どちらを優先するべきか⑤
ダナー商会は、俺たち天使には絶対服従していて、ミカエル兄様の命令には忠実に従っていた。
彼らは今も、ミカエル兄様と協力関係だった。
その事実は予想していたとはいえ、重くのしかかる。
「だったら、何で、俺にダナー商会の情報を教えてくれるんだ?」
「ザナフェルだからだよ」
とても含みのある即答だったから、俺は怪訝そうな顔をした。
視線を向けると、ミカエル兄様はすべてを把握したような顔をしている。
つまり、その問いの答えも持っているということなのだろう。
訝しんでいると、ミカエル兄様はさらに踏み込んだ話をした。
「ザナフェルが、ダナー商会のことを探っているのは知っていたからね。彼らの話をすれば、私の願いを聞いてくれると思ったんだよ」
「……っ」
不穏な空気に、息が詰まる。
混乱で思考がぶれる。
俺の表情が強張っていることに気づいたんだろう。
ミカエル兄様は感無量といった眼差しで、俺を手招きした。
「ザナフェル、さあ、一緒に行こう。この意味、分かるよね?」
ミカエル兄様は今か今かと待ち構えている。
その変わり身の早さは冷静さの証明であり、決して侮れない。
本当なら、転移魔法で、この場を離脱したいんだけど……。
さすがに、ミカエル兄様の目の前で行うのは危険すぎる。
即座に察知されて、包囲されるのが関の山だ。
せめて、ミカエル兄様の意識が逸れている時でないと。
ぐるぐると考え込んでいたら。
「ああ~。お兄ちゃんは今世も、ザナフェルのことをめちゃくちゃ愛しています。だから、そろそろ、ザナフェルと一緒に、世界を蹂躙したいんだよね~」
そう告げて、ミカエル兄様が進み出ようとした。
その時だった。
周りの空気がひやりと温度が下がったのは。
「待ってください!」
「……母さん!」
俺の前に出たのは、真剣な眼差しを向けた母さんだった。
母さんは乞うように丁重に頭を下げる。
「ミカエル様、お願いします。この子は、私の息子のライルです。この子を、私から奪わないでください!」
母さんの剣幕に、ミカエル兄様の雰囲気も剣呑としたものとなる。
「……奪うも何も、弟を迎えに来ただけなんだけどね。ザナフェルが、私の誘いを拒むのはやっぱり、今世の母親のせい?」
「…………」
母さんは険しい表情のまま、何も答えなかった。
そのことで、母さんとミカエル兄様の間の空気がますます険悪なものに変わっていく。
「違う! 母さんのせいじゃない!」
俺が慌ててそう否定すると、ミカエル兄様はふわりと柔らかく笑った。
分かっていた、とでも言いたげな反応だ。




