強靭な意思⑤
「うーん。今世では敢えて、縁のない人間同士に転生したけれど。やっぱり、失敗だったみたいだね」
ミカエル兄様はさも当たり前のように言う。
「まあ、いいか。どちらにしろ、お兄ちゃんがザナフェルのことをめちゃくちゃ愛しているのは変わらないから」
ミカエル兄様は瞳に意志を宿す。
誰よりも大切な存在だと――強い意志を。
決して譲れない想いを俺に示した。
「ミカエル様、お願いします。ライルの願いをかなえて――」
「それを決めるのは、私たちの決断。そして、ダナー商会の動向次第だよ」
母さんが表に出そうとした言葉を察したらしく、ミカエル兄様は重々しくつぶやいた。
「邪魔な存在……だね」
ミカエル兄様が冷たく、そう宣言した瞬間。
天から降り注いだ無数の光の刃が、母さんを突き立てようとしたけれど――。
「母さん!」
俺が同じ光の魔法で相殺したことで、事なきを得た。
「うーん。やっぱり、ザナフェルがお兄ちゃんのもとに来てくれなかったのって、今世の母親のせい?」
「違う! 俺の意思だ!」
俺が再度、否定すると、ミカエル兄様は肩をすくめる。
「でも、その意思も、今まで人間として生きてきた時の環境によるものだよね」
「………それは」
ミカエル兄様の言葉は、俺の瞳を揺らがせるのに十分すぎた。
どうすればいいんだろう?
どうすれば、この状況を打開できるんだろう?
俺がぐっと拳を震わせて、考えを巡らせていると。
ミカエル兄様は生温かい笑みを浮かべて――。
「かわゆす…………」
手で口を押さえ、腰砕けになった。
「相変わらず、その素直な反応、かわゆす…………」
ミカエル兄様は嬉しさ全開の顔でガッツポーズしている。
「ああ~。かわゆす! マジ、尊死する! 縁のない人間同士に転生したのは失敗だったけれど、ザナフェル、今世の姿もかわいい~! これは必ず、後世に残しておかないと!」
ミカエル兄様はさらに好奇心に負けて、俺観察ノートを一気に書き散らしていく。
すさまじい脱力感と……完全な不意打ちだった。
もしかして、『あのノート』、ネーア王国の国宝にされてしまうんじゃ!?
出した答えを確かめるように、俺はミカエル兄様を見つめた。
「さあ、どうする? お兄ちゃんとこのまま、仲良く世界を蹂躙するか、それとも、世界を盛大に蹂躙するための方法を二人で考えるか。ザナフェル、この意味、分かるよね?」
「どちらも同じ選択肢だよな」
嫌な予感とともに、言葉を吐き出すと。
「王宮に来た以上、ここから逃げられるわけないからね」
不意打ちのように笑った顔がきれいで、俺は思わず、たじろぐ。
絶望的な状況下。
それでも、アナスタシア様たちを陥れようとした者を捜さなくてはいけない。




