大切な存在⑥
瘴気は、俺たち天使が生み出してしまったもの。
今世の幸せは、前世の罪の上に成り立っている。
それを実感するようなことが、その本には書かれていた。
闇魔法は、俺たち天使が生み出した瘴気をもとにした魔法。
つまり、闇魔法の源は瘴気だということだ。
俺たち天使が瘴気を生み出したことで、今も多くの命が失われていた。
前世では気づきもしなかったこと。
いや、考えもしなかったことだ。
前世では、この世界を遊戯と見立てていたんだから。
ふと、悩みの種を思い出す。
今回の一件で、今世の自分にできることは何だろう。
その答えはもう見えていた。
アナスタシア様たちを陥れようとした者を捜さなくてはいけない。
先程の本を読んで、真っ先に思った。
「もう、ルリア様とアナスタシア様が苦しまなくてもいいように……。一時的なしのぎじゃなくて、根本的な解決策を見つけないと」
俺は決意を新たにする。
だけど、今も、ダナー商会は影で動いている。
決して、気を抜くことはできなかった。
「ライル、気になる本があったの?」
「えっ……?」
不意に声をかけられて振り向くと、すぐ近くに母さんがいた。
「……うん。その、『濃くなる瘴気と闇魔法の関連性』っていう本を見つけたんだ」
俺は無難に、でも、正直に言葉を紡ぐ。
「その本には……闇魔法は瘴気をもとにした魔法だと書かれていた。つまり、ルリア様たちが苦しんでいた原因は、元を正せば、俺たち天使が瘴気を生み出したことだったんだよな……」
「……ライル」
悔やむようにうつむくと、母さんが真剣な眼差しで告げた。
「ルリア様たちが苦しんでいたのは、あなたのせいじゃない。闇魔法を悪用した人たちよ。誰が何を言っても、あなたは悪くない」
力強く宣言する母さんを、俺は胸が熱くなるのを感じながら見つめてしまう。
「……母さん、ありがとう」
俺はでも、と怖気つきそうになる心を叱咤する。
自分のせいだ、とためらっているうちに、世界は進んでしまう。
俺の知らないうちに、別の道に迷い込んでしまうかもしれない。
だったら、目の前にある未来に一か八か、飛び込んでみるしかない。
「そうだな。くよくよしても仕方ないよな」
リンクス領に行く前日に見た、ルリア様は希望に満ち溢れていた。
昨日よりも今日、そして今日よりも明日はもっと良い日になると未来を信じている、そんな顔だ。
だったら、俺たちもその未来を信じるだけだ。
終わりを迎える今日のその先に、新しい道が続いていると、俺たちも信じているから。
「俺たちは、俺たちのできることをしよう」
俺は出した答えを確かめるように、母さんを見つめる。
「ええ。未来を怖がるより、今の幸せを掴む勇気が大事」
その言葉は、信頼の証。
大事なのはそれだと、そのまま、母さんは静かに俺の瞳を見つめ続けた。




