気がついたら別の場所へ③
「ザナフェルは今、リンクス領の領都にいるから知らないよね。今日は『お祭り』が開催されているんだ」
「お祭りが?」
俺は、ミカエル兄様の言いたいことが分からなくて首をかしげる。
「そのお祭りには、ダナー商会が関わっている。いわば、視察がてらのデートだ。二人で存分に楽しもう!」
「ダナー商会が……?」
俺だけに聞こえる声で応えると、ミカエル兄様は含みのある視線を送った。
ダナー商会が関わっているお祭り。
調べたら、何か分かるかもしれないけれど。
この誘いを受けたら、二人で一緒に、世界を蹂躙する流れになりそうだ!
「いや、ミカエル兄様、ごめん! 俺は普通に生きたいから、もう――」
妙な居心地の悪さを感じつつ、俺は何とか断りを入れようとする。
だが今、ネーア王国を実質的に支配しているのはミカエル兄様だ。
「さあ、リリアーナ様。お祭りに行く前に、お着替えの時間です」
「身支度は、私どもにお任せを」
「ひえ……!」
部屋には、ミカエル兄様を筆頭に、メイドさんたちが待ち構えていたのだ。
この流れで、俺が断れるわけがない。
何しろ、今の俺は動きにくいドレスを着ているリリアーナ王女なのだから。
「逃げようとしても無駄だよ、ザナフェル。二人で一緒に、世界を蹂躙することは、既に確定事項になっているからね」
ミカエル兄様の容赦ない即断に、俺はぎくりと身を固くする。
「あ、いや、だから、その……お着替えは結構です……!」
「そうくると思ったよ。今回は逃がさないからね!」
それでも、俺は転移魔法を使って、必死にその場から逃げ出そうとした。
だが、俺の魂胆もむなしく、あっという間にミカエル兄様に追いつかれてしまう。
数時間の攻防の結果。
結局、俺はミカエル兄様とともに、街に繰り出すことになってしまったのだ。
「お美しいですわ!」
「あ、ありがとうございます……」
「もったいないお言葉でございます」
あっという間に着替えさせられ、貴族の令嬢に扮した俺の姿は、メイドさんたちの歓喜を呼んだ。
そしてそのまま、ミカエル兄様に連れられて、街に行くことになってしまったのだ。
「……最悪だ」
これまでの前世の出来事ですっかり鍛えられてしまったミカエル兄様の精神は、俺が拒んだくらいでは動じなくなってしまったらしい。
「おおっ、すばらしい! ザナフェル、かわゆす……!」
明るい金色の髪をした青年が、にこにこと綺麗な笑みを浮かべている。
今も冷静に、目の前の俺を観察していた。
「ううっ……」
街を出歩くのに、美しく着飾った姿のままでは目立ってしまう。
ミカエル兄様に促されるまま、俺は変装して街に繰り出していた。




