気がついたら別の場所へ④
「激レアものの癒し。……かわいさが百億倍増し。この目で、しっかりと焼きつける必要がある」
ミカエル兄様がめちゃくちゃ褒め称えている俺の姿は、まるで貴族の令嬢のようで少し気恥ずかしい。
「これでは、誰もが見惚れてしまう。気を引き締めなくてば……!」
警戒するように隣を歩いているミカエル兄様は一見、貴族の令息のようだった。
服装は、とても身なりが良く見える。
誰が見ても、庶民とは思わないだろう。
「それにしても、リンクス領にいるはずの俺が、こうして街を出歩くことになるなんて……」
俺はため息をつくと改めて、リンクス領でミカエル兄様と遭遇した時の出来事を思い出す。
「はあ……。リンクス領の時は、ミカエル兄様の隙を突くことができたんだけどな……」
ため息をついても、結果は変わらない。
だが、ミカエル兄様とリリアーナ王女は王族だ。
しかも夜遅くにお忍びで、街を出歩きたいという。
その条件を踏まえた結果、導き出されたのがこの状況だった。
「結局、お忍びは無理だったけれど、護衛付きで、デートが決行されることになってしまったんだよな」
王子と王女の街巡り、警護はかなり厳重だろう。
本来なら、こうして出歩くのは危険すぎるが、俺たちには関係ない。
なにしろ、天使である俺たちに勝てるような存在はいないのだから。
狂暴なドラゴンでさえ、一捻りだ。
「それにしても、ミカエル兄様はどうして、お祭りに行こうと告げたんだろう?」
二人で一緒に、世界を蹂躙するための手筈を整えるために。
そう言っていたけれど。
それが『お祭りに行くこと』じゃ、世界を蹂躙することには結びつかない。
お祭りに、ダナー商会が関わっているから?
突然、呼び出されたことといい、いろいろと疑問だらけだ。
ネーア王国は、大陸で三番目の国土を有し、天使ザナフェル……つまり、俺を敬う神聖国家。
そのお祭りっていうと、もしかして――?
怪訝そうに見つめていると。
「やっと、ザナフェルは、私をちゃんと見てくれたな。どうしても、もう一度、ザナフェルと会って話したかった」
「えっ……?」
思わぬミカエル兄様の言葉に、俺は呆気にとられる。
「会って、もう一度、訴えたかった。二人で一緒に、世界を蹂躙することの素晴らしさを!」
「うぐっ……」
すさまじい脱力感と……完全な不意打ちだった。
まさに、ミカエル兄様らしい理由だ。
だけど、本当にそれだけなのかな?
そう疑問に思いつつも、久しぶりに街を歩くのは新鮮で、少しだけ胸が高鳴るのを感じた。
興味津々で、街を見て回っていると。




