大切な存在①
「うーん。こんなことなら、前世の時みたいに、身近な人間に転生すれば良かった。兄弟とか、友人とか。そうすれば、何らかの接点があったよね。記憶がない時も」
ミカエル兄様はさも当たり前のように言う。
「まあ、いいか。どちらにしろ、お兄ちゃんがザナフェルのことをめちゃくちゃ愛しているのは変わらないから」
ミカエル兄様は瞳に意志を宿す。
誰よりも大切な存在だと――強い意志を。
決して譲れない想いを俺に示した。
「あっ、そうだ。一つだけ助言しておくね」
ミカエル兄様は人差し指を、俺たちの目の前でかざした。
「ダナー商会の足取りを探っているみたいだけど、森の向こうにはいないよ。ダナー商会が誤情報を流して、森の向こうにいるように仕向けているだけだから」
「なっ!」
明かされたその事実は、驚愕というより残酷だったと感じた。
ダナー商会。
表向きは普通の商会。
だが、裏では商品の優先的な仕入れや値段の吊り上げを仕向けてくる者たちだ。
さらに国の御用達商会でもあり、雇い主の依頼を遂行する裏稼業もしている。
うまく相手の懐に入って、雇い主にとって、有利な情報を引き出す。
ろくでもない商会だった。
彼らは、目的のためには手段を選ばない。
もし、スタン様が手に入れた情報が間違ったものだったとしたら。
スタン様たちを陥れ、不当な利益を得るために欺いたとしたら。
今回の森の調査は、意味を成さなくなる。
有力な情報をつかんだはずなのに、ダナー商会の掌で踊らされていたという事実。
つまり今回も、組織化した巧妙な者たち――ダナー商会によって、スタン様たちは足元をすくわれてしまったということだ。
「……最悪だ」
あまりに複雑すぎる想いに苛まれて、俺は表情を曇らせる。
俺がこの場で、元凶の瘴気を浄化するだけならば簡単だろう。
しかし、それだけではダナー商会の動きを止められない。
どうすれば……?
これからすることを考えあぐねていると、母さんがぽつりと言った。
「ライル、大丈夫よ。今までの調査は無駄じゃない。スタン様たちが調査してくれたおかげで、リンクス領の周辺の魔物は目に見えて減ったはずよ」
「……調査したことで、魔物の数が減った」
俺が噛みしめていると、母さんは優しく俺の手を握った。
「ライル、一人で抱え込まないで。私たちがいつでもそばにいる」
言い淀むこともなく、ただ真っ直ぐに見つめる瞳が、母さんの意思が変わらないことを伝えている。
「あなたのいる場所が、私たちのいる場所だから」
母さんはそう言って、俺を優しく抱きしめてくれた。
やっぱり、母さんの言葉は特別だ。
いつも、くじけそうになった時に力をくれる。




