強靭な意思①
物心ついた頃には、俺は母さんとともにネーア王国の街々を転々としていた。
吟遊詩人だった母さんは、自身の歌声を生かして生計を立てていた。
父さんは幼い頃に亡くなってしまったけど、母さんからの愛情を一身に受けて旅をする毎日が楽しくてたまらなかった。
そんな俺の安定した日常が崩れたのは、13歳の誕生日のことだったからだ。
「あれから、いろいろなことがあったな」
それは距離的な意味でもあったし、時間的な意味でもあった。
ついこの前までルリア様のハープの先生をやっていたような気がするのに、あれからずいぶん、騒がしくなった気がする。
それでも、俺が望むことは変わらない。
「提案を受け入れるか、それともすべてを諦めるか。ミカエル兄様はそう言ったよな」
俺は、その事実に耐えられずに言った。
「だけど、ごめん。俺は、みんなを救うことを諦めるつもりはない!」
「それで、お兄ちゃんが納得すると思う?」
俺が確かな想いを伝えると、予想どおりの答えが返ってきた。
「……思わない。それでも、俺はみんなを護り抜きたい!」
俺は確かな決意を口にする。
すると少し間を置いて、ミカエル兄様は楽しそうに微笑んだ。
「ザナフェル。お兄ちゃんとしては、それをさせるつもりはないよ。この意味、分かるよね?」
「……っ」
俺の意思がどうであれ、ミカエル兄様の考えは変わらない。
無理にでもここに留まらせると、その眼差しが伝えていた。
改めて、ミカエル兄様にとって、俺は特別な存在なのだと自覚するには十分すぎた。
「この場から逃げ出そうとしても無駄だよ、ザナフェル。二人で一緒に、世界を蹂躙することは、既に確定事項になっているからね」
ミカエル兄様の容赦ない即断に、俺はぎくりと身を固くする。
「さあ、どうする? お兄ちゃんと仲良く世界を蹂躙するか、それとも、世界を蹂躙するための方法を二人で考えるか。ザナフェル、この意味、分かるよね?」
「どちらも同じ選択肢だよな」
嫌な予感とともに、言葉を吐き出すと。
「王宮に来た以上、ここから逃げられるわけないからね」
不意打ちのように笑った顔がきれいで、俺は思わず、たじろぐ。
絶望的な状況下。
それでも、アナスタシア様たちを陥れようとした者を捜さなくてはいけない。
そして、苦戦しているローゼンさんたちを救わなくてはいけない。
俺の表情が強張っていることに気づいたんだろう。
ミカエル兄様は感無量といった眼差しで、俺を手招きした。
「ザナフェル、さあ、早速、世界を蹂躙していこう。この意味、分かるよね?」
ミカエル兄様は今か今かと待ち構えている。
その変わり身の早さは冷静さの証明であり、決して侮れない。




