大切な人たちを守るために③
「ああ~。お兄ちゃんは今、ザナフェルとデートできて幸せいっぱいです。だから、そろそろ、二人で一緒に、世界を蹂躙したいんだよね~」
「いや、ミカエル兄様、ごめん! 俺は普通に生きたいから、もう――」
妙な居心地の悪さを感じつつ、俺は何とか断りを入れようとする。
だが今、ネーア王国を実質的に支配しているのはミカエル兄様だ。
「リリアーナ様、申し訳ございません。ヴェルディ殿下のご意向になります」
背後には、護衛の人たちが待ち構えていたのだ。
ネーア王国には、諜報などを担う部隊が存在する。
今回、俺たちの護衛を努めているのは、そんな人たちだ。
この流れで、俺が逃げられるわけがない。
何しろ、今の俺は貴族の令嬢に扮しているリリアーナ王女なのだから。
ミカエル兄様はそう踏んでいるのだろう。
「いや、無理です……!」
それでも、俺は転移魔法を使って、必死にその場から逃げ出そうとした。
だが、俺の魂胆もむなしく、あっという間にミカエル兄様に追いつかれてしまう。
「はい! ザナフェル、確保! お兄ちゃんから逃げられると思っていたら、大間違いだよ!」
「うぐっ……」
俺ががっくりと肩を落とすと、ミカエル兄様は勝ち誇ったように胸を張った。
ここから逃げ出すのは無理。
完敗した今となっては、むなしい意地だった気がする。
それでも、俺の心は別の方向に向いていた。
先程のミカエル兄様の言葉の意味に気づいたからだ。
「ミカエル兄様。ネーア王国の建国祭は違う。それって、夜の部があるからだよな」
俺は改めて、ミカエル兄様に問いかける。
「もしかして、夜の部だけ、ダナー商会が関わっているのか?」
「はい、正解! そこに行き着くなんて、さすがだね、ザナフェル!」
ミカエル兄様はにこやかな笑みを浮かべて、そう言った。
すごく嬉しそうに見えるけれど……何だか、裏があるような笑顔だ。
俺がそのことに気づくこと前提で、話したような気がする。
うーん。
ミカエル兄様はやっぱり、俺の動向を楽しんでいる感じがした。
俺が抵抗したところで、ミカエル兄様の手のひらの上である。
「ヴェルディ殿下、そろそろお時間でございます」
「もう、そんな時間か」
護衛の人の報告に、ミカエル兄様はうなずいた。
「時間って?」
「憑依の魔法が解ける時間だよ。さて、どうする、ザナフェル?」
その問いかけに、俺は目を丸くする。
視線を向けると、ミカエル兄様は思惑どおりに進んでいることに満足げだ。
これって、俺がどう出るのか、楽しんでいるんだろうな。
そう思いつつ、引く気のないミカエル兄様に、俺は観念して口を開く。




