どちらを優先するべきか⑥
「うん、そうだよね。ザナフェルには、お兄ちゃんがいるんだし」
ミカエル兄様は満足そうな顔をしていた。
ミカエル兄様にしてみれば、そうなのかもしれない。
それを聞いたミカエル兄様の雰囲気が、少しだけ和らいだように感じた。
でも……。
「ミカエル兄様、ごめん。俺は、これからも母さんたちと一緒に過ごしたい。だから、ミカエル兄様のもとには行けない」
「それで、お兄ちゃんが納得すると思う?」
俺が確かな想いを伝えると、予想どおりの答えが返ってきた。
「……思わない。それでも、俺はこれからも母さんたちのそばにいたい!」
俺は確かな決意を口にする。
すると少し間を置いて、ミカエル兄様は楽しそうに微笑んだ。
「ザナフェル。お兄ちゃんとしては諦めるつもりはないよ。この意味、分かるよね?」
「……っ」
俺の意思がどうであれ、ミカエル兄様の考えは変わらない。
無理にでも連れていくと、その眼差しが伝えていた。
改めて、ミカエル兄様にとって、俺は特別な存在なのだと自覚するには十分すぎた。
「さあ、どうする? 私の提案を受け入れるか、それともすべてを諦めるか」
「……っ」
改めて突きつけられた絶望的な選択に、俺は絶句する。
不穏な空気が漂ったものの、ミカエル兄様の口から突いて出たのは意外な言葉だった。
「そういえば、ザナフェルは今世の母親たちと一緒に過ごしたいから、私のもとには行けないって言っていたよね?」
「……えっ?」
ミカエル兄様の言葉に疑問を覚えた俺はつい、声を上げてしまった。
「だったら、今世の母親と一緒なら、私のもとに来てくれるというわけだ」
「いや、それは――」
俺が否定する前に、ミカエル兄様は満足げに転移魔法を駆使した。
俺たちは一瞬で、ネーア王国の王宮に移動させられる。
「はい! ザナフェル、確保! お兄ちゃんから逃げられると思っていたら、大間違いだよ!」
「うわあっ!? ここって、ネーア王国の王宮……!」
それはただ事実を述べただけ。
だからこそ、余計に俺は自身の置かれた状況に打ちのめされる。
「なに、これ……?」
周囲の変化についていけず、母さんが驚きを口にする。
突然、ネーア王国の王宮に移動したのだから無理もない。
「相変わらず、ミカエル兄様は呼び寄せ方が強引すぎる……」
俺ががっくりと肩を落とすと、ミカエル兄様は勝ち誇ったように胸を張った。
「このままじゃ、みんなが大変なことに……」
俺は悔やむようにつぶやく。
アナスタシア様たちを陥れようとした者を捜さなくてはいけない。
そして、苦戦しているローゼンさんたちを救わなくてはいけない。
それなのに、俺たちは、ミカエル兄様の圧倒的な力の前に翻弄されているだけだ。




