気がついたら別の場所へ⑤
「やーやー、そこのかわいいお嬢さん」
ふと近くで、男の人の声がした。
うーん。
お祭りがあるからかな?
どうやら、誰かを誘っているみたいだ。
俺は辺りをきょろきょろするものの、それらしき人物はいない。
あれ……?
「君だよ、君!」
「えっ、俺?」
「そ!」
かけられた言葉に、俺はぎょっとする。
見上げた先にいたのは、20歳くらいの冒険者らしき男性だ。
「ちょっとお話しない?」
「えっと……何の冗談ですか?」
思わぬ誘いに、俺は目を大きく見開いた。
リリアーナ王女の年齢は、俺より少し下、10歳くらいだ。
明らかに年齢差があると思う。
それなのに、何で誘われているのだろうか?
そんな疑問符が浮かんだせいで、思わず首をかしげてしまう。
「かわいいお嬢さんを見つけたから、遊びに誘いたくなった感じ」
「うっ……」
リリアーナ王女は間違いなく、将来は絶世の美女になるだろう。
そう確信が持てるほどの、天使のごとき、可憐な容姿を誇っている……けれど。
もしかして、目の前の俺が、リリアーナ王女だということに気づいていないのかな?
「お嬢さん、名前は? 俺はレオって言うんだ」
「あの……通してください」
俺がそう言っても、レオさんは引くつもりはなさそうだ。
俺の行く手を阻むように立っている。
完全に困った。
「冒険者で、ここ数年は、ここを拠点としてやっている」
「はあ……」
ここを拠点。
もしかして、ローゼンさんたちとは知り合いなのかな?
「ほう……。私の目の前で、ザナフェルを口説こうとはいい度胸だな」
俺が困惑していると、ミカエル兄様がぐいっと前に進み出た。
「しかし、ついに、ザナフェルに惹かれてしまう者が現れてしまったか……。だが、仕方ない。街を見て回る時のザナフェルの表情。まさに恋する乙女だ。とっても愛らしい~」
俺を見つめるミカエル兄様の顔に、キラキラと後光が差している。
何だ?
この状況?
そもそも、今のリリアーナ王女は俺、ライル・フェインなんだけど。
混乱している俺をよそに、ミカエル兄様はさも当たり前のように言う。
「ああ~、ザナフェル、かわゆす……!」
「うぐっ……」
不意打ちのように言い放った言葉に、俺は思わず、たじろぐ。
昨日までリンクス領で、母さんと一緒に、演奏でみんなのサポートをしていたはずなのに。
何で、こんなことに!?
いろんな気持ちがせめぎ合って、心が爆発しそうだった。
「ザナフェルが好きなことをして、キラキラしている姿が一番好きだ」
ミカエル兄様はここぞとばかりと告げる。
「あ、それ分かる。俺もそうだし!」
「……ほう。会ったばかりの貴様に、ザナフェルの何が分かるというのだ?」
レオさんがうなずいたその瞬間、二人の間にバチッと火花が散った。




