大切な存在②
「母さん、ありがとう」
顔を上げた俺は改めて、現状を鑑みた。
魔物の増加は、国を揺るがす大事だ。
神聖魔法の一つ、浄化魔法。
瘴気を祓うことができる魔法だ。
少なくとも、魔物がこれ以上、増加することは食い止められる。
なら、今やるべきことは一つだ。
幸い、今は俺たち以外、時が止まっている。
森の周囲にある瘴気を祓っても、問題ないはずだ。
意思を固めた俺は、前に進み出る。
そして――。
「穢れを退け。浄化せよ――ピュリファイ」
俺の声が厳かに響き渡る。
浄化魔法は大規模な魔法だけど、天使として覚醒したからか、容易くできた。
「森よ、清く美しくなれ」
溢れたのは天使の力。
その魔力はあっという間に、離れた森まで到達する。
俺の魔力に触れたことで、瘴気は光の奔流に呑み込まれて掻き消えていく。
「ザナフェル。まさか、この周囲一帯の瘴気をすべて浄化するつもり……?」
呆気に取られた表情のミカエル兄様が、こちらを振り返る。
呆然としている間にも、俺から溢れる魔力は止まらない。
その勢いを落とさずに、さらに周囲に広がっていく。
リンクス領すべてを覆ったところで、やがて光がぱあっと弾けた。
「よし、これで……」
やりきったという達成感が、俺の視線を天へと誘った。
白い雲の合間に陽の光が降り注いでいる。
空は先程より澄んでいて、透明な色彩が果てしなく広がっていた。
「この辺りの瘴気は、すべて祓ったはずだ。魔物はこれ以上、増加しなくなる。あとは残った魔物をすべて倒せば、この地は安全になるはずだ」
「すごいわね……。街の植物まで再生している……」
柔らかい母さんの声が、すとんと胸に落ちる。
この安心感に、思わず泣きたくなった。
母さんは真実を知っても、俺のことを嫌いにならないでいてくれた。
俺のことを信じて、家族として愛し続けてくれている。
俺はそんな母さんのことが、今も昔も大好きで仕方なかった。
「ザナフェル、すごいね。この周囲一帯の瘴気をすべて浄化するなんて」
その様子を見ていたミカエル兄様は、まるで耳朶をくすぐるように優しく微笑んだ。
「ああ~。お兄ちゃんは、がんばり屋なザナフェルのことをめちゃくちゃ愛しています」
その言葉に、少し照れくさそうにしていると。
ミカエル兄様の口から思わぬ一言が飛び出してきた。
「ザナフェルはお兄ちゃんのこと、どう思っている? もしかして、嫌いになっちゃった?」
「そんなことない」
俺はその言葉に首を横に振ると、想いを込めるように口にした。
「……ミカエル兄様のこと、嫌いになったことなんて、一度もない」
ぽつりと素直な声色をこぼす。
すると――。
「はううっ。……それって、それってつまり」
妙な声を上げながら、身をよじったミカエル兄様が催促する。
じわじわと恥ずかしさがこみ上げてきたけれど。
俺は観念したように思いの丈をぶつけた。
「前世でも、今世でも、ミカエル兄様のことが大切だってこと!」
やっと思いで口にした、その途端……。




