大切な人たちを守るために④
「なら、その限られた時間で調べるだけだ」
危険は承知で、ここまで来たんだ。
何の成果のないまま、リンクス領に戻るわけにはいかない。
でも、ミカエル兄様はそこまでを分かっているみたいに諭す。
「その限られた時間が少なくても?」
「ああ」
俺の即答に、ミカエル兄様は柔らかな眼差しを向けてくる。
「じゃあ、最後の調査は、ダンスをしながらしてもらおうか?」
ミカエル兄様の言葉に、シリアスな気持ちが吹っ飛んだ。
「では、ザナフェル。よろしければ、一曲、お相手、願えないでしょうか?」
「ーーえっ」
丁重なダンスのお誘いに、俺はおっかなびっくりする。
結局、教会の一隅で、街から流れてくる音楽に合わせて、ダンスをすることになった。
社交ダンスほど、優雅ではない。
軽快な音楽に合わせて、くるくると回ってみたり、慣れないダンスに思わず、転びそうになってしまう。
それはダンスというよりじゃれ合いのようだった。
だが、ミカエル兄様はとても微笑ましく楽しげだった。
「これから告げることは独り言だよ。聞き流しても構わないからね」
ミカエル兄様はそう前置きして、教会を見上げた。
「ネーア王国の建国祭は、昼と夜の部がある。貴族の社交シーズンが、この時期に設定されているのも祭りを見物しやすいから、という事情があるんだろうね。まさに、商人たちは稼ぎ時だ」
「稼ぎ時……」
俺は、その言葉に胸騒ぎを覚える。
「祭りの騒ぎに乗じて……などということにならないといいけれどね」
「それって……」
その言葉の端々に、戦慄を覚えることすら忘れて。
俺は目の前のミカエル兄様に、ただただ、意識を奪われた。
ミカエル兄様は、一つも嘘は吐いていない。
すべて、明白な事実なのだろう。
今もダナー商会は影で動いている。
陰から操り、世界の転覆を企んでいる。
それでも――。
「天使は如何なる行動も、世界に対して『可能性』を紡ぐ。蓄積された力は、やがて世界を変える可能性にすらなるのかもしれない。天使とは、そういう特別な存在だ」
ミカエル兄様の言葉が、こびりついたように離れない。
「転生を繰り返したって、同じく奇跡や絶望を紡ぎだせることだろう。それはきっと。ずっとずっと昔から不変のことなんだ。この世界に初めて、私たちが誕生した時から、ずっとずっと――」
息が詰まる。
心の隙間に滑り込んだみたいに、どうしてもミカエル兄様の言葉の意味を意識してしまう。
「お兄ちゃんは、いつまでも待てないよ。ザナフェルのことが愛しいから。いずれ、また、世界を蹂躙するために会いに行くからね」
「……っ」
ミカエル兄様がそう言い終わった途端、俺の意識が遠のき――リリアーナ王女の身体が不意に傾いた。
「ああ~。ザナフェルは今後、どう出るんだろうね! 楽しみだ!」
硬直していたのは一瞬。
ミカエル兄様は弾かれたように、俺をふわりと抱き上げる。
「……楽しみだなあ。ザナフェル、待っていてね。必ず、会いに行くからね~」
その言葉を最後に、俺の意識はぷつりと途切れた。




