強靭な意思④
ミカエル兄様は、一つも嘘は吐いていない。
すべて、明白な事実なのだろう。
「この場から逃げようとしても無駄だよ、ザナフェル。二人で一緒に、世界を蹂躙することは、既に確定事項になっているからね」
ミカエル兄様の容赦ない即断に、俺はぎくりと身を固くする。
「さあ、次はどう出るのかな?」
不意打ちのように笑った顔がきれいで、俺は思わず、たじろぐ。
それでも、俺は意を決して尋ねた。
「これだけの騒ぎになっても、この場にいるのは俺たちだけだ。それってやっぱり、ネーア王国の王家の人たちは、別の場所でこの場所を監視しているんだよな?」
「うん、そうだね。ザナフェルをここに連れてくることは話しているからね」
ミカエル兄様は、動揺する俺の様子から、望む答えを引き出せたらしい。
「本当なら、二人っきりで話したかったんだけど」
ミカエル兄様は不服そうに、母さんを一瞥する。
「今世の母親と一緒じゃないと、ザナフェルは私のもとに来てくれなかったからね」
ミカエル兄様の言葉に、不穏な空気を感じ取ったのだろう。
母さんは意を決して口を開いた。
「ミカエル様、お願いします。ルリア様たちを救ってください!」
母さんの真剣な雰囲気に、ミカエル兄様の雰囲気も剣呑としたものとなる。
「それを決めるのは、私たちの決断。そして、ダナー商会の動向次第だよ」
母さんは険しい表情のまま、何も答えなかった。
そのことで、母さんとミカエル兄様の間の空気がますます険悪なものに変わっていく。
「俺は、ルリア様たちを救いたい!」
俺は間を空けることなく、きっぱりと告げる。
すると少し間を置いて、ミカエル兄様は残念そうに微笑んだ。
「うーん、困ったね。前世ではいつも、私の意思を優先してくれたのに」
「それは……」
ミカエル兄様は一瞬、真顔になる。
「だけど、ごめんね、ザナフェル。お兄ちゃんとしてはそれを認めるつもりはないよ。この意味、分かるよね?」
「……っ」
俺の意思がどうであれ、ミカエル兄様の考えは変わらない。
無理にでもここに留まらせると、その眼差しが伝えていた。
改めて、ミカエル兄様にとって、俺は特別な存在なのだと自覚するには十分すぎた。
目を閉じれば、まぶたの裏に苦い過去が浮かぶ。
天使覚醒の日。
思い返せば、それがすべての始まりだった。
茜色の羽の天使、ミカエル。
空色の羽の天使、ザナフェル。
度々、人間として転生し、『天使覚醒』の日に天使の力と記憶を取り戻した上で、世界を蹂躙する脅威の存在。
そして、数多の奇跡を起こし、絶望を与える存在。
それが、この世界の常識だった。
だけど、今世では……それが変わってきている。
それを改めて、悟ったのだろう。




