どちらを優先するべきか⑦
「……何とかしないと」
俺は周囲の状況を確認する。
ネーア王国の王宮なら、グランジ家に戻る方が早い。
何とかして、ルリア様たちのもとに行かないと!
ルリア様は、『天使ザナフェルの加護』を持っている。
ありとあらゆる厄災から守ってくれる加護――。
だが、アナスタシア様たちの近くに、ダナー商会の者がいたら、今後も命を狙われる可能性がある……。
ミカエル兄様の話を踏まえると、ネーア王国の建国祭に来ていた商人たちが怪しいのかもしれない。
それに――。
「……俺が今まで出会ったことがある人たちの中に、ダナー商会の者がいるのかもしれないな」
予想はしていたけれど、改めて口にすると、その事実が重くのしかかる。
「……最悪だ」
あまりに複雑すぎる想いに苛まれて、俺は表情を曇らせる。
このままでは、アンデッドドラゴンとダナー商会の動きを止められない。
どうすれば……?
これからすることを考えあぐねていると、母さんがぽつりと言った。
「ライル、大丈夫よ。今までの行動は無駄じゃない。ライルが加護を与えてくれたおかげで、ルリア様たちとローゼンさんたちの身の安全は守られているはずよ」
「……加護を付与したことで、みんなを護れている」
俺が噛みしめていると、母さんは優しく俺の手を握った。
「ライル、一人で抱え込まないで。私たちがいつでもそばにいる」
言い淀むこともなく、ただ真っ直ぐに見つめる瞳が、母さんの意思が変わらないことを伝えている。
「あなたのいる場所が、私たちのいる場所だから」
母さんはそう言って、俺を優しく抱きしめてくれた。
やっぱり、母さんの言葉は特別だ。
いつも、くじけそうになった時に力をくれる。
「母さん、ありがとう」
顔を上げた俺は改めて、現状を鑑みた。
絶望的な状況。
それでも俺たちは足掻く。
立ち止まって、後ろを向いて、『これまで』を積み重ねて。
でも、それは全部、『これから』のためだから。
停滞することとは、絶対に違うから――。
「ザナフェル。この場から逃げ出そうとしても無駄だよ」
ミカエル兄様は俺の考えを察したように言った。
「お兄ちゃんは、逃がすつもりは毛頭ないからね」
まるで日頃、飲み込んだため息を聞かれているみたいだ。
それでも、俺の心は別の方向に向いていた。
「ミカエル兄様。ネーア王国の王宮に連れてきたのは、世界を蹂躙するためだよな?」
俺は改めて、ミカエル兄様に問いかける。
「もしかして、ここにもダナー商会の者がいるのか?」
「はい、正解! そこに行き着くなんて、さすがだね、ザナフェル!」
ミカエル兄様はにこやかな笑みを浮かべて、そう言った。




