできない圧倒的な熱量に圧されたからだ。
「転生を繰り返したって、同じく奇跡や絶望を紡ぎだせることだろう。それはきっと。ずっとずっと昔から不変のことなんだ。この世界に初めて、私たちが誕生した時から、ずっとずっと――」
息が詰まる。
心の隙間に滑り込んだみたいに、どうしてもミカエル兄様の言葉の意味を意識してしまう。
「この場に、私たちがそろっている。それだけで、世界中の人間たちは十分、引く手数多だろうね」
改めて、俺たちが直面したのは厳しい現実だった。
あちこち引っ張りだこなのは避けたい。
この膠着状態を打破するために、俺ができることは……。
「ライル。まずは、やれることをやってみましょう」
思うところがあったのか、母さんが会話に加わってくる。
「天使の力は強大な力かもしれない。でも、ライルならきっと、みんなを幸せにすることができると思うの」
その力強い言葉に、俺ははっとした。
どんな力であろうと、それを使う者によって、毒にも薬にもなる。
母さんの言葉には、そんな意味合いが込められているように感じられたからだ。
「きっと今のひとときも、長い時間を生きてきたあなたたちには瞬きにも満たない時間かもしれない。それでも叶うなら、ずっと笑っていてほしい。誰よりも優しい、一番大切な息子に」
胸が早鐘を打つ。
その優しい言葉に強く強く、心をわしづかまれた。
「私は、ライルが幸せでいてくれることが一番なの。きっと、死んだお父さんも、ライルを誇りに思っていると思う」
「……そうだと嬉しいな」
幼い頃からずっと、俺は何度も母さんの力強さに救われてきた。
何があっても、母さんは俺の味方だった。
父さんは幼い頃に亡くなってしまったけど、母さんからの愛情を一身に受けて旅をする毎日が楽しくてたまらなかった。
自分の前世が、天使ザナフェル。
ミカエル兄様とともに、この世界を支配してきた超常の存在。
そして今までの前世では、ろくでもない人生を歩んできた俺だけど。
今世で、こんなにも大切だと思える家族に出会えたことは、きっと奇跡のようなものだろう。
「ライルは幸せになっていいの。あなたに出会えたのは、私にとって幸運。私たちはどんなことがあっても、あなたの味方だから」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥でただよっていたものがすとんと落ち着く。
(……そうだ。俺は母さんたちが……みんなが笑って暮らしている未来を守りたいんだ)
文字通りに憑き物が落ちたようだった。




