演奏の力は効果抜群⑥
超越した能力は本来、脅威になりうるだろう。
でも、この地に集まった冒険者さんたちは憧憬の視線を投げかけてくれた。
俺たちのことを信頼し、期待してくれているのだろう。
だけど、それが天使だとしたら、話が変わってくる。
「目立たないように振る舞う。やっぱり、俺、こういうの、苦手だな」
今までの前世では、ミカエル兄様に付き添っていたからか、特に気にも留めていなかった。
そもそも、天使の力は忌み嫌われていたし、俺が強大な力を使っても、周りの人たちは恐れおののくだけだった。
目立たないように振る舞う必要性がなかった。
それに何かをする時の決定権は、いつもミカエル兄様にあった。
『ザナフェル、さあ行こう。この意味、分かるよね?』
忘れもしない、あの強烈な兄の姿を。
目に焼き付いた銀色の髪を。
陽の光に照らされたミカエル兄様の笑顔を。
今も呪いのように、俺の心を掴んで離さないのだから。
「改めて思い返してみても、俺の今までの前世、ろくでもなかった」
堪えきれなくなって、俺は言葉を吐き出した。
「俺の前世のことを知ったら、みんな、怖がるだろうな。俺のことを慕ってくれている、ルリア様もきっと……」
俺はうつむき加減になる。
ルリア様は、俺が加護を与えたから、懐いてくれている。
もし、真相を知ったら、動揺するかもしれない。
「そんなことないわよ!」
「えっ?」
母さんの導くような言葉に、俺ははっと顔を上げた。
「ルリア様は真相を知っても、ライルから離れたりしない」
母さんは当たり前のことを言うみたいに続ける。
「大丈夫。あなたは、どんな時も一人じゃないから」
「……母さん」
不意に喉の奥が締めつけられて、思わず顔を歪める。
母さんの言葉に泣いてしまったのは、ほとんど反射のようなものだった。
『ライルせんせい、アイリスさま。おでかけしてもかならず、もどってきてください』
俺はあの日、約束したルリア様の姿に思いを馳せる。
ルリア様は今も、俺たちの帰りを待っててくれているんだ。
改めて、そう実感する。
「いい? 母さんは、あなたの幸せが一番なの。これから先、大変なことがあるかもしれないけれど、決して無理しちゃだめよ」
「でも……」
「無理しないといけない時は、一緒に無理しましょう」
思わぬ言葉に、俺は呆気にとられる。
「息子の悲しむ顔を見たくないから。私にとって、あなたの力になろうと思う理由はそれで十分」
母さんは優しい笑みを浮かべると、そっと手を差し出してきた。
俺も手を伸ばせば、二人の手のひらがぴたりと重なる。
指先から伝わる温度。
確かめ合うように、軽く指を絡めた。




